アゲハモドキガ科

チョウ目(鱗翅目)の科

アゲハモドキガ科(アゲハモドキガか、Epicopeiidae)は鱗翅目(チョウ目)のひとつ。本科が所属する上科には議論と変遷があるが、本稿では Minet & Scoble (1998) を採用した 岸田(編)『日本産蛾類標準図鑑』 を踏襲し、基本的にカギバガ上科に属するものとする。

アゲハモドキガ科
オオサマアゲハモドキ[1]Epicopeia polydora
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: 鱗翅目(チョウ目) Lepidoptera
階級なし : 有吻類 Glossata
階級なし : 異脈類 Heteroneura
階級なし : 二門類 Ditrysia
上科 : カギバガ上科 Drepanoidea
: アゲハモドキガ科 Epicopeiidae
学名
Epicopeiidae Swinhoe, 1892[2]
タイプ属
Epicopeia Westwood, 1841[3]
シノニム
和名
アゲハモドキガ科

特徴 編集

頭部単眼を欠くこと、前翅後胸との連結装置[6]spinarea)を欠くこと、前翅R脈によって小室[7]areole)が形成されないこと、前翅R5がR2、3、4脈から離れてM1脈と接近することなどが本科の分類形質と見なされている[3][8]

多様性 編集

本科は鱗翅目の中では小さな科のひとつで、既知の種は30種未満とされる[9]。分布は東洋区旧北区アジアに限定される[3]。ほとんどが昼行性だが、夜間人工の灯りにも飛来する種も知られる[3][10]

日本からはアゲハモドキ Epicopeia hainesii、オナガアゲハモドキ Epicopeia mencia、フジキオビ Schistomitra funeralis 、キンモンガ Psychostrophia melanargia の4種が知られているが[11][12]、このうちオナガアゲハモドキは対馬から過去に幼虫が一度得られた記録があるのみである[10]

小さなグループだが成虫形態は多様で、他のさまざまな鱗翅類をモデルとしたベイツ型擬態ミューラー型擬態環への関与の可能性がしばしば指摘される[5][13][14][15]。なかでもアゲハチョウ科と形態的によく似る Epicopeia 属は有名だが、擬態に関する化学生態学的な知見は不足している[5][16]

幼虫期の解明はあまり進んでいない[3]。幼虫期が既知の日本および台湾産の4種はいずれも腹脚を計5対有し、体表が白い蝋状物質で覆われることが知られている[17][18]。白い蝋状物質を分泌する昆虫はボタンヅルワタムシ Colophina clematis半翅目アブラムシ科)など複数の種、分類群で見られ、それらの昆虫が形成する擬態環にアゲハモドキの幼虫も関与している可能性を示す報告もなされている[19]

分類 編集

2011年時点で920が知られていたが[2]、2017年にはベトナムから新属が[5]、2019年から2020年には中国から数種が新種記載され[8][9][20][21]、現在は10属30種ちかくが知られる[9]

本科はながらく Epicopeia単型の科として扱われ、その他の属はツバメガ科あるいはフタオガ科 Epiplemidae[注釈 1]分類されていた[3][5][15]。たとえば井上寛はフタオガ科の下位にフジキオビ亜科 Schistomitrinae を設置してフジキオビとキンモンガを含めたが[4]、この亜科は現在では本科のシノニムとなっている[3]。現在の本科の分類は Joël Minet による整理を経たものである[3][5][15]

また、上述したように本科の属する上科にも議論と変遷がある[5][11]。主として形態的な知見にもとづく分類の場合はカギバガ上科に含めることが多いが[3][15][11]、近年の分子系統分析にもとづく分類ではシャクガ上科に含めることも多くなっている[2][5][8][9][20][22]

1980年代以前[3][5] Fletcher (1979) Minet (2002) WEI & YEN (2017)
上科 シャクガ上科
Geometroidea[注釈 2]
カギバガ上科
Drepanoidea
シャクガ上科
Geometroidea
アゲハモドキガ科 Epicopeiidae アゲハモドキガ科 Epicopeiidae アゲハモドキガ科 Epicopeiidae アゲハモドキガ科 Epicopeiidae
  • Deuveia
  • Burmeia
  • Amana
  • Nossa
  • Epicopeia
  • Psychostrophia
  • Schistomitra
  • Chatamla
  • Mimaporia
  • Parabraxas
ツバメガ科 Uraniidae
または
フタオガ科 Epiplemidae
フタオガ科 Epiplemidae
  • Amana
  • Chatamla
  • Nossa
  • Parabraxas
  • Psychostrophia
  • Schistomitra
  • Amana
  • Chatamla
  • Parabraxas
  • Psychostrophia
  • Schistomitra

ギャラリー 編集

脚注・出典 編集

脚注 編集

  1. ^ 現在はツバメガ科のフタオガ亜科 Epipleminae として扱われているが、以前は独立した科として扱われていた[3][4]
  2. ^ Fletcher (1979) はカギバガ科をはじめ様々な科をシャクガ上科に含めた。
  3. ^ Epicopeia のシノニム[23]

出典 編集

参考文献 編集

和文 編集

英文 編集

  • Beccaloni, George; Scoble, Malcolm; Kitching, Ian; Simonsen, Thomas; Robinson, Gaden; Pitkin, Brian; Hine, Adrian; Lyal, Chris. “Epicopiopsis”. The Global Lepidoptera Names Index. Natural History Museum. 2021年8月16日閲覧。
  • Minet, Joël; Scoble, Malcolm J. (1998). “17. The Drepanoid/Geometroid Assemblage”. In Willy Kükenthal (Ed.). Teilband 35 Volume 1: Evolution, Systematics, and Biogeography. Handbuch der Zoologie. doi:10.1515/9783110804744.301. ISBN 9783110804744. https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/9783110804744.301/html. 

外部リンク 編集