硫酸銅(II)(りゅうさんどう に、: copper(II) sulfate,sulphate、化学式 CuSO4)は、(II)イオンと硫酸イオンのイオン化合物である。

硫酸銅(II)
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CuSO
4
 · 5H2Oの結晶
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  , Cu
  硫黄, S
  酸素, O
  水素, H

五水和物の構造の一部
(Cu(H
2
O)2+
4
中心に結合する硫酸)
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CuSO
4
 · 5H2Oの結晶構造単位格子
黒の破線は水素結合[1]
識別情報
CAS登録番号 7758-98-7 (無水物) チェック, 7758-99-8 (五水和物) チェック, 16448-28-5 (三水和物) ×, 19086-18-1 (七水和物) ×
PubChem 24462
ChemSpider 22870 チェック
UNII KUW2Q3U1VV (無水物) チェック, LRX7AJ16DT (五水和物) チェック
EC番号 231-847-6
KEGG C18713 チェック
ChEBI
ChEMBL CHEMBL604 チェック
RTECS番号 GL8800000 (無水物)
GL8900000 (五水和物)
Gmelin参照 8294
特性
化学式 CuSO
4
(無水物)
CuSO
4
 · 5H2O (五水和物)
モル質量 159.60 g/mol (無水物)[2]
249.685 g/mol (五水和物)[2]
外観 灰白色(無水物)
青色(五水和物)
密度 3.60 g/cm3 (無水物)[2]
2.286 g/cm3 (五水和物)[2]
融点

110℃ で分解
560℃で分解[2](五水和物)
590℃で分解 (無水物)

沸点

650 °Cで酸化銅に分解

への溶解度 五水和物
316 g/L (0 °C)
2033 g/L (100 °C)
無水物
168 g/L (10 °C)
201 g/L (20 °C)
404 g/L (60 °C)
770 g/L (100 °C)[3]
溶解度 無水物
エタノールに溶けない[2]
五水和物
メタノールに溶ける[2]
10.4 g/L (18 °C)
エタノールとアセトンに溶けない
磁化率 1330·10−6 cm3/mol
屈折率 (nD) 1.724–1.739 (無水物)[4]
1.514–1.544 (五水和物)[5]
構造
結晶構造 直方晶系 (無水物, カルコシアナイト), 空間群 Pnma, oP24, a = 0.839 nm, b = 0.669 nm, c = 0.483 nm.[6]
三斜晶系 (五水和物), 空間群 P1, aP22, a = 0.5986 nm, b = 0.6141 nm, c = 1.0736 nm, α = 77.333°, β = 82.267°, γ = 72.567°[7]
熱化学
標準生成熱 ΔfHo −769.98 kJ/mol
標準モルエントロピー So 5 J/(K·mol)
危険性
安全データシート(外部リンク) anhydrous
pentahydrate
GHSピクトグラム 腐食性物質急性毒性(低毒性)水生環境への有害性
GHSシグナルワード 危険(DANGER)
Hフレーズ H302, H315, H318, H319, H410
Pフレーズ PP264, PP264+P265, PP270, PP273, PP280, PP301+P317, PP302+P352, PP305+P351+P338, PP305+P354+P338, PP317, PP321, PP330, PP332+P317, PP337+P317
NFPA 704
0
2
1
引火点 不燃性
許容曝露限界 TWA 1 mg/m3 (as Cu)[9]
半数致死量 LD50 300 mg/kg (経口, ラット)[8]

87 mg/kg (経口, マウス)

関連する物質
その他の陽イオン
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

性質

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無水物は白色の粉末である。水和物として、有名な青色の三斜晶系結晶(五水和物)の他に、一水和物、三水和物、七水和物があり、水に易溶で水溶液は青色を示す。中学校および高校理科の実験に用いられることから馴染み深い化合物である。しかし、重金属であるによる毒性があるために取り扱いには注意を要し、毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されている[10]

五水和物で、特に鉱物として自然産出するものは、胆礬(たんばん)とも呼ばれている。これは銅山の古い坑道の内壁などで、地下水から析出して結晶となっているものを得ることができる。主に霜柱状、若しくは鍾乳石状の形で産出することが多い。銅の錆である緑青にも含まれる。三水和物はボナッティ石 (Bonattite)[11]、七水和物はブース石英語版[12]として産出するが希少である。

無水物の製法

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硫酸銅(II)水和物の加熱脱水で得られる、白色粉末状の物質である無水物は、脱水時に加熱しすぎると更に反応が進み、黒色の酸化銅(II)三酸化硫黄に分解する。無水物をつくる際は火加減に十分注意しなければならない。

  • 脱水 :  
  • 分解 :  

硫酸銅(II)五水和物を加熱すると、すぐに結晶から結晶水由来の水分がにじみ出てくるが、質量を測定している場合は決してガラス棒などで触れてはいけない。なぜなら、ガラス棒などで触ると、にじみ出た水に溶けている硫酸銅(II)がガラス棒に付着し、その分だけの重さが減るためである。

用途

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水溶液は銅めっきや銅の電解精錬電解液エッチング顔料殺菌剤ボルドー液)の原料、媒染剤防腐剤、糖検出薬であるフェーリング液ベネジクト液の原料、血液の比重検査などに用いられる。無水物は強力に水を吸着するので、アルコール類を厳密に乾燥させるときの脱水剤として用いられる。また、水溶液の溶解度が温度によって大きく変化するので、飽和水溶液の冷却による再結晶が容易であり、また五水和物の結晶が美しいことから、大結晶の成長実験が理科教育の実験教材としてしばしば取り上げられる。殺菌作用を持ち、熱帯魚や海水魚を飼育する際の白点病の治療薬として用いられることもある。ビウレット反応で使われることもある。

銅は微量必須元素であるが、ほとんどの食物に含まれており銅の欠乏症は起こらない。ただし、人工乳に100%依存する乳児では母乳代替食品に銅の添加が必須であり、他の銅塩より水溶性の高い硫酸銅が、指定された濃度以下での食品添加物として認められている[13]。同様に、人工栄養補給に依存する患者に対する必須元素である銅の補給のために用いられる[14]

薬用としては、化膿皮膚疾患おでき)のを排出させる吸出膏である「たこの吸出し[15]の主成分である[16]

殺虫剤などにも使用されるが、収穫後色落ちしたオリーブに鮮やかな緑色を着けるため、不法に硫酸銅をコーティングする事例も見られる[17]

脚注

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  1. ^ Varghese, J. N.; Maslen, E. N. (1985). “Electron density in non-ideal metal complexes. I. Copper sulphate pentahydrate”. Acta Crystallographica Section B 41 (3): 184–190. doi:10.1107/S0108768185001914. 
  2. ^ a b c d e f g Haynes, p. 4.62
  3. ^ Rumble, John, ed (2018) (英語). CRC Handbook of Chemistry and Physics (99th ed.). CRC Press, Taylor & Francis Group. pp. 5–179. ISBN 9781138561632 
  4. ^ Anthony, John W.; Bideaux, Richard A.; Bladh, Kenneth W. et al., eds (2003). “Chalcocyanite”. Handbook of Mineralogy. V. Borates, Carbonates, Sulfates. Chantilly, VA, US: Mineralogical Society of America. ISBN 978-0962209741. http://rruff.info/doclib/hom/chalcocyanite.pdf 
  5. ^ Haynes, p. 10.240
  6. ^ Kokkoros, P. A.; Rentzeperis, P. J. (1958). “The crystal structure of the anhydrous sulphates of copper and zinc”. Acta Crystallographica 11 (5): 361–364. doi:10.1107/S0365110X58000955. 
  7. ^ Bacon, G. E.; Titterton, D. H. (1975). “Neutron-diffraction studies of CuSO4 · 5H2O and CuSO4 · 5D2O”. Z. Kristallogr. 141 (5–6): 330–341. Bibcode1975ZK....141..330B. doi:10.1524/zkri.1975.141.5-6.330. 
  8. ^ Cupric sulfate. US National Institutes of Health
  9. ^ NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards 0150
  10. ^ 富山大学・基礎物性工学研究室 「MSDS 硫酸銅(II)五水和物」
  11. ^ Bonattite, mindat.org
  12. ^ Boothite, mindat.org
  13. ^ 厚生労働省 「各添加物の使用基準及び保存基準」
  14. ^ KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes 「医療用医薬品: ミネラミック」
  15. ^ 東京都薬剤師会・北多摩支部 「たこの吸い出し」
  16. ^ 沖縄県 薬事法による特例販売業の許可の基準
  17. ^ 硫酸銅まぶしたオリーブや偽オリーブ油を押収、イタリア警察ロイター、2016年2月4日

関連項目

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外部リンク

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