硝酸ニッケル(II)(しょうさんニッケル、nickel nitrateニッケル硝酸塩で、化学式Ni(NO3)2で表される無機化合物。水に易溶で、水溶液は緑色となる。通常、硝酸ニッケルといえば硝酸ニッケル(II)の水和物を指す。硝酸ニッケル(II)の六水和物の化学式の表示にはNi(NO3)2.6H2O と[Ni(H2O)6](NO3)2の二通りあり、後者はニッケル分子が水分子に囲まれアクア錯体を形成し、直接硝酸イオンに結合していないことを示す。他のニッケル(II)誘導体の水配位子交換に有用な前駆物質である。

硝酸ニッケル(II)
Nickel(II) nitrate
識別情報
CAS登録番号 13138-45-9 チェック
13478-00-7 (六水和物)
PubChem 25736
EC番号 238-076-4
特性
化学式 Ni(NO3)2
モル質量 182.703 g/mol (無水物)
290.79 g/mol (六水和物)
外観 吸湿性のある緑色の結晶
密度 2.05 g/cm3 (六水和物)
融点

56.7 ℃ (六水和物)

沸点

136.7 ℃ (六水和物)

への溶解度 94.2 g/100ml (20℃)
158 g/100ml (60℃)
溶解度 エタノールに可溶
構造
結晶構造 単斜晶 (六水和物)
熱化学
標準生成熱 ΔfHo −415.1 kJ mol−1[1]
危険性
安全データシート(外部リンク) External MSDS
EU分類 Oxidant (O)
Carc. Cat. 1
Muta. Cat. 3
Repr. Cat. 2
Toxic (T)
Harmful (Xn)
Irritant (Xi)
Dangerous for the environment (N)
EU Index 028-012-00-1
NFPA 704
0
2
0
OX
Rフレーズ R49, R61, R8, R20/22, R38, R41, R42/43, R48/23, R68, R50/53
Sフレーズ S53, S45, S60, S61
引火点 不燃性
半数致死量 LD50 1620 mg/kg (ラット, 経口)
関連する物質
その他の陰イオン 硫酸ニッケル
塩化ニッケル(II)
その他の陽イオン 硝酸パラジウム(II)
関連物質 硝酸コバルト(II)
硝酸銅(II)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

製法 編集

酸化ニッケル(II)または水酸化ニッケル(II)希硝酸に溶解し、溶液を濃縮すると六水和物が析出する[2]

 
 

無水物は六水和物に純硝酸と五酸化二窒素の混合物を作用させると得られる[3]

 

性質 編集

無水物は淡緑黄色結晶で潮解性をもつ。

六水和物は淡緑色結晶で単斜晶系に属し、湿気の多い場合は潮解性、少ない場合は風解性を示す。加熱により結晶水を部分的に失って二水和物となり、さらに硝酸を失い塩基性塩を経て酸化ニッケルになる[4]

用途 編集

触媒や、ニッケル・水素充電池ニッケル・カドミウム蓄電池の原料として用いられる[5]

安全性 編集

自体は不燃性であるが、他の硝酸塩と同様に酸化性を持ち、可燃物マグネシウム硫黄などと激しく反応する。眼や皮膚に対し刺激性があり、皮膚への接触や吸入によりアレルギー反応を示す。他のニッケル化合物と同様、発癌のおそれがある[6]

脚注 編集

  1. ^ D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982).
  2. ^ 日本化学会編 『新実験化学講座 無機化合物の合成II』 丸善、1977年
  3. ^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年
  4. ^ 田川 博章 (1987). “硝酸塩の熱分解”. 横浜国立大学環境科学研究センター紀要 14: 41. 
  5. ^ 製品評価技術基盤機構[リンク切れ]
  6. ^ 化学物質等安全データシート(昭和化学株式会社) (PDF)