葛飾区窃盗放火事件

日本の窃盗及び放火事件

葛飾区窃盗放火事件(かつしかくせっとうほうかじけん)とは、2009年9月に東京都葛飾区で発生した窃盗及び放火事件。

最高裁判所判例
事件名 住居侵入,窃盗,現住建造物等放火被告事件
事件番号 平成23(あ)670
2012年(平成24年)9月7日
判例集 刑集66巻9号907頁
裁判要旨
  1. 前科証拠は,自然的関連性があることに加え,証明しようとする事実について,実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに証拠能力が肯定され,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合は,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであるときに証拠能力が肯定される。
  2. 被告人の現住建造物等放火等の前科に係る証拠を被告人と起訴に係る現住建造物等放火の犯人の同一性の証明に用いることは,前科に係る犯罪事実に顕著な特徴があるとはいえず,同事実と起訴に係る犯罪事実との類似点が持つ両者の犯人が同一であることを推認させる力がさほど強いものではないなどの事情の下では,被告人に対して放火を行う犯罪性向があるという人格的評価を加え,これをもとに被告人が犯人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく,許されない。
第二小法廷
裁判長 竹﨑博允
陪席裁判官 竹内行夫 須藤正彦 千葉勝美
意見
多数意見 全員一致
意見 なし
反対意見 なし
参照法条
(1,2につき)刑訴法317条,刑訴法379条
テンプレートを表示

概要

編集

2009年9月、東京都葛飾区のアパートの一室から火災が起きた。検察は、空き巣に入り現金1000円を盗んだうえに、ストーブ内の灯油をまいて火をつけたとして、被告を窃盗罪住居侵入罪現住建造物等放火罪で起訴して、求刑懲役7年とした。

被告は窃盗については認めたものの放火については否認。2010年7月の1審・東京地裁は窃盗罪、住居侵入罪については有罪としたが、被告が放火をしたとは断定できないとして現住建造物等放火罪については無罪として、懲役1年8か月とした[1]。検察側は、この事件に対して被告の前科に関する証拠を提出しようとしたが、裁判長が被告の前科は特別な犯行とは言えず、裁判員に先入観を与える恐れがあるとして被告の前科に対しての証拠採用を拒否した。

検察側は控訴したが、2011年3月29日の2審・東京高裁は1審で被告の前科に対しての証拠採用を拒否したのは違法だとして、1審・東京地裁への差し戻しを命じた[2]。東京高裁は、被告の前科は現金を十分盗めなかった場合にうっぷんを晴らすために灯油をまいて放火するということをしており、今回の犯行と似ていると述べた。1審の裁判員判決に対して2審が差し戻しを命じるのは初。弁護側はこの判決に対して上告した。

上告審で最高裁は弁論を開くことを決め、2012年7月20日に最高裁第二小法廷(竹﨑博允裁判長)で開廷した。弁護側は「室内に灯油をまいて火を付けるのは犯人を識別できるほどの手口とはいえず、前科を証拠とするのは許されない」と、検察側は「手口に類似性があり、前科を間接証拠とするのは相当」と主張し、結審した。9月7日の判決で、最高裁は前科の証拠採用について「顕著な特徴があり、起訴事実と相当程度の類似が認められた場合にのみ許される」という初判断を示し二審判決を破棄、東京高裁に差し戻した。

差し戻し控訴審で、東京高裁(小川正持裁判長)は2013年1月10日、一審を支持し検察側控訴を棄却した[3]

脚注

編集
  1. ^ 住居侵入有罪、放火罪は認定せず 東京地裁の裁判員判決 47NEWS 2010年7月8日
  2. ^ 裁判員判決、初の差し戻し 放火罪で東京高裁 47NEWS 2011年3月29日
  3. ^ 差し戻し審も放火「無罪」 前科立証めぐる事件で控訴棄却 東京高裁 MSN産経ニュース 2013年1月11日時点でのアーカイブ 2013年1月10日

参考文献

編集
  • 2011年3月30日朝日新聞