1792年銘1ダイム銀貨銅打。

試鋳貨幣(しちゅうかへい)は、新貨幣を発行する前に様々な図案、直径などの形式のものの中から新貨幣に採用すべきものを決定するにあたり試作される貨幣である。試作貨幣(しさくかへい)ともいう。このため通常は市場で使用されることは無い。

また、流通を前提として製造されたが、何らかの事情により発行には至らなかった不発行貨幣(ふはっこうかへい)とは異なるが、不発行貨の製造が少量にとどまり事実上の試鋳貨幣となることもある。

概要編集

貨幣(硬貨)の量目や材質は、本位貨幣制度の下では法令で定められていた。現在の日本では法令で定められているのは貨幣の額面であり、量目や材質などの様式は政令で定められている。

一方で貨面の模様や直径などの様式は法令、政令で定められているわけではなく、造幣局内で試作を重ねたうえで幾つかの候補の中から決定される。ここで試作される貨幣が試鋳貨幣である[1]

試鋳貨幣の例編集

江戸時代編集

江戸時代は基本的にはがそれぞれの貨幣単位で変動相場で通用する三貨制度であったが、江戸時代後半から幕府の財政逼迫により出目を目的とした様々な定位貨幣が発行されるようになり、その際試作されたと思われる試鋳貨幣が現存している。

宝永5年(1708年)に寳永通寳が鋳造される際にも二字「寳永」や「永十」と鋳出された試鋳貨幣が造られている[2]。幕末には各藩が様々な貨幣を密鋳したが、これらは地方貨幣と呼ばれ、これにも試鋳貨幣や、名目上は流通用であっても事実上は天保通寳などの出目の大きな銭貨を密造するための隠れ蓑として鋳造された土佐通寳や琉球通寳などもあった[3]

近代日本編集

試鋳貨幣の制作枚数は少なくとも2~3枚、多くとも10枚には達しないものと思われる[4]明治4年(1871年)の新貨条例の公布を前に、造幣局において様々な試鋳貨幣の制作が行われ、初期のものとしては本位貨幣を前提とした一圓銀貨、補助貨幣を前提とした十圓、五圓、二圓半金貨、半圓、四分一、十分一銀貨[注釈 1]などの凹彫刻のものがあった[5]。これらは加納夏雄の肉彫により制作されたものであり、その見本貨幣は極印作成のためイギリスに送られたが、当時造幣寮の建築指導に当たっていたウォートルスはこの見本貨幣を見てその技術に驚嘆し、「これほどの名工がいるのに、わざわざイギリスに極印を外注する必要はあるまい」と述べたと言われる[6][7]

新貨条例公布により、本位金貨および補助銀貨が製造発行されたが、1銭、半銭、1厘の銅貨に付いては制定はされたものの、銅貨製造所の建設遅れのため本格的製造には至らず、少量の試鋳貨幣程度の製造にとどまった[8][9]。貨幣の形式改正に伴う試鋳貨幣としては「1RIN」の代わりに「1MIL」と刻まれた一厘銅貨、通常のものとは模様が異なる明治七年(1874年)の五圓金貨、明治七年の試作貿易銀などが存在する[1][10]

アメリカ編集

1879年銘フローイングヘアのステラ。
1880年銘コイルドヘアのステラ。
1879年銘ステラパターンのダブルイーグル。

アメリカ合衆国では、1792年に貨幣法(Coinage Act of 1792)が制定され、フィラデルフィア造幣局が設置されるにあたって、1ダイム銀貨1/2ダイム銀貨などの試鋳貨幣が制作されたが、一般流通を前提としないため銀貨の試作であってもなど異なる金属で造られた。

アメリカの本位金貨イーグル(10ドル金貨)が基本で、1/2イーグル(5ドル金貨)および1/4イーグル(2.5ドル金貨)、およびダブルイーグル(20ドル金貨)が主流であったが、ラテン通貨同盟への直結を意識しフランスナポレオン金貨20フランに相当するものとして、1879年から1880年にかけてステラ(4ドル金貨)が試作された。

この金貨は品位900/1000や量目の点で通常金貨とは異なり、金貨の表面に両目と構成金属、アメリカの州を表す「★6★G★.3★S★.7★C★7★G★R★A★M★S★」の文字が刻まれている。

ただし、試鋳貨幣としては比較的多く鋳造され、一般流通用金貨と同様に扱う見方もある[11]

試鋳貨幣の例
  
ソビエト連邦
1925年・10ルーブル
 
ソビエト連邦
1929年・50カペーク
 
オーストリア
1976年・1000シリング
 
アメリカ
1936年・1ドル

脚注編集

注釈編集

  1. ^ これらの額面はアメリカの貨幣に準じたものである。

出典編集

参考文献編集

  • 青山礼志『新訂 貨幣手帳・日本コインの歴史と収集ガイド』ボナンザ、1982年。
  • 塚本豊次郎『貨幣沿革図録』愛久商会、1920年。
  • Chester L. Krause and Clofford Mishler, Colin R. Brucell (1989). Standard catalog of WORLD COINS. Krause publications.. 
  • 『日本の貨幣-収集の手引き-』日本貨幣商協同組合、日本貨幣商協同組合、1998年。