アグラオケトゥス学名Aglaocetus)は、約1597万年前から約258.8万年前にかけて[1]、すなわち、新生代新第三紀中新世中葉にあたるランギアン初頭から新生代新第三紀中新世中葉 - 新第三紀末(鮮新世末、ピアセンジアン末)までの間、当時の大西洋および太平洋での棲息が確認されている化石クジラ類 (cf.) の1鯨偶蹄目ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ上科アグラオケトゥス科に分類される。

アグラオケトゥス
生息年代: 15.97–2.588 Ma
fossil range
「アグラオケトゥス モレニ」のトーガイコツ標本です。
Aglacetus moreni頭蓋骨
FMNH P12955(フィールド自然史博物館所蔵標本
地質時代
約1597万年前 - 約258.8万年前 [1]
ランギアン初頭 - ピアセンジアン末(新生代新第三紀中新世中葉 - 新第三紀末〈鮮新世末〉)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
下綱 : 真獣下綱 Eutheria
階級なし : 有胎盤類 Placentalia
北方真獣類 Boreoeutheria
上目 : ローラシア獣上目 Laurasiatheria
: 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
階級なし : クジラ目(クジラ類)Cetacea
Pelagiceti
新鯨類 Neoceti
亜目 : ヒゲクジラ亜目 Mysticeti
階級なし : 無歯ヒゲクジラ類 Chaeomysticeti
Plicogulae
上科 : ナガスクジラ上科 Balaenopteroidea [2]
: アグラオケトゥス科
Aglaocetidae Steeman, 2007 [2][3]
: アグラオケトゥス属 Aglaocetus
学名
Aglaocetus Kellogg, 1934b [4][2]
シノニム
和名
アグラオケトゥス
下位分類(
テンプレートの画像と同じの物の角度違いです。見た目は巨大なトングの先のよう。ただし、ミツマタになっています。
テンプレートの画像と同じ標本

化石は、大西洋側にあるアルゼンチンパタゴニア地方、アメリカ合衆国東海岸ベルギーオランダ、太平洋側の日本から発見されている。

かつては他の多くの推定ケトテリウム類と共にケトテリウム科の1属と見做されていたが、研究が進み、真のケトテリウム科とは異なる系統群と判明した。

名称 編集

学名 編集

aglao-cetus 編集

属名の構成要素である aglao- は、古代ギリシア語の "αγλαὸςラテン翻字: aglaòs日本語音写: アグラオス)" に由来しており、その意味は "luminous"「光輝く」である。同根語としては、世界史上最初の女性の天文学者として知られている人名の ἈγλαονίκηAglaoníkēアグラオニケー)があり、こちらは「光輝く勝利」を原義としている。また、aglaos という語形はそのまま生物の種小名に用いられることもある(例:Morula aglaos, Anomala aglaos)。

一方、cetus は「クジラ」を意味しており、古典ラテン語で「大型の海洋動物(クジラ、イルカサメなど)」を意味する "cētus日本語音写: ケートゥス)" から来ている。

科学的知見 編集

ホロタイプ(正基準標本)は MLP 5-1 [2]ラプラタ博物館英語版所蔵)。

本属の最初の化石は他の絶滅クジラ類の化石に紛れる形で19世紀ベルギーで発見されている。頭蓋骨はのちに南アメリカ中新世下部の地層から発見された。本属の標本イングランド自然史学者リチャード・ライデッカー (1849-1915) によって1894年Cetotherium moreni として記載された。すなわち、当時はナガスクジラの系統群に属すると思しき先行者を暫定的に寄せ集める""として機能していたケトテリウム科に収納すべき、ケトテリウム属の新種と考えられた。しかし、1934年スミソニアン博物館所属の動物学者レミントン・ケロッグ英語版 (1892-1969) は、moreni 種はケトテリウム属とは別属に分類すべきとし、新属 Aglaocetus(アグラオケトゥス)であるとした[4]

目下のところ、アグラオケトゥス属の下位分類としては、上述したタイプである A. moreni(モレニ種|中新世後期)を始め、A. latifrons(ラティフロンス種|中新世)、A. burtini(ブルティニ種|鮮新世前期)、A. longifrons(ロンギフロンス種|中新世後期)、A. rotundus(ロトゥンドゥス種|中新世前期)が知られている。ただし、グラム自然史博物館英語版所属のメッテ・エルストルプ・ステーマン (Mette Elstrup Steeman) [8]2010年に発表したケトテリウム科の系統分析では、A. burtiniA. latifronsA. longifronsPlesiocetus 属(プレシオケトゥス属)の種、A. rotundusAmphicetus 属(アンフィケトゥス属)の種としている[9]

ケロッグは、また、アメリカ合衆国東海岸のバージニア州にあるカルバート層英語版1968年に発見したクジラ類の頭蓋骨化石をアグラオケトゥス属の新種 A. patulus が考えた[10]。しかしながら、2013年トリノ大学所属の古脊椎動物学者ミケランジェロ・ビスコンティ (Michelangelo Bisconti) らが行った分岐研究により[11]patulus はアグラオケトゥス属のタイプ種とは異なる系統発生的位置にあることが判明し[11]2020年アトランティケトゥス英語版(Atlanticetus) へと属名が書き換えられた[12]

系統分類 編集

ナガスクジラ上科には現生のナガスクジラ科が存在するが、アグラオケトゥス科(2007年記載[3])は、顎の上昇過程が、ナガスクジラ科より原始的な形質を有する先行グループの代表的なものとして本属のみで構成されている絶滅である。先行者ということでは、これも1属のみでディオロケトゥス科を構成するディオロケトゥス[3]コフォケトゥスなどが属するペロケトゥス科も比較的近い位置にある[3]が、これらは今のところ(2021年時点)上科の階級レベルを特定されていない[13]

化石産出地 編集

国別 編集

Fossilworks で確認できる化石の産出地は以下のとおり[14]。数字は標本の数。

地層別 編集

論文 編集

記載論文 編集

  • Van Beneden, P.J. (1859). “Rapport de M. Van Beneden”. Bulletins de L'Academie Royale des Sciences, des Lettres et des Beaux-Arts de Belgique 8: 123-146. 
    • 記載された種:Aglaocetus burtini Van Beneden, 1859
  • Van Beneden, P.J. (1880). “Les mysticetes a courts fanons des sables des environs d'anvers”. Bulletins de L'Academie Royale des Sciences, des Lettres et des Beaux-Arts de Belgique 1880: 11-27. 
    • 記載された種:Aglaocetus latifrons Van Beneden, 1880
    • 記載された種:Aglaocetus longifrons Van Beneden, 1880
  • Lydekker, R. (1894). “Cetacean skulls from Patagonia”. Anales del Museo de la Plata II: 1-13. 
  • Kellogg, R. (1934b). “The Patagonian Fossil Whalebone Whale, Cetotherium moreni (Lydekker)”. Carnegie Institution of Washington 447: 64-81. 
    • 記載された属:Aglaocetus Kellogg, 1934b
    • 再記載された種:Aglaocetus moreni Lydekker, 1894 sensu Kellogg, 1934b

他の研究論文 編集

本属と直接には関係の無い論文 編集

脚注 編集

出典 編集

  1. ^ a b Fossilworks, Age range: 15.97 to 2.588 Ma.
  2. ^ a b c d e Steeman, 2007.
  3. ^ a b c d Fossilworks Aglaocetidae.
  4. ^ a b Kellogg, 1934b.
  5. ^ Van Beneden, 1859.
  6. ^ a b c Van Beneden, 1880.
  7. ^ Lydekker, 1894.
  8. ^ Mette Elstrup Steeman” (English). ResearchGate. ResearchGate GmbH. 2021年5月18日閲覧。
  9. ^ Steeman, 2010.
  10. ^ Kellogg, 1968.
  11. ^ a b Bisconti et al., 2013.
  12. ^ Bisconti et a;l., 2020.
  13. ^ Fossilworks Aglaocetidae, 2021年5月18日閲覧.
  14. ^ Fossilworks, 2021年5月19日閲覧.
  15. ^ a b c d e f g h i j Fossilworks.
  16. ^ Kimura et al., 2010, p. 30.

関連項目 編集

中新世中葉から末まで(ランギアン初頭から、サーラバリアントートニアンメッシニアン末まで)、鮮新世全期(ザンクリアンピアセンジアン)。

外部リンク 編集