アッラーフ・アクバル

「アッラーは最も偉大である」を意味するイスラム教の祈りの言葉

アッラーフ・アクバルアラビア語اللّٰهُ أَكْبَرُ, Allāhu akbar(ʾallāhu ʾakbar)、英語:Allah akbar)とは、「アッラーは最も偉大なり」を意味するイスラーム教の慣用表現[1][2]。この文句を唱えることは動詞派生形第2形の動名詞を用いて表し、タクビール(アラビア語:تَكْبِيرٌ, Takbīr(takbīr))と呼ばれている。

アッラーフ・アクバル.
ナスタアリーク体での「アッラーフ・アクバル」(الله أكبر
イラク国旗。中央にアッラーフ・アクバルの文字がクーフィー体で書かれている。
中国語

意味と発音 編集

意味 編集

アッラーフはイスラームにおける唯一神 اَللهُ(ʾallāh, 英語:Allah)のことで、文章の主語となっている。

また أَكْبَرُ(ʾakbar, アクバル)は形容詞的な意味を有する文章の述語で「大きい」を意味する形容詞・分詞相当語 كَبِير(kabīr, カビール)の比較級・最上級の語形。ここでは至上・至高の存在である唯一神を指しているため最上級として「最も大きい」「最も偉大である」と解釈される。

アラビア語には英語のbe動詞に相当する語句が無いため、この2語を並べ「アッラーフ・アクバル」とすることで「アッラーフは最も偉大である」となる[3][4][5][6][7]。日本語では「アッラーは偉大なり」「アッラーは最も偉大なり」「アッラーは至大なり」などと訳されることが多い。

アラビア語を使わない国においても、イスラーム教徒の間ではそのままアラビア語で唱えられるが、中国の回族の間では中国語で「真主至大」(拼音: Zhēnzhǔ zhìdà)と唱えられることもある。

発音 編集

アラビア語では日常会話も含めて اللّٰهُ أَكْبَرُ(ʾallāhu ʾakbar, アッラーフ・アクバル)と発音することが広く行われているが、唯一神の呼称である اَلله(ʾallāh)が文中で主語になっている場合や単体でその名を口にする時は

  • 文語の非休止形で اَللهُ(ʾallāhu, アッラーフ)
  • 文語の休止形で اَللهْ(ʾallāh, アッラー)、ただし「フ」はかすかで明確に聞こえない
  • 日常会話の口語(方言)で اَللهْ(ʾallā, アッラー)

となること、またイスラームを信仰する非アラブ諸国の発音についてはアラビア語とはまた異なることから、日本語カタカナ表記では「アッラー・アクバル」となっている場合もある。

さらに本来はスペースを含む部分を「・」で分けずに「アッラーフアクバル」や「アッラーアクバル」といったカタカナ表記も用いられている。

実際の使用例 編集

宗教儀礼において 編集

本来は唯一神アッラーに対する信仰を明言する文言であることから、イスラーム共同体内では礼拝前の呼びかけであるアザーンや祈りの時に使われている。

慣用句として 編集

このフレーズは多用を経て慣用表現として定着しており、日常生活の色々な場面で用いられている。日本では歓声を上げる際の文言として周知されているが、歓声、悲嘆や悲鳴に相当するシーンでも使われ[8][9]ることから大災害報道に登場するなどする。

神が何よりも偉大で全ての物事を統べる存在だという発想と結びついているため、喜ばしい事態に際しての歓声として使う以外にも、大震災のような悲劇的な惨事に対して人としての無力感を覚えるような時にも叫ぶためである。

喜び・歓声 編集

歓声を一斉に上げる場合は「تَكْبِير(takbīr, タクビール)!」(「アッラーフ・アクバルと言いましょう!」の意)という掛け声に呼応して集団が「アッラーフ・アクバル!」と唱えることも行われている。

日常生活においては慣用句として定着しており、元の意味の「アッラーは最も偉大なり(God is greatest、God is great[10][11])」をそのまま訳として当てはめることが適切でないこともある。

喜び・歓声としての用法ではキリスト教圏におけるHallelujah(ハレルヤ)、Alleluia(アレルヤ)と重なる用いられ方[12]、日常会話における歓声としての用いられ方がされていることから、和訳としては「万歳!」、「すごい!」、「やったー!」、「おーっ!」などに近くなる[13][14]場面も少なくない。

悲嘆・悲鳴 編集

大事故・大災害時に使う悲嘆・悲鳴としては「Oh my god!(オーマイゴッド、ああ神よ!)[15][16]」と英訳されるなどしている。

テロ・戦闘行為との関係 編集

現代では「アッラーフ・アクバル」が異教徒などとの戦争・戦闘時におけるかけ声として用いられることもされており、いわゆるテロ組織・テロ行為とされる行動の際に叫ばれるなどしている[17][18][19]ため、この文言を使った日常慣用句に馴染みが無い非イスラーム諸国ではテロリストの常用句・テロの象徴として受け止められやすい[20]

この件についてイスラーム共同体内部では、祈りから気軽な感嘆・声援まで幅広く使われているアッラーフ・アクバルがテロリストや過激派によって"ハイジャックされた"、"評判を傷つけられた"として語られるなどしている[21][22][23]

脚注 編集

  1. ^ The Times of the Five Daily Prayers”. 2015年8月23日閲覧。
  2. ^ Allahu Akbar”. 2013年6月9日閲覧。
  3. ^ The Times of the Five Daily Prayers”. 2015年8月23日閲覧。
  4. ^ Allahu Akbar”. 2013年6月9日閲覧。
  5. ^ E. W. Lane, Arabic English Lexicon, 1893, gives for kabir: "greater, and greatest, in body, or corporeal substance, and in estimation or rank or dignity, and more, or most, advanced in age, older, and oldest" (p. 2587).
  6. ^ A.O.Green (1887). A Practical Arabic Grammar. Clarendon Press. p. 66. https://books.google.com/books?id=ex4UAAAAYAAJ&pg=PA69&lpg=PA69&dq=akbar+arabic+grammar&source=bl&ots=uCjTxeHCPG&sig=icroi8vf4Valyx2IF4XUeFoDAcE&hl=en&sa=X&ei=gnXuUeb_ItGx4APKrIH4Cw&ved=0CEIQ6AEwAw#v=snippet&q=comparative&f=false 
  7. ^ "The formula, as the briefest expression of the absolute superiority of the One God, is used in Muslim life in different circumstances, in which the idea of God, His greatness and goodness is suggested." Wensinck, A. J. The Encyclopaedia of Islam, 2nd edition. Brill, 2000. Volume 10, T-U, p. 119, Takbir.
  8. ^ ケニア沿岸の町を武装勢力が襲撃、アルシャバーブか 49人死亡
  9. ^ Mortenson, Greg, and Relin, David Oliver, ''Three cups of tea: one man's mission to fight terrorism and build nations—one school at a time'', p. 20, ISBN 0-670-03482-7. Viking. (2006). https://books.google.com/books?id=HbezCyqr3q0C&pg=PA20&lpg=PA20&dq=%22Greg+Mortenson%22+porter+%22Allah+Akbhar!+%22&source=bl&ots=mW1zL7ZxkQ&sig=LJ6Zk7w0p487vQv0nPnxRCsBgho&hl=en&ei=0UgdS4fiJImtlAey2pXyCQ&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=2&ved=0CA0Q6AEwAQ#v=onepage&q=&f=false 2011年5月8日閲覧。 
  10. ^ Project, Living Arabic. “The Living Arabic Project - Classical Arabic and dialects” (英語). livingarabic.com. 2023年10月9日閲覧。
  11. ^ Project, Living Arabic. “The Living Arabic Project - Classical Arabic and dialects”. 2023年10月9日閲覧。
  12. ^ Team, Almaany. “ترجمة و معنى الله أكبر بالإنجليزي في قاموس المعاني. قاموس عربي انجليزي المعاني مصطلحات صفحة 1” (英語). www.almaany.com. 2023年2月10日閲覧。
  13. ^ المعاني : الله أكبر”. 2023年10月9日閲覧。
  14. ^ Khan, Imran A. (2017年11月12日). “DAVID ATTENBOROUGH MADE ME SAY “ALLAH-HU-AKBAR”” (英語). The Bearded One. 2023年10月9日閲覧。
  15. ^ Does ‘Allahu Akbar’ mean ‘oh my god’?” (英語). Quora. 2023年10月9日閲覧。
  16. ^ (英語) الله أكبر, (2023-02-05), https://en.wiktionary.org/w/index.php?title=%D8%A7%D9%84%D9%84%D9%87_%D8%A3%D9%83%D8%A8%D8%B1&oldid=71214407 2023年10月9日閲覧。 
  17. ^ صيحة « الله أكبر» حققت المعجزات النصر بالإيمان .. فى السادس من أكتوبر”. 2023年10月9日閲覧。
  18. ^ خطبة الجمعة.. أستاذ بالأزهر يكشف صيحات الغزوات وحرب أكتوبر.. الشهداء في أعلى درجات الجنة.. على المصريين أن يتمسكوا بحبل الله.. ويؤكد: احذروا الفتن التي تريد تدمير البلاد.. فيديو وصور”. 2023年10月9日閲覧。
  19. ^ لكل موقعة صيحة .. أستاذ بالأزهر يكشف صيحات الغزوات وحرب أكتوبر.. فيديو”. 2023年10月9日閲覧。
  20. ^ صيحة الله أكبر... من أين بدأت وكيف أصبحت مرتبطة بالإرهاب؟” (アラビア語). رصيف22 (2020年10月29日). 2023年10月9日閲覧。
  21. ^ Nagourney, Eric (2017年11月2日). “‘Allahu Akbar’: An Everyday Phrase, Tarnished by Attacks” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2017/11/02/world/americas/allahu-akbar-terrorism.html 2023年10月9日閲覧。 
  22. ^ ‘The words ‘Allahu Akbar’ have been hijacked by extremists’” (英語). gulfnews.com (2016年5月11日). 2023年10月9日閲覧。
  23. ^ Taking Back 'Allahu Akbar'”. 2023年10月9日閲覧。

関連項目 編集