ロータシズム

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ロータシズム (rhotacism) 、またはr音化(アールおんか)とは言語学において、他の音素が/r/音に変化することをいう。名称はrに相当するギリシア文字ρロー)に由来する。

言語学

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言語学においてロータシズムは通常、有声歯茎音(/z/, /d/, /l/, /n/など)において起こりやすいとされる。特に/z/から/r/への変化がもっとも一般的である。

アルバニア語

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アルバニア語の標準形の基礎となったトスク方言では/n/がロータシズムを起こし/r/となった。ここにロータシズムの起こっていないゲグ方言との比較を出す(左がトスク方言で右がゲグ方言)。

  • zërizâni (声)
  • gjurigjuni (膝)
  • ShqiperiShqypni (アルバニア)

アラム語

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アラム語では、セム祖語で/n/だったものが/r/へと変わる現象が頻繁にみられる。

  • bar "息子" はヘブライ語benと対応している(両者ともセム祖語の*bnuから)。
  • trêntartên "ニ" (それぞれ男性形と女性形)はアーンミーヤtnēntintēnに対応している(セム祖語の*ṯnaimiと*ṯnataimiから)。ただしアラム語のtinyânâ "二番目のもの"はロータシズムが起こっていない。

バスク語

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アキタニア語の*/l/が母音間においてはじき音へと変わっている。これは例えばラテン語からの借用語で見られる。

ゲール語

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アイルランド語スコットランド・ゲール語では、しばしば母音直前の/kn/が後続する母音の鼻音化を伴ってcnoc [krɔ̃xk] (丘)のようにロータシズムを起こす。

ゲルマン諸語

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残存するゲルマン諸語の中で西ゲルマン語群北ゲルマン語群では属する全ての言語で/z/から/r/への変化が起こっている。これは初期のゲルマン祖語で接近音的R音がより多く存在したことをほのめかしている。 ゴート語ではロータシズムを被らずに/s/ないし/z/を保持している。

ゲルマン祖語 ゴート語 古ノルド語 古英語
近代英語
古フリジア語[1] オランダ語 (古高ドイツ語)
高地ドイツ語
*was,1st/3rd sg *wēzun1st pl was, wēsum
 
var, vārum
 
(wæs, wǽron)
was, were
was, wēren  
was, waren
(was, wārum)
war, waren
*liusena,inf *luzenazp.part. fra-liusan, -lusans
 

 
(for-léosan, -loren)
for-leese, -lorn
urliāsa, urlāren  
ver-liezen, -loren
(vir-liosan, -loren)
ver-lieren, loren
*deuzom,nom *deuzesagen dius, diuzis
 
dýr, dýrs
 
(déor, déores)
deer, deer's
diār, diāres  
dier, diers
(tior, tiores)
Tier, Tieres

英語

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多くの近代英語の方言(ヨークシャーマンチェスター方言のみでなくアメリカ英語オーストラリア英語も含む)で母音間の/t/と/d/が特定の環境下で/ɾ/へと変化している。フラッピングも参照。

ドイツ語

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ロマンス諸語

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ラテン語

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ナポリ語

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ポルトガル語

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ルーマニア語

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サンスクリット語

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サンスクリットでは、屈折接辞-as, -āsでない-sで終わる単語は有声音の子音が後続する際にサンディ(連声)で-rとなる[2][3]

  • nausp, t, kの前にあるとき) 対 naur bharati (有声音の子音が後続したサンディ)
  • agnisp, t, kの前にあるとき) 対 agnir mata (有声音の子音が後続したサンディ)
  • ガーヤトリー・マントラにも bhūr bhuvaḥとある。

ただし、この-r-sの置換は異音の現れであり、歴史的な音変化としてのロータシズムとはみなされない。なお、-sで終わる単語は多くの場合にヴィサルガ-ḥで現れる(ヴィサルガも参照)。

南スラヴ語群

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ラテン語のロータシズム

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ラテン語では、後述の例外に当てはまらない母音にはさまれた/s/は/z/を経由して一律、/r/に変化した。 ラテン語においてロータシズムが起こらない母音にはさまれた/s/は以下のような条件に当てはまったもののみである。

  • /s/の次に現れる子音が/r/である場合。(例: Caesar)
  • 単語が借用語である場合。(例: rosa〈 エトルリア語から〉)
  • /s/が合成語の後半要素の語頭である場合。(例: nisi←ne+si)
  • 長母音二重母音の後の/s/で、かつては重子音[ss]だったと推定される場合。(例: causa〈実際に caussa という綴りの例がある〉)

名詞

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語幹が-sに終わる第三曲用名詞は、単数主格では-sだが、他の格形で-es(-is), -emなどの語尾を伴った結果、sがrに変化した。 すなわち、colos(色)では*coloses > coloris; *colosem > coloremとなった。 このため、-sが残っている単数主格のみが特殊な形であるように見える。 また中には、アナロジーにより単数主格も-rになってしまったものもある(例: honor)。

近代西洋諸語では主に変化したほうの形を取り入れている。

  • colos: *coloses > coloris (英 color; 仏 couleur)
  • corpus: *corposes > corporis (英 corporate; 仏 corps)
  • tempus: *temposes > temporis (英 temporal, temporary; 仏 temps)
  • genus: *geneses > generis (英 general, generic; 仏 genre)
  • vulnus: *vulneses > vulneris (英 vulnerable)

動詞

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ラテン語の能動態不定法語尾は*-seであったとみられるが、未完了系時制では幹母音と接触した結果-reとなった。

  • *amase > amare
  • *videse > videre
  • *capese > capere

幹母音をもたないもの (esse, posse) や、完了系時制 (fuisse, amavisse) では-seをとどめている。

また、sum (esse) の語幹は*es-であるが、能動態未完了過去・未来において人称語尾と接触した結果、er-となった。

  • *esam, *esas, *esat > eram, eras, erat
  • *eso, *esis, *esit > ero, eris, erit

脚注

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  1. ^ D. Hofmann, A.T. Popkema, Altfriesisches Handwörterbuch (Heidelberg 2008).
  2. ^ 荻原雲来 (1916), 実習梵語学 文書・書法・文抄・字書, 丙午出版社, p. 10, https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/942682/18 
  3. ^ 連声規則(作文編)