青い紅玉
『青い紅玉』(あおいこうぎょく、The Adventure of the Blue Carbuncle)は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説。シャーロック・ホームズシリーズの1つで、56ある短編小説のうち7番目に発表された作品である。
青い紅玉 | |
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著者 | コナン・ドイル |
発表年 | 1892年 |
出典 | シャーロック・ホームズの冒険 |
依頼者 | コミッショネアのピーターソン |
発生年 | 不明(1889年?) |
事件 | 青い紅玉の盗難事件 |
初出は「ストランド・マガジン」1892年1月号。同年発行の短編集『シャーロック・ホームズの冒険』 (The Adventures of Sherlock Holmes) に収録された[1]。
訳者により「青いガーネット」「青い柘榴石」などの邦題も用いられる。
あらすじ編集
年代は明記されていないが、ワトソンがホームズと同居していないことから、ワトソンが結婚中の1889年に起こった事件であるという説が研究家の中では有力である。
クリスマスの朝、コミッショネア(退役軍人。翻訳によっては「便利屋」「配達夫」とも)のピーターソンが喧嘩の現場で拾ったという帽子とガチョウをホームズの元に届けてきた。ガチョウはピーターソンのものとなったが、その餌袋[注 1]の中には、ある伯爵夫人の家から盗まれて懸賞金がかかっている「青いカーバンクル」が入っていた。
青いカーバンクルの謎編集
原題「The Adventure of the Blue Carbuncle」のCarbuncle(カーバンクル)は、丸く研磨された赤い宝石のこと、もしくはガーネットを指す。ガーネットと呼ばれる宝石の中で、青色をしたものは当時発見されていなかった[注 2]ため、この宝石の正体を巡ってさまざまな説が出されている。ガーネットではなくスター・サファイアであるとする説、ホームズが「40グレーンの炭素の結晶」[注 3]と説明したことなどからブルー・ダイヤモンドであるとする説[注 4]、他の青色の鉱物をガーネットと称した・誤認したとする説、緑色のガーネットのことだとする説、青いガーネットが世界で1つだけ存在していたのだとする説などである。また、この青い宝石は中国のアモイ川(Amoy River)で発見されたと説明されるが、アモイという地名はあってもアモイ川は存在しないとする指摘や、宝石の質量の単位にカラットではなくグレーンを使っているのは誤りであるという指摘もある。
このように青いカーバンクルの謎に関してはさまざまな議論が行なわれてきたが、定説となっているものはなく、ドイルが何を想定していたのかは謎のままである[4][5]。ちなみに、ピーターソンが「ガラスが簡単に切れる」と知らせていることから、硬度の高い宝石であることは間違いないが、ダイアモンドを使ってもガラスに傷はついても切れるわけではない。
タイトルを「青い紅玉」とする日本語訳に対しては、紅玉はルビーを指すので間違いであり、青い紅玉、という色の組み合わせもおかしいという指摘があるほか、近年では「青いガーネット」と訳されることが多い[6]。1953年に新潮文庫から刊行された延原謙の翻訳では「青い紅玉」としていたが、嗣子の延原展により訳の修正が行なわれて改版となった際、「青いガーネット」に変更されている。2010年に創元推理文庫から刊行された深町眞理子の翻訳では、「青い柘榴石」が採用された。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ ジャック・トレイシー『シャーロック・ホームズ大百科事典』日暮雅通訳、河出書房新社、2002年、22頁
- ^ 平賀三郎「青いガーネット」『ホームズなんでも事典』平賀三郎編著、青弓社、2010年、10-12頁
- ^ 関東真一「《青いガーネット》」『シャーロック・ホームズ大事典』小林司・東山あかね編、東京堂出版、2001年、17-18頁
- ^ コナン・ドイル著/ベアリング=グールド解説と注『詳注版シャーロック・ホームズ全集3』小池滋監訳、ちくま文庫、1997年、609-619頁
- ^ 平賀三郎「青いガーネット」『ホームズなんでも事典』平賀三郎編著、青弓社、2010年、10-12頁
- ^ 笹野佳子「《孤独な自転車乗り》訳名考」『シャーロック・ホームズ大事典』小林司・東山あかね編、東京堂出版、2001年、268-269頁
外部リンク編集
- 『蒼炎石』:新字新仮名 - 青空文庫(大久保ゆう訳)