高次脳機能障害
高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)とは、主に脳の損傷によって起こされる様々な神経心理学的障害である。主として病理学的な観点よりも厚生労働省による行政上の疾患区分[1][2]として導入された概念であり、異なった原因による複数の疾患が含まれる。それぞれの症状や治療について、詳しくは脳血管障害といった病理学的な観点から論じられる。
概要編集
その症状は多岐にわたり、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害等で脳の損傷部位によって特徴が出る。
損傷が軽・中度の場合には核磁気共鳴画像法(MRI)でも確認できない場合がある。
SPECT(放射断層撮影)、PET(陽電子放射断層撮影)など、先端の画像診断で判別されることがあるが、現在では、診断の一材料である。
むしろ、画像診断に神経心理テストなどを組み合わせた多角的な診断により「高次脳機能障害」と診断されるケースが多いのも事実である。
その障害は外からでは分かりにくく自覚症状も薄いため隠れた障害と言われている。
よく、一言で「高次脳」と略されるため、脳内にそのような部位があるのか、と勘違いされることがあるが、そうではなく、分かりやすく記すれば「高次の脳機能の障害」ということである[3]。
伝統的、学術的、医学的な定義による高次脳機能障害は、脳損傷に起因する認知障害全般を示すものである。例えば症状に失語症また認知症がある。
これに対し、日本の厚生労働省が2001年度から本格的に研究に取り組んでいる「高次脳機能障害」は、行政的に定義されたものといえる。これについては少し説明が必要である。
脳血管障害(いわゆる脳卒中)や、交通事故による脳外傷後に身体障害となる場合がある。身体障害が後遺障害として残る場合と、時間の経過とともに軽快していく場合がある。しかし、身体障害が軽度もしくはほとんど見られない場合でも、脳の機能に障害が生じている場合がある。それが前述の認知障害、つまり行動に現れる障害であるため、職場に戻ってから、問題が明らかになるというケースがある。つまり、日常生活、社会生活への適応に困難を有する人々がいるにもかかわらず、これらについては診断、リハビリテーション、生活支援等の手法が確立していないため早急な検討が必要なことが明らかとなった。
そこで、2004年4月から、高次脳機能障害診断基準に基づいて医師により高次脳機能障害と診断された場合、作業療法士や言語聴覚士による訓練が診療報酬の対象とされることになった。また、2006年4月からは、脳血管疾患リハビリテーションの限度180日を超えて訓練を受けることができるようになり、機能回復を中心とする医学的リハビリテーションを最大6か月実施した後は、必要に応じて生活訓練プログラムや就労移行支援プログラムを加えた連続的な訓練が実施されるようになった。
交通事故による高次脳機能障害については、他の公的制度に先駆けて、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)が2001年から交通事故被害として認定するシステムを構築している。自賠責保険により、交通事故によって生じた高次脳機能障害として認定されれば、損害賠償の対象として保険金が支払われることとなる。
脚注編集
- ^ 厚生労働省 (2002年4月10日). “高次脳機能障害支援モデル事業 中間報告書について”. 2015年3月14日閲覧。
- ^ 弁護士法人 林哲朗法律事務所. “高次脳機能障害 認定システム確立の歴史”. 2015年3月14日閲覧。
- ^ 山田規畝子『それでも脳は学習する』講談社、p.1
関連項目編集
- 認知リハビリテーション
- ミニメンタルステート検査(MMSE)
- リバーミード行動記憶検査(RBMT)
- パンチドランカー
- ガチ☆ボーイ - この障害を扱った青春コメディ映画。
- 小林春彦 - 高次脳機能障害者として日本で初めて脳機能障害を根拠に教育制度を変えた作家・講演家。
外部リンク編集
- 高次脳機能障害.net(高次脳機能障害情報サイト)
- 福井県高次脳機能障害支援センター(「医学的な定義」は「行政的な定義」を包含)
- 医療従事者と患者の広場(高次脳機能障害の症状と具体的なアプローチ方法)
- 日本高次脳機能障害学会(旧 日本失語症学会)
- 高次脳機能障害と生きる(高次脳機能障害の姉を持つ看護師による情報支援サイト)
- 日本脳外傷友の会(高次脳機能障害者の家族会)
- 東京高次脳機能障害協議会(都内で活動する高次脳機能障害支援団体による協議会)
- 高次脳機能障害を知る会(高次脳機能障害 当事者による情報支援サイト)