汝平和を欲さば、戦への備えをせよ

汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」(なんじへいわをほっさば、いくさへのそなえをせよ、Si vis pacem, para bellum)は、ラテン語警句である。通常、「peace through strength」、すなわち「強さを通じた平和」を意味すると解釈される。

出典編集

この格言の出典は明らかになってはいない[1]。 しかし一般的には、ローマ帝国軍事学者フラウィウス・ウェゲティウス・レナトゥスIgitur qui desiderat pacem, praeparet bellum. の表現を変えたものとされている[2]390年ごろに書かれたとされる彼の論文「軍事論」に基づく数多くの格言の1つだと言われる。 この句が書かれているのは、軍事行動において準備を万全にしておくことの重要性を強調し、単なる偶然や数の優勢に頼ることをいましめた一節である。

したがって、平和を願う者は、戦争の準備をせねばならない。勝利を望む者は、兵士を厳しく訓練しなければならない。結果を出したい者は、技量に依って戦うべきであり、偶然に依って戦うべきではない[3]

孫子にも同様の表現が見られ、

百戦百勝は、善の善なる者にあらず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。 — 謀攻篇第三
子曰く、およそ善の善なる者は、其(敵)の来たらざるを恃むこと無く、我に以て待つあるを恃むなり。其(敵)の攻めざるを恃む事無く、我に攻むる所あるべからざるを恃むなり。 — 九変篇第八

と、抑止力としての軍隊の重要性を訴えている。

現代における派生表現編集

いずれにせよ、この格言はさらに以下のようなさまざまな変形を生むものとなり、多数の言語でさまざまな考えを表現するのに使われた。この格言をウェゲティウスのものとする筆者でも、その多くは実際の表現を挙げることもしない。

汝戦を欲さば、平和への備えをせよ (Si vis bellum para pacem)編集

例えば、ナポレオン・ボナパルト外交政策に関して、歴史家ブーリエンヌは次のように述べている[4]

誰でも知っている格言がある……もしボナパルトがラテン語に詳しければ、おそらく格言を逆さにして……Si vis bellum para pacem. (汝戦を欲さば、平和への備えをせよ)と言っただろう。

戦争をしようというのなら、平和をはぐくむことで他国を油断させねばならない、という意味である。あるいは別の解釈としては、平和にだけ備えていると他国から戦争をしかけられるおそれがある、富国強兵を達成するには国内の統一と安定が不可欠である、などという意味もありえる。

汝平和を欲さば、合意への備えをせよ (Si vis pacem para pactum)編集

 
1901年に開発された9 mmパラベラム弾。「パラベラム」(Parabellum)という名は、この拳銃実包を開発したドイツの兵器企業DWM(ドイツ武器弾薬工業)が、「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」(Si vis pacem, para bellum)を社のモットーとしていたことによる

アンドリュー・カーネギーが議長を務めた1907年の 全国仲裁平和会議 では、以下のように述べられた。

これら陸海の巨大な軍備は、戦争を行う手段ではなく、戦争を防ぐ手段なのだと言われている……しかしもっと安全な道もある……必要なのは各国政府の同意と善意だけだ。昨今は、平和を望むなら軍備を、と言われる。この議会は、民衆に代わってこう言う、Si vis pacem, para pactum、平和を望むなら、平和維持に賛同せよ、と[5]

汝平和を欲さば、戦をせよ (Si vis pacem fac bellum)編集

ドイツの平和主義作家、リヒャルト・グレリング英語版は、ウッドロウ・ウィルソンが1917年4月2日の議会開会前に際して行った「世界は民主主義にとって安全でなければならない」演説を引用し、以下のように著した。

他のあらゆる手段が失敗したとき...世界の軍事的圧制からの解放は、極端な場合だが、戦争に因ってのみ生じ得る。...Si vis pacem para bellumに代わって、近しい響きを持つ原則が必要になるかもしれない。Si vis pacem, fac bellum(汝平和を欲さば、戦をせよ)。[6]

用例編集

名称やシンボルのモチーフにしているもの編集

  • アメリカ空軍第34戦闘訓練部隊:記章の上部に本警句が記載されている。[7]
  • 9x19mmパラベラム弾:本警句に倣い名付けられた。
  • その他、パラベラムの項も参照。

脚注編集

  1. ^ 例えばダフ(Duff ,1899 )は、起源が明らかでないからと「それらしい」古典の著書を羅列し、「もっともふさわしいのはウェゲティウスだ」と記述している。
  2. ^ Book III, prologue, end.
  3. ^ "Igitur qui desiderat pacem, praeparet bellum; qui uictoriam cupit, milites inbuat diligenter; qui secundos optat euentus, dimicet arte, non casu." The Latin Library
  4. ^ De Bourrienne, p.418.
  5. ^ Bertholdt,p.333
  6. ^ Grelling, p. 208.
  7. ^ Home page for the 34th Combat Training Squadron”. www.littlerock.af.mil. 2022年3月28日閲覧。

関連項目編集

外部リンク編集