電子殻

ボーアの原子模型において、原子核を取り巻く電子軌道の集まり

電子殻でんしかく: electron shell)は、ボーアの原子模型において、原子核を取り巻く電子軌道の集まりをいう。言わば電子の収容所のことで、それにいかに電子が入っているかを示すのが電子配置である。実際の電子軌道は必ずしも球状ではなく、このモデルも厳密には正確ではない。しかし、原子に束縛された電子の状態を理解する上で重要なモデルである。

概要 編集

電子殻は主量子数   ごとに複数の層を構成しているとみなされ、エネルギー準位の低い方からK殻・L殻・M殻・N殻・O殻・P殻…と呼ばれている。電子殻それぞれに入ることのできる電子の数は   個に等しい。ここで示す電子収容数はあくまで計算値であり、各電子殻上で32個より多く電子をもつ原子は発見されていない。

電子殻は一つ以上の「小軌道[1]」(electron subshell) より構成され、各小軌道での電子収容数の和がその電子殻での収容数となる。次節参照。

電子は、量子数の小さい電子殻から順に入ることになっている。このため電子殻の数は、元素によってそれぞれ異なり、元素の周期を決定する要素となる。それぞれの原子の最も外側の電子殻の電子を最外殻電子ともいい、希ガスを除きしばしば価電子の役割をする。

電子殻に収納可能な電子数
主量子数 n 電子数 2n2 小軌道
K殻 1 2 s
L殻 2 8 s+p
M殻 3 18 s+p+d
N殻 4 32 s+p+d+f
O殻 5 50 s+p+d+f+g
P殻 6 72 s+p+d+f+g+h
  • 電子殻のアルファベットがKから始まるのは、発見当初はまだこれより小さい殻があると考えられていたため、10個分の予約を確保し、11個目のKがあてられた。しかし、K殻よりも小さい殻は発見されなかった。
  • 英版(英語圏)では電子殻を数字で表示し、ローマ字表示もされると記述されている。"1 shell"(K殻)、 "2 shell"(L殻)、 "3 shell"(M殻)、、、。

小軌道 編集

英語でelectron subshellといい、「小軌道」、「副電子殻[2]、「亜殻」と言われる。ここでは本項目である「電子殻」と区別しやすくするため「小軌道」と表記する。小軌道は電子殻を構成する電子軌道の集まりで、エネルギー準位の低い内側のs軌道から始まり、p、d、f、g軌道と続く。各小軌道の電子容量の和がその電子殻の電子容量となる。K殻ではs軌道の2個のみ、L殻ではs軌道の2個とp軌道の6個の計8個、M殻ではs軌道の2個、p軌道の6個、d軌道の10個の合計の18個となる。

小軌道に収納可能な電子数
小軌道 方位量子数 電子数 名前の由来
s軌道 0 2  sharp
p軌道 1 6  principal
d軌道 2 10  diffuse
f軌道 3 14  fundamental
g軌道 4 18 fの次[3]

電子の収容順 編集

 
増成原理(Aufbau principle)電子の各電子殻の各軌道への収容順。上からK(=1)、L(=2)、M(=3)、N(=4)、O(=5)、P(=6)殻

高位の「電子殻」の低位の「小軌道」のエネルギー準位は、低位の「電子殻」の高位の「小軌道」より低くなっており、そちらへ先に電子が収容される。これを構造原理という。右図の3行目のM殻ではp軌道(3p)に電子が入ると、次はd軌道(3d)では無くN殻のs軌道(4s)へ電子が入る。その後でM殻のd軌道(3d)へ戻る。以降 3d - 4p - 5s - 4d - 5p - 6sと続いていく。ただし第4周期以降では例外もある。詳細は電子配置を参照。

例えるなら、近くの建物の3階へ引っ越すより、遠い建物の1階へ入居するほうが簡単という事である。これがO殻、P殻に32個より多くの電子を持つ元素が見つかっていない理由でもある。

2012年の時点で発見が報告されている(未公認を含む)元素は、右図の小軌道6dおよび7s[注釈 1]を満たし、7pに電子を収容している元素である。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 7sは6pの後に既に満たされている。

出典 編集

  1. ^ 楽しい高校化学「電子殻の構造」”. 2012年10月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年9月23日閲覧。
  2. ^ weblio sub-electron shell
  3. ^ Jue, T. (2009). “Quantum Mechanic Basic to Biophysical Methods”. Fundamental Concepts in Biophysics. Berlin: Springer. p. 33. ISBN 1-58829-973-2. https://books.google.co.jp/books?id=-W1bL7s--igC&pg=PA33&redir_esc=y&hl=ja 

関連項目 編集