ザクスピード・861 (Zakspeed 861) は、ザクスピード1986年F1世界選手権に投入したフォーミュラ1カー。デザイナーはポール・ブラウン。ドライバーはジョナサン・パーマーヒューブ・ロテンガッターが起用された。チームはドイツのたばこ会社、ウエストから支援を受けたものの、資金の関係上テストドライバーを雇うことは無かった。資金不足はまたエンジンの開発にも影響した。自社製エンジンの1500/4は直列4気筒ターボエンジンで、850 bhp (634 kW; 862 PS)を発揮したが、これはグリッド上位のエンジン(ホンダルノーBMWTAG-ポルシェフェラーリ)に比べてパワー不足であった[2]。タイヤはグッドイヤーを装着した。最高成績は7位。

ザクスピード・861
カテゴリー F1
コンストラクター ザクスピード
デザイナー ポール・ブラウン
先代 ザクスピード・841
後継 ザクスピード・871
主要諸元[1]
シャシー カーボンファイバー モノコック
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン, プルロッド
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン, プルロッド
トレッド 前:1,800 mm (71 in)
後:1,600 mm (63 in)
ホイールベース 2,820 mm (111 in)
エンジン ザクスピード 1500/4 1,495 cc (91.2 cu in), 直列4気筒, ターボ, ミッドエンジン, 縦置き
1987年:過給圧4.0バール
トランスミッション ヒューランド / ザクスピード 6速 MT
重量 565 kg (1,246 lb)
燃料 シェル
タイヤ グッドイヤー
主要成績
チーム ウエスト ザクスピード・レーシング
ドライバー イギリスの旗 ジョナサン・パーマー
オランダの旗 ヒューブ・ロテンガッター
イギリスの旗 マーティン・ブランドル
ドイツの旗 クリスチャン・ダナー
コンストラクターズタイトル 0
ドライバーズタイトル 0
初戦 1986年ブラジルグランプリ
出走優勝ポールFラップ
18000
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コンセプト 編集

ザクスピード・861は前年のザクスピード・841の発展型であった。改良点は主に重量の軽減と複雑な設計を単純化することにあった。弱小チームのザクスピードにとって2年目のシーズンであったが、前年に引き続いてエンジンとシャシーを共に開発した。エンジン、シャシー共に開発を行っていたのはフェラーリルノーとザクスピードのみであった。

シャシーおよびサスペンション 編集

シャシーはカーボンファイバーケブラーのハニカムコンポジット複合構造モノコックを有し、燃料タンクは1986年の規定に従って195リッターまで小型化された。また、リアウィングも気流を整えるため小型化された。車重軽減の努力にもかかわらず、575kgに及んだ車重はまだ重すぎた[3]。カラーリングは赤と白のウエストカラーで、スポンサーロゴが書き込まれた。

サスペンションはダブルウィッシュボーン式で、プルロッドによってスプリングとダンパーが動作した[3]。ブレーキはシーズン当初は従来の鋳鉄製であったが、モナコから実験的にカーボンブレーキを使用し、ドイツから本格的に採用した。タイヤは前年に引き続いてグッドイヤーを使用した。

841に比べると大幅な改良が施されたが、そのコンセプトは時代遅れであった。テクニカル・ディレクターのヘルムート・バースは「それは大きすぎて、空気抵抗も多かった」と語った[4]

エンジンおよびトランスミッション 編集

ザクスピードが自社開発したエンジンは1.5リッター並列4気筒ターボエンジンで、ハートエンジンやBMWエンジンと同じレイアウトであった。1986年の時点でベネトンが使用するBMWエンジンのみが競争力を有していた。(ハートエンジンは1986年サンマリノグランプリを最後に姿を消した。)両エンジン同様にザクスピードエンジンもスペースフレームのクレードルに取り付けられた。シーズンはホンダとTAG-ポルシェのV6エンジンに支配された。1985年シーズン中にチームは自らの電子燃料噴射システムの開発を行い、開発中は機械式の噴射システムを使用した。1986年シーズンにチームはボッシュと低圧電子式燃料噴射システムの使用に合意した。これは元々アルファロメオの直列4気筒ターボエンジンに使用された物であった。このシステムによりスロットル反応が改善され、ドライバビリティと燃料消費量が向上した。レースでは3.6バールの過給圧で850 bhp (634 kW; 862 PS)を発揮した。予選では過給圧は4.5バールまで上げられ、およそ1,000 bhp (746 kW; 1,014 PS)を発揮した[4]。これらの数値はこの年のタイトルを獲得したマクラーレン・TAG-ポルシェと比較すると、レースにおいて3.3バールの過給圧で850 bhp (634 kW; 862 PS)を発揮したTAG-ポルシェエンジンに匹敵した。1986年シーズンで最もパワフルだったエンジンは、予選でのBMWエンジンで、1,400 bhp (1,044 kW; 1,419 PS)を発揮したとされる。

トランスミッションは841で使用された物が引き継がれ、マグネシウム合金のケースにヒューランド製のミッションを改良した物が納められた。

レース戦績 編集

1985年はヨーロッパで開催されたレースにのみ1台体制で参戦していたが、1986年は2台体制に拡大された。開幕戦のブラジルと第2戦のスペインジョナサン・パーマーの1台体制であったが、第3戦サンマリノからはヒューブ・ロテンガッターも起用された。ロテンガッターは自らの資金をチームにもたらした[4]。861は両名合わせて完走が10回であった。最高位はデトロイトグランプリでのパーマーと、オーストリアグランプリでロテンガッターが記録した8位であった。861は1987年シーズンも開幕戦と第2戦で使用された。その後はデトロイトグランプリでマーティン・ブランドルが871をプラクティスでクラッシュさせた後、861をスペアカーとして使用した。決勝ではターボトラブルでリタイアしている。

F1における全成績 編集

(key) (太字ポールポジション

チーム エンジン タイヤ No. ドライバー 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 ポイント 順位
1986年 ウエスト ザクスピード・レーシング ザクスピード 1500/4
S4 tc
G BRA
 
ESP
 
SMR
 
MON
 
BEL
 
CAN
 
DET
 
FRA
 
GBR
 
GER
 
HUN
 
AUT
 
ITA
 
POR
 
MEX
 
AUS
 
0 NC
14   パーマー Ret Ret Ret 12 13 Ret 8 Ret 9 Ret 10 Ret Ret 12 10 9
29   ロテンガッター Ret DNQ Ret 12 Ret Ret Ret Ret Ret 8 Ret Ret DNS Ret
1987年 ウエスト ザクスピード・レーシング ザクスピード 1500/4
S4 tc
G BRA
 
SMR
 
BEL
 
MON
 
DET
 
FRA
 
GBR
 
GER
 
HUN
 
AUT
 
ITA
 
POR
 
ESP
 
MEX
 
JPN
 
AUS
 
2* 10位
9   ブランドル Ret
10   ダナー 9 7

* 1987年のポイントはザクスピード・871による。

編集

  1. ^ STATS F1 - Zakspeed 861”. Statsf1.com. 2010年8月23日閲覧。
  2. ^ Zakspeed F1 Engines at”. Gurneyflap.com. 2012年1月7日閲覧。
  3. ^ a b Bamsey (1988) p.166
  4. ^ a b c Bamsey (1988) p.165

参照 編集

  • Bamsey, Ian; Benzing, Enrico; Staniforth, Allan; Lawrence, Mike (1988). The 1000 BHP Grand Prix cars. G T Foulis & Co Ltd. ISBN 0-85429-617-4 
  • Hamilton, Maurice (ed.) (1986). AUTOCOURSE 1986-87. Hazleton Publishing. ISBN 0-905138-44-9 
  • Hodges, David (1998). A-Z of Formula Racing Cars 1945-1990. Bay View books. ISBN 1-901432-17-3