無資格マッサージ士問題

無資格マッサージ士問題(むしかくマッサージしもんだい)では、無資格のマッサージ師に関する問題について記述する。

日本では、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律の定めるところにより、あん摩マッサージ指圧師はり師きゆう師もしくは医師でなければ、人体に対して体表面から「触る・なでる・揉む・叩く・擦る・押す・身体の他動的操作および自動運動またはその誘導行為」など総ての手技行為や鋭利な器具や機械を使用した、皮膚上からの物理的刺激、もしくは皮膚を破ったり皮内に刺入したりすることによって皮下の筋肉や関節・血管・リンパなどの各組織に影響を及ぼす行為を業として行うことが出来ない。

「業」とは、「不特定多数に対して、反復継続の意思をもって施術を行うこと。その対価の授受は問わない」と定義されている。

目次

定義編集

無資格マッサージ師問題では必ず議題に上るのが定義である。本問題を停滞させない必須の項目である。

「無免許・無資格」の定義編集

  • 医療に関する国家資格を所持しない
  • 民間団体の発行する独自の資格の所持
  • 徒手ないしは器具による人体への刺激が医師の指示下に行わないと違法になる医療系国家資格の所持

医療免許は、国民衛生に関わる国家が権利と責任をもつインフラの基礎であり、個人への医療免許行使の権限は国家にあるので、あん摩マッサージ指圧師はり師きゅう師などの国家による免許を受けず、上記の項目などを根拠に医業類似行為を業とする者を、本項目では「無免許・無資格」もしくは「無免許者無資格者」と呼称する。

医業類似行為の定義編集

  • あん摩の術技の一部もしくは全部の行為
  • 尖端鋭利な器具や機械で皮膚を刺激する行為、もしくは、はり術と類似の術技の行為
  • 電機や光線療法や宗教的霊感暗示を応用した行為

療術の定義編集

  • 電気、光線、温熱、手技等による物理的、力学的な刺激を用いて治療や健康維持を目的に行われる民間療法の総称

無資格問題発生の経緯編集

按摩はりきゅう柔道整復等営業法の制定・施行編集

「按摩はりきゅう柔道整復等営業法」は昭和22年に制定され、翌23年に施行された。その際、これらの営業法上に認められなかった者、つまり、国が法律を持って身分法を制定し法律に規定した資格と条件を具備する者以外の者で、あん摩や、はり術の術技の一部もしくは全部の行為、類似の術技、また、尖端鋭利な器具や機械で皮膚を刺激する行為や電機や光線療法や宗教的霊感暗示を応用した行為により疾病への対処を行う業者は「療術士」もしくは「治療士」と自称した。現在は「整体士」と自称する者が多い。

按摩はりきゅう柔道整復等営業法の施行後は経過措置が設けられており、昭和23年2月以前に届け出ていた者に限り、昭和30年12月31日までの期限を設けて療術の営業が許されていた。だが、その裏で施行当時に12916名だった昭和23年2月以前に届け出ていた療術業者が年々増加しており、昭和28年に発覚した時には、1万余人の療術士が4万人に達するという奇怪な事態になっていた。その後、8万人にまで膨れ上った療術業者らは、昭和29年に「療術師法」制定を目指して一大運動を展開した。

だが、当時の医師・あん摩師などの医療行為者は療術師法制定に反対の立場であり、厚生省も国民の保健や公衆衛生面からどう裁くか苦慮していた[1] が、結局、全国鍼灸按マッサージ師連合会の断食闘争などの徹底抗戦によって、昭和30年7月30日。原案通り法案は可決され単独立法化は阻止された。

療術師法制定反対運動の決着がついた後、特例により、昭和23年2月以前に3カ月以上、業を行って届出をしていた者に対して、昭和31年1月1日 - 昭和33年12月31日の間に講習会が開催され、修了者に「あん摩師試験」が行われた。

その後、昭和33年には更に3年間の猶予期間が設けられたが、昭和35年の最高裁判決にほぼ方向性は決定付けられ、昭和39年6月25日の参院本会議での「あん摩師法改正の附帯決議」[2]により、前述した「昭和23年2月以前に3カ月以上、業を行って届出をしていた者に対して療術業務の期限撤廃」が決定し、現在に至る。だが、新規開業は認められていない。

その後も数度、平成8 - 10年にも「療術の法制化の請願」が国会に4回提出されているが、全て審査未了に終わっている。

名称変更運動編集

それまでのあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律には、あん摩・マッサージ・指圧の定義がしっかりと記載されていなかったため、○○式マッサージなどの「無資格マッサージ師」の営業を許す原因になっていた。しかしマッサージが欧米より日本に伝わって以降、手技自体ははっきりと技術体系化されている。現法律策定時にもマッサージの技術定義は文章化できなくとも、日本国民は当然の如く理解していたことであった。[3]なおカイロプラクティックは厚生労働省の通知において「脊椎の調整を目的とする点において、あん摩、マッサージ又は指圧と区別され、したがって、あん摩、マッサージ又は指圧に含まれないものと解する」とされている。

1990年代には、全日本鍼灸マッサージ師会は会報のタイトルを「鍼灸手技療法斯界通信(現在は『月刊 東洋療法』)」に改め、筑波大学附属視覚特別支援学校も鍼灸マッサージ師のための職業課程を理療科から鍼灸手技療法科に改めるなど、とくに視覚障害者が関与する現場では、あん摩・マッサージ・指圧を統合した呼称変更への動きがあり、あん摩マッサージ指圧師という資格と現実に発生している事態との乖離の是正と法律遵守の観点から、これらの治療を一括した呼称にすべきとする資格名称の変更運動が1990年代後半より行われた時期があった。 だが、理学療法士団体も同様に名称変更すべく活動したり、それらをいち早く聞きつけた業者が商標申請するなど、商業的・政治的思惑が大きく絡まったことにより名称変更は混迷を呈し、2000年半ばには運動は霧散した。

社会問題として編集

医療過誤問題編集

医療事故は、あん摩マッサージ指圧の施術所を含めた医療を行う場所でのあん摩マッサージ指圧師など国家資格をもつ医療者の治療行為によって、何らかの原因が重なって発生するものである。 だが、民間療法は現代日本の医療制度上の医療ではなく、また「人の健康に害を及ぼす虞のない業務行為」でなければならないので、医療というカテゴライズの中での医療過誤の発生はありえない。

行政の対応編集

昨今、厚生労働省の指定する教育施設での医学科目を履修していない無資格者も増え、エビデンスのない違法な診察診断行為によって医療機関への適切な受診が妨げられる事態が発生していた。 そこで2006年に厚生労働省・医政局医事課から「無資格者によるあん摩マッサージ指圧業等の防止について」[4]という通知が出された。だが、無資格者による施術所内での事故[5]無資格者による乳児への施術での死亡事故[6]も実際に発生しており、これら度重なる事故の報告から、2012年になって漸く国民生活センターから「手技による医業類似行為の危害」[7]と題した発表があり、国民へ注意を呼びかけるようになった。 上記の無資格者への刑事処分も行われており、施術所内での「無資格者の施術禁止」の通達を出した地方厚生局もあり、今後の無資格診療に対しては、一層の厳しい取締や処分が行われるであろうことが予想される。

両者の主張編集

戦後の国の資格制度改正に伴い、特例による講習を修了した者に「あん摩師試験」が特例で施行されたが、試験に合格できなかった療術士からは、以下のような主張がある。

無資格マッサージ師の主張編集

  • 医療ミスは医療資格者におこるもので現行法上は医療以外の行為に対して民間療法が認められている。それなのに国家資格を有する医療者による一方的な民間療法の差別や執拗な整体・カイロプラクティック撲滅運動を受けている。そのような民間療法への差別や撲滅運動は、医療行為に携わる医療資格者にとって恥ずべき行為であり慎まなければならない。無資格マッサージ師問題は、療術が按摩マッサージと学術的に異なることを示唆[要出典]している。

有資格者の反論編集

これに対して、あん摩マッサージ指圧師などの有資格者からは以下のような反論がなされる。

  • 医療はインフラの一部である:医療はライフラインなどと同様にインフラストラクチャーの一部であり、国民衛生に直接、関わる問題であることから、「一定水準の教育基準を設けて、免許を与える権利」と「管理を行う責任」は当然、国家に帰結するので、医療従事者には国家資格が必要である。
  • 判例・通達の新規開業への誤用:昭和33年の最高裁判決「人の健康に害を及ぼす虞…」の箇所だけが取り沙汰されて一人歩きしているが、この判決の要旨は「…であるから、免許制度が必要であり職業選択の自由には反しない」というものであり、この判決以降の医業類似行為の可否を述べるものではない。この判決に伴う医業類似行為者(=療術士)への経過措置の期限撤廃は既に行われており[2]、それらは全て昭和23(1948)年2月以前に3カ月以上、業を行って届出をしていた者への経過措置であり、新規開業は許可されておらず、新規開業を行えば違法である。仮に、これらの仕事が乳幼児に出来たとしても60歳未満の療術業者はいないはずである。
  • 業界の慣習:ある特定の療法に従事するための免許が無いなど特段の事情が無い限り、あん摩などの医療業界では原則、民間資格を「資格・免許」とは呼ばない
  • 無免許・無資格:前述された「医療インフラに対する国家の権利責任論」から、「民間療法」の指導を行う任意団体が認定・発行する免許は資格ではない。
  • 術技の著しい類似性:療術行為で行われる全ての技法は、「揉む・叩く・擦る・押す・身体操作やその誘導」といった、あん摩・マッサージ・指圧で行われる一連の技術体系の範疇に含まれており、無資格者による手技療法は脱法行為である。
  • 主張の矛盾:学術的に異なる医療ではないものに対して、一体どういった理由によって医療者からの差別や撲滅運動が行われるのか。社会通念上で考えれば、無資格者の行為は医業に類似した行為であり、国家資格などで社会的に担保されていない者が行えば有害であるから危険な行為であるがために、国民衛生を考えて撲滅運動が起きるのであり、その行為は医療とは区別される。
  • 2012年の「鍼灸マッサージ制度を守る緊急決起集会」では、「法治国家である我が国があはき師法をそのままにしておく(という)あたかも法律を放置し(たような措置を採ったがために)、(鍼灸マッサージの)職域が益々侵されている」として、参加した国会議員に対して無免許者の徹底排除を訴えている。[8]

中立的視点編集

  • いずれの主張にしろ、親族の荷物を車で運搬してガソリン代などを受け取る行為や子供が尊属の肩もみへの対価として駄賃を受け取る行為に対して、それぞれに運送事業法あん摩マッサージ指圧師法の違反を問うかと言えば、親族同士内々の話であるとか子供に対して大人気ないなどの人情的な事情で問わないのが実情である。ただ、それらが許されるからと知人であることを利用して不特定多数に継続してマッサージ業務を行えば、法の判断に委ねる必要が生じる。
  • この問題は、厳格な法運用を求めて悪戯(いたずら)に失業者を増やすのか、それとも、異常な拡大解釈を赦して法を遵守する者の職業生活権)を奪うのか、それとも、このまま放置して国民同士のいがみ合いを継続させるのか、法治国家・日本の行政手腕が問われる複雑な三択問題である。

脚注編集

  1. ^ 昭和30年5月2日京都新聞夕刊・「医業類似行為の規制とは」
  2. ^ a b 「あん摩マッサージ指圧師法」への名称変更時の附帯決議のこと。 昭和22年の「あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法」制定時、経過措置による届け出を行なった療術(=医業類似行為)業者について期限を原則として撤廃。 「真にやむを得ない事由によって経過措置による所定の届け出ができなかった」と当局が認めた者が、この「改正法律の施行の口から六カ月以内に所定事項を届け出たとき」は「経過措置によって届け出をした者と同様とする」という決議。昭和22年11月から64年有余の間、療術業を継続している者には経過措置が適用される。
  3. ^ 法定義されていない理由として、当時手技を使って人体表面を刺激する他の手技療法が、あん摩マツサージ指圧師が行う手技療法以外日本国内には存在せず、わざわざ「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」で法定義をする必要が無かったのがその理由である。
  4. ^ 無資格者によるあん摩マッサージ指圧業等の防止について
  5. ^ 無資格鍼治療死亡事件
  6. ^ ズンズン運動
  7. ^ 手技による医業類似行為の危害-整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も-
  8. ^ 「月刊 東洋療法・216号」

参考文献編集

  • 『道を知り道を創る』 (社)大阪府鍼灸マッサージ師会 法人化50周年記念誌