駐車
駐車(ちゅうしゃ)は、車両等が継続的に停止すること、あるいは車両等の運転を止めて車両等から離れる事を指す。
駐車場所編集
自動車交通においては駐車は必然的に生じるもので適切な駐車場所が必要となる[1]。
駐車場の設定編集
役所や鉄道駅などの公的施設、商店やショッピングモールなどの商業施設、一般家庭などでは、その敷地内に来客用の駐車場を用意している場合があり、それらの駐車場を利用する場合、無料・有料の別、利用時間の制限、利用できる車両の種類などの利用条件を守ることで駐車を許可される。また、都市部など専用の駐車スペースを確保しにくい地域では、時間貸しの有料駐車場が存在する場合がある。
道路への駐車編集
道路への駐車は道路の交通容量を減少させたり交通渋滞の原因となることもある一方、物流面では都市部の経済活動に一定の役割があるのも事実である[1]。多くの国で、道路における車両等の駐車は条件付きで許可されている。
日本における駐車編集
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
日本では道路交通法によって駐車の定義、駐停車禁止場所、時間制限駐車期間、違法駐車に対する措置などが規定されている[1]。さらに自動車の保管場所の確保等に関する法律によって、自動車の保有者に保管場所の確保を義務付け路上での長時間の駐車を原則として禁じている[1]。また、路上駐車場について駐車場法や道路法で規制している[1]。
以下では、主に日本の道路交通法による駐車に関する規制について詳述する。
道路交通法における駐車は、車両等を継続的に停止させることであり、道路上に一時的に車を停める停車とは区別される。また、自動車を保有する際には、それを運行しない場合の保管場所としていわゆる車庫を必要とする。
駐車の定義編集
道路交通法 第2条第1項第18号に規定される駐車とは、次のいずれかにあたる状態をいう。
- 車両等が次の理由により継続的に停止すること(運転者が運転中や乗車中、または車両等を離れず直ちに運転できる状態であっても駐車となる。)
- 運転者が車両を離れて直ちに運転することができない状態にあること(放置駐車)
- (停止の理由や時間を問わず駐車となる。)
駐車場などの入場待ちの列で停止する場合や、赤信号で止まる場合は、追突する危険を防止するため等の一時停止と解釈されるので、駐車には該当しない。
「停車」は、駐車に該当しない車両等の停止を言う。詳細は同項目を参照。
駐車および停車を合わせて「駐停車」と言う。
駐車の方法編集
車両は、法定の駐車の方法に従って駐車する必要があり、それに従わなかった場合は駐車違反となる。
駐車の禁止編集
駐車は道路交通の阻害、交通渋滞、交通事故の原因となることがある。そのため法令で定められた一定の場所については駐車が禁じられている。
駐停車違反の際に、次の条件に該当した場合には、交通違反の罰則や反則金、行政処分の基礎点数が加重される(以下の加重は、それぞれ併科される)。
- 放置駐車であった場合
- 駐車および停車が禁止されている場所(駐停車禁止場所。停車の項目を参照)にて違反した場合
- 高齢運転者等専用駐車区間において一般車両が違反した場合[注 3]
放置駐車の「放置」については具体例として、運転者が放置車両から数メートル離れた公衆電話ボックスの中に居るような場合、(停止車両の運転者を即時に誰何できる訳ではないため、)「車両等を離れて直ちに運転することができない状態」である(判例)。
また、放置駐車車両については2006年6月より放置違反金制度の対象となった。 日本における2008年度に取り締まられた駐車違反は、275万件[2]である。
駐車を禁止する場所編集
車両が、以下のような場所において駐車した場合は、駐車違反となる(道路交通法 第四十五条および第四十六条)。
- 駐車禁止の道路標識・道路標示により駐車が禁止されている場所
- 車庫または自動車用の出入口から3m以内の部分
- 道路工事が行なわれている場合における当該工事区域の側端から5m以内の部分
- 消防用機械器具の置場若しくは消防用防火水槽の側端またはこれらの道路に接する出入口から5m以内の部分
- 消火栓、指定消防水利の標識が設けられている位置または消防用防火水槽の吸水口もしくは吸管投入孔から5m以内の部分
- 火災報知機から1m以内の部分
- (駐車余地)次章の「駐車の方法」に従い駐車した場合に、当該車両の右側の道路(車道)上に3.5m(「駐車余地」の道路標識等により距離が指定されているときは、その距離)以上の余地がないような場合(荷物の積みおろしを行なう場合で運転者がその車両を離れないとき、もしくは運転者がその車両を離れたが直ちに運転に従事することができる状態にあるとき、又は傷病者の救護のためやむを得ないときを除く)。
時間制限駐車区間編集
時間制限駐車区間においては、車両が、以下の方法に従って駐車しなかった場合は、駐車違反となる。
- パーキングメーターが車両を感知した時、またはパーキングチケットの発給時から、道路標識等により表示されている時間を超えて継続駐車しないこと。
- 時間制限駐車区間において道路標示等により指定されている駐車の方法に従い駐車する。
- 駐車後速やかに、パーキングメーターを作動させ(通常は硬貨を投入する)、またはパーキングチケットの発給を受けて車両の前面ガラスの内側の見やすい場所に掲示する。
なお、時間制限駐車区間においては、「駐停車を禁止する場所」、「駐車を禁止する場所」および「駐車の方法」の項は適用されない。
また、駐車場法に基づく路上駐車場が時間制限駐車区間にある場合で、その路上駐車場にパーキングメーターやパーキングチケットの設備が無い場合には、同設備に関する規制は適用されない。
駐車禁止の適用除外編集
以下のような場所、方法や場合等においては、「駐車を禁止する場所、場合」の項にかかわらず駐車ができ、駐車禁止とはならない。なお、その場合でも原則は、「駐車の方法」および「時間制限駐車区間」の項には従わなければならない。
- 路線バス・トロリーバス・路面電車がその属する運行系統に係る停留所等で運行時間を調整するため駐車するとき(※「時間制限駐車区間」の項は適用除外となる)
- 「駐車可」の道路標識により駐車可とされている場所
- 警察署長に駐車の許可を受けた場合において、その条件および方法に従って駐車する場合
- 公安委員会の規則により、駐車禁止や時間制限駐車区間等の指定から除外されている場合。この場合は、それらの道路標識・道路標示による効力が及ばないだけである事に注意が必要である。例えば、道路標識等が無くとも駐(停)車禁止となるような場所や場合など(法定駐(停)車禁止場所など)には、依然として駐(停)車禁止である[注 4]。以下に東京都の場合の例を示す[3]。この場合において、所定の標章を掲出する事により除外される車両が放置駐車をする事となる場合は、運転者の連絡先または用務先を併せて掲出しなければならない[4]。
- 警衛列自動車
- 災害救助、人命救助、水防活動又は消防活動のため使用中の車両
- 緊急自動車であってその緊急用務に使用中の車両
- 犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締り、警備活動、その他の警察活動のため警察職員が使用中の車両及び当該警察活動のため停止を求められている車両
- 放置車両の確認及び放置車両確認標章の取付けのため使用中の車両
- 電気通信事業法に基づき、電報の配達のため使用中の車両
- 廃棄物処理法に規定する一般廃棄物の収集のため区市町村が使用中の車両
- 道路や道路付属物、及び信号機、パーキング・メーター、パーキング・チケット発給設備並びに道路標識等の維持管理のため使用中の車両
- 公職選挙法に基づく選挙運動用又は政治活動用の自動車で、街頭演説又は街頭政談演説に使用中のもの
- 次に掲げる車両で、警察署長により許可を受け、かつ所定の標章を正しく掲出しているもの
- 電気、ガス、水道、電話又は鉄道の各事業について緊急修復を要する工事のため使用中の車両
- 報道機関の緊急取材のため使用中の車両
- 食品衛生法に基づく臨検検査のため使用中の車両
- 環境基本法に基づき、国又は地方公共団体が公害調査のため使用中の車両
- 裁判所の執行官が民事執行法に基づく強制執行等を迅速に行う必要がある場合に、その執行のため使用中の車両
- 区市町村の長と歯科医師会会長との歯科訪問診療に関する委託契約に基づき、歯科医師会から指定された歯科医師が往診に使用中の車両
- 法定の、電波の監視及び電波の質の是正並びに不法に開設された無線局及び不法に設置された高周波利用設備の探査のため使用中の車両
- 狂犬病予防法に基づき、東京都知事が指定した捕獲員が犬の捕獲のため使用中の車両
- 専ら郵便法に規定する郵便物の集配のため使用中の車両
- 法定の身体障害者輸送車(患者輸送車又は車いす移動車)として登録を受け、歩行困難な者の輸送のため使用中の車両
- 急病者等に対する医師の緊急往診のため使用中の車両
- 上に掲げる車両のほか、公益上やむを得ないと公安委員会が認める用務のため使用中の車両
- 次に掲げる者(歩行困難者等)が現に使用中の車両で、警察署長により許可を受け、かつ所定の標章を正しく掲出しているもの
- 身体障害者手帳の交付を受けている者で、規則に定める重い等級の障害により歩行が困難な者
- 戦傷病者手帳の交付を受けている者で、規則に定める重い等級の障害により歩行が困難な者
- 東京都療育手帳(愛の手帳)の交付を受けている者で、規則に定める重い等級の障害を有する者
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者で、1級の障害を有し、かつ精神通院医療に係る自立支援医療費の支給を受けている者
- 東京都小児慢性疾患児手帳の交付を受けている者のうち、児童福祉法の規定に基づき厚生労働大臣により色素性乾皮症の認定を受けている者(日の出から日没の間に限る)
- 上に掲げる者のほか、身体障害者等で歩行が困難なことにより社会生活が著しく制限されると公安委員会が認める者
- 災害対策基本法第76条に基づく緊急通行車両以外の車両の通行の禁止または制限が行われた道路の区間または区域内において、当該車両を速やかに当該区間の外または道路外に移動する事が困難な場合に、緊急通行車両の通行の妨害とならない方法により当該区間内または区域内に駐車する場合(「駐車の方法」および「時間制限駐車区間」の項は適用除外)
駐車禁止除外標章掲示車両の駐車違反編集
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
駐車禁止除外標章は、歩行困難者が現に利用している場合に限り定められた方法で駐車することに限られるにも関わらず、悪用がされることが多く、特に都市部においては社会問題化し逮捕者が出ている[5]。
駐車禁止除外標章を掲示していても、道路交通法により定められた駐車禁止の適用を受ける場合は、路上駐車した場合には、違反となり反則金を支払うこととなる。
具体的な、摘発事例を下記に示す。
- 大阪府警は2006年10月30日、日本生命社員を車庫法違反の疑いで逮捕した。同社の女性社員2人も同容疑で書類送検する方針。 御堂筋を担当していた駐車監視員が「標章を置いた車3台が毎日止まっている」と府警に連絡して発覚した。 容疑者は、御堂筋に面した勤務先に私有車で出勤した際に標章を車内の運転席前に置き、仕事が終わるまで違法駐車を 繰り返した。知人女性から標章を借りて使っていた[6]。
- 大阪府警南署などは2007年5月29日までに、車庫法違反などの疑いで、大阪市中央区島之内の容疑者を逮捕した。容疑者は、身体障害者である父親の駐車禁止除外指定車の標章を、実際には介護していないのに自分の乗用車に掲示し、自宅近くの路上に駐車した。父親とは別居しており、不正使用を繰り返していた[7]。
- 大阪府警駐車対策課と曽根崎署は2011年3月9日、障害がある父親の「駐車禁止除外指定車標章」を悪用し、 通勤で路上駐車を繰り返したとして自動車保管場所法違反で、 旅行大手「阪急交通社」社員を逮捕した。容疑者は勤務先近くの路上にマイカーを駐車し通勤。容疑は、腎臓機能障害で歩行困難の父親が交付された標章を自分の乗用車に掲げ、大阪市北区野崎町の路上に駐車し、道路を車の保管場所に使用した[8]。
- 愛知県警は2012年3月13日、「駐車禁止除外標章」を偽造し、駐車監視員の業務を妨害したとして、名古屋市内に在住する男3人を偽計業務妨害容疑で逮捕した。逮捕された3人は、名古屋市内の繁華街でクルマを路上駐車した際、偽造した駐車禁止除外標章を提示。取り締りを行う駐車監視員の確認を妨害した[9]。
- 兵庫県警の2013年の「駐車禁止除外指定車標章」を不正に使った駐車違反の取り締まり件数は167件であった[5]。
高速道路等における駐車編集
高速自動車国道および自動車専用道路においては、原則として駐停車禁止である。詳細は「高速道路等における駐停車」を参照。
駐停車違反に対する措置編集
- 警察官による移動命令、一時的移動(レッカー移動を含む)
- 車輪止め(車輪止め区間内に限る)
- 放置車両確認の民間委託(駐車監視員)
- 自動車の使用者に対する違反車両の使用制限命令
- 使用者責任を負わせる[10](放置違反金制度)
車庫法による取り締まり編集
自動車の保管場所の確保等に関する法律により、下記の行為は駐車違反とは独立に取り締まりを受ける(二輪を除く)。また、交通反則通告制度の対象外行為であり、必要に応じて刑事捜査が行われる。
- 保管場所法違反・道路使用
- 常態として道路を自動車の保管場所に使用した場合。
- 三月以下の懲役又は二十万円以下の罰金。運転免許の行政処分基礎点数3点も付加される。
- 保管場所法違反・長時間駐車
- 同一の場所に12時間以上駐車し、または夜間に8時間以上駐車した場合。
- 二十万円以下の罰金。運転免許の行政処分基礎点数2点も付加される。
駐車禁止等の規制とは関係ないため、駐車禁止でない場所や場合等であっても道路上(私有地外)であれば、上記行為は取り締まり対象となる。なお適用除外としては、上記の「公安委員会の規則により、駐車禁止や時間制限駐車区間等の指定から除外されている場合」に類似した場合として、自動車の保管場所の確保等に関する法律施行令第4条に規定されている(詳細は法令参照)。
なお、日本で1962年に制定された自動車の保管場所の確保等に関する法律は、他国にはみられないもので非常に先進的な法律と評価されている[1]。
日本におけるレッカー移動第一号編集
駐車違反によるレッカー移動第一号は、1960年(昭和35年)12月26日に東京都中央区築地の交差点で摘発された「4 に 5081」という登録番号を持つライトバンである。なお、警察側も不慣れなことから移動には30分もかかった。
欧米における駐車編集
駐車の定義編集
ドイツでは日本と同じく車両の停止時間によって駐車を定義している(ドイツでは3分間)[1]。これに対してアメリカ合衆国ではドライバーが運転席に座っている状態か否かで駐車を定義している[1]。自動車の駐車はドイツでは「静止交通」として定義されており走行車両と同等の配慮が行われているとされる[1]。
行政上の違反編集
多くの国で駐車違反は刑法犯ではなく行政上の違反とされ、国によってはこれによって民間業者による取り締まりを可能にしている[1]。
駐車違反の取り締まりの主体編集
ドイツでは警察機関は駐車違反の取り締まりを行っておらず民間業者に委託されている[1]。アメリカ合衆国やオランダでは自治体に駐車違反の取り締まりを専門で行う部局がある[1]。
所有者責任編集
アメリカ合衆国などでは放置駐車車両について一義的には運転者が責任を負い、運転者が特定できない場合に自動車の所有者が責任を負うとしている[1]。一方、イギリスやドイツなどでは最初から自動車所有者の責任(実際の罰金の支払いを運転者が負担するか所有者が負担するかは問わない)としている[1]。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 田中伸治、桑原雅夫. “路上駐車に関連する諸制度についての一考察”. 土木学会. 2021年3月2日閲覧。
- ^ 読売新聞 2009年7月8日
- ^ 東京都道路交通規則、昭和46年11月30日東京都公安委員会規則第2条第1項第1号、同項第4号
- ^ 努力義務規定。東京都道路交通規則第2条第5項
- ^ a b “「駐禁除外標章」の不正使用が急増”. 神戸新聞NEXT. (2014年8月8日)
- ^ 朝日新聞2006年10月30日版
- ^ 日刊スポーツ 2007年5月29日
- ^ 産経新聞 2011年3月10日
- ^ “偽造された駐車禁止除外標章を使用した男3人を逮捕”. レスポンス. (2012年3月16日)
- ^ “問2 使用者責任を拡充するのはなぜですか。”. 警視庁. 2009年4月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月19日閲覧。
関連項目編集
外部リンク編集
- 橋本愛喜 (2021年3月9日). “世間が知らない「トラックが路上駐車をする理由」”. Yahoo!ニュース. 2021年7月20日閲覧。