クリイロコミミガイ(栗色小耳貝)、学名 Laemodonta siamensis は、有肺目オカミミガイ科に分類される巻貝の一種。西太平洋暖海域に分布し、内湾干潟の満潮線付近に生息する。和名は「貝」を省略し、クリイロコミミと呼ばれることもある。

クリイロコミミガイ
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
: 有肺目 Pulmonata
上科 : オカミミガイ上科 Ellobioidea
: オカミミガイ科 Ellobiidae
亜科 : Pythiinae
: Laemodonta Philippi,1846
: クリイロコミミガイ L. siamensis
学名
Laemodonta siamensis (Morelete,1875)

特徴

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成貝の貝殻は殻高8mmほどで、オカミミガイ科としては小型だが、Laemodonta 属の中では大型種である。殻は濃褐色・薄質でラグビーボールのような紡錘形をしている。殻には細かい螺肋が走り、横縞模様に見える。さらに螺肋上は低い顆粒も並ぶが、これは肉眼ではわかりにくい。通常は成貝の殻頂は浸食され欠ける。殻口は紡錘形で外側には張り出さず、内側に2歯・軸唇と外側にそれぞれ1歯がある。同属種にしばしば見られる臍孔や微毛はなく、縫帯も弱く、周辺の角張りもない。同属のウスコミミガイ L. exaratoidesマキスジコミミガイ L. monilifera 等は本種と似ているが、これらの同属種の殻頂は通常欠けず尖る。また生息環境も異なる[1][2]

伊勢湾以南の南日本、朝鮮半島南部、台湾、東南アジアまで、西太平洋の熱帯・亜熱帯域に分布する[1][2]。学名の種名"siamensis"は「シャムに棲む」の意である。

内湾の泥質干潟や、その陸側のヨシ原マングローブ域に生息し、満潮線付近の泥に半ば埋まった石の下に潜む[1]。大潮の満潮時には短時間水没する程度の高さに生息し、生体の周囲にはカタツムリのものに似た紐状の糞も見られる。同所的にはナラビオカミミガイウミニナフトヘナタリカワザンショウ類、ユビアカベンケイガニ等が見られる。

 
石をひっくり返したところ。周囲の紐状のものは本種の糞

日本における保全活動状況

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  • 絶滅危惧I類 (CR+EN)環境省レッドリスト
  • 県別レッドリスト
    • 絶滅危惧I類 - 愛媛県・大分県・福岡県・佐賀県・長崎県
    • 絶滅危惧II類 - 三重県・徳島県・熊本県・鹿児島県
    • 情報不足 - 宮崎県
  • 長崎県未来環境条例」が指定する「希少野生動植物種」 - 2009年[3]

オカミミガイ科他種と同じく、人間の活動の影響で生息地が減少している。干潟から陸地へ移行する区域に生息しているが、この区域は小規模な環境の改変でも消滅しやすい。干潟の埋立までせずとも、道路や船着場の建設などで消滅することがある。

日本産オカミミガイ科の中では分布域は広いが生息地は少ない。南西諸島より九州・四国・本州での生息地が危機的状況にあるとされている。日本の環境省が作成した貝類レッドリスト2007年版では、最も絶滅が危惧される「絶滅危惧I類」の一種として掲載された。また各県が独自に作成したレッドリストでも、10県で絶滅危惧種として挙げられている[2][4][5]

参考文献

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  1. ^ a b c 奥谷喬司編著『日本近海産貝類図鑑』(解説 : 黒住耐二)2000年 東海大学出版会 ISBN 9784486014065
  2. ^ a b c 環境省生物多様性情報システム 陸産貝類・淡水産貝類レッドリスト 付属説明資料 平成22年3月
  3. ^ 長崎県環境部自然保護課 希少野生動植物捕獲等禁止区域について
  4. ^ 日本のレッドデータ検索システム クリイロコミミガイ
  5. ^ 長崎県環境部自然保護課 長崎県レッドリスト 2011年改訂版