選択乗車(せんたくじょうしゃ)は、鉄道や路線バスの特定の区間において複数の経路や事業者線が存在する場合、いずれかを旅客の任意により選択して乗車できるようにした乗車券の制度である。

  1. 指定された複数の経路
    指定された2つ以上の経路の中から任意に選択して乗車できる制度。
    複数の事業者間で運賃・乗車券を共通化したものは共通乗車制度と呼ぶ。
  2. 券面に記載されたものとは異なる経路
    券面とは異なる経路に乗車しても良いとし、その差額の精算は行わない特例。

暫定的に2について、とりわけJRの旅客営業規則上の「選択乗車」について説明する。

概要 編集

JR各社の「旅客営業規則」157条に以下のように規定されている(第2項以下は大都市近郊区間を参照。)。

旅客は、次の各号に掲げる各駅相互間を、普通乗車券又は普通回数乗車券(いずれも併用となるものを含む。)によって旅行する場合は、その所持する乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、各号の末尾に記載した同一かっこ内の区間又は経路のいずれか一方を選択して乗車することができる。ただし、2枚以上の普通乗車券又は普通回数乗車券を併用して使用する場合は、他方の経路の乗車中においては途中下車をすることができない

経路特定区間との違い 編集

経路特定区間と類似した制度であるが、以下のような違いがある。

  • JRはいずれの経路に基づく運賃で乗車券を発券してもよい。経路特定区間の場合はいずれの経路をとる場合でも指定された(短い)経路に基づく運賃計算となる。これは、経路特定区間が運賃計算の特例であるのに対し、選択乗車が乗車券の効力の特例であることから起こる差異である。
  • 徒歩や他の交通機関で連絡することを前提に、片方の経路が(JR線としては)途切れるものがあるが、途切れた区間についてはJRの乗車券には含まれない。かつては在来線同士(例:天王寺駅 - 大阪駅間では大阪環状線のほか、JR難波駅から他の交通機関で大阪駅との間を移動することも可能であった)も存在したが、現在は新幹線が関わる区間(例:新神戸駅神戸駅を同一駅とみなす)だけとなっている。
  • 経路によっては選択乗車中の途中下車が認められない場合がある。
  • 定期乗車券には適用されない。
  • 経路特定区間は特急料金・グリーン料金などの料金計算にも適用されるが、選択乗車は乗車券の効力であり、料金券には適用されない。
  • 経路特定区間は両端の1駅ずつに対する規定だが、選択乗車は区間(複数の駅)が対象となっている場合がある。
    • 経路特定区間は両端以外の区間内の駅から乗車する場合は対象とならないが、選択乗車の場合は長崎本線旧線のように両端以外の区間内の駅でも対象になり、大回り乗車をしても短い経路に基づく運賃計算になる場合がある。

経路特定区間は市販の時刻表に掲載されているが、選択乗車は掲載されていない。なお、選択乗車制度の詳細については直接JR駅の係員に確認するか、「旅客営業規則」を閲覧するなど別の方法で確認する必要がある。

JR以外の類似の制度 編集

JR以外の日本の鉄道事業者では、路線網が比較的限定的であるほか、該当する場合でも普通乗車券や回数乗車券においては最安となる経路で運賃を計算できる場合が多く、このような特例は設定されていない場合が多い。東武鉄道のように、環状となっている区間をいずれの経路でも営業キロが同一となるように調整している例もある。ICカード乗車券や磁気カード乗車券では常に最短経路で運賃が計算されるため、選択乗車が常に可能である。

阪急電鉄の場合、環状線となっている宝塚線神戸線今津線の区間内発着については発着駅間が最短10km以上の場合、選択乗車が可能である[1]。ICカード乗車券や磁気カード乗車券では距離に関係なく、環状線区間外発着であっても選択乗車が常に可能である。

また、区間を指定する定期券については、本制度と同様の特例が制定されている場合がある。

  • 近畿日本鉄道 : 大阪方面へ複数の経路をとることが可能な区間を発着するものについて一部で認められているほか、大阪方面への路線が近接する特定駅について認められている事例もある[2]
  • 東京地下鉄(東京メトロ) : 同一駅または同一駅と見做される相互間のうち、事業者が定める区間について認められている[3]

脚注 編集

  1. ^ 旅客営業規則等のご案内 - 阪急電鉄(2022年2月11日閲覧)
  2. ^ 通勤定期券の選択乗車制度 - 近畿日本鉄道(2013年11月19日閲覧)
  3. ^ 通勤・通学定期券 - 東京地下鉄(2013年11月19日閲覧) ※有効区間の項目を参照

外部リンク 編集