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グルホシネート英語: Glufosinateホスフィノスリシンとしても知られ、しばしばアンモニウム塩として販売されている)は、自然界では ストレプトマイセス属土壌細菌のいくつかの種によって生産される、天然の広域除草剤ISO ではアンモニウム塩ではなく、遊離酸を Glufosinate(ISO)と命名している[1] 。非選択的な接触除草剤であり、全身作用もある[2]。植物はまた、別の天然除草剤であるビアラホスを、グルホシネートに直接代謝する場合がある[3]。アミノ酸系除草剤で、グルタミンの生成とアンモニアの解毒に必要な酵素であるグルタミンシンテターゼを不可逆的に阻害し、抗菌抗真菌 、除草特性を与える。 植物に対してグルホシネートを用いることで、組織中のグルタミンの減少とアンモニア濃度の上昇をもたらし、光合成を停止させ、その結果殺草活性を示すと考えられている[1][4]

グルホシネート
Skeletal formula of glufosinate
Ball-and-stick model of the glufosinate zwitterion{{{画像alt1}}}
識別情報
CAS登録番号 51276-47-2 チェック
PubChem 4794
ChemSpider 4630 チェック
EC番号 257-102-5
KEGG C05042 チェック
ChEBI
ChEMBL CHEMBL450298 チェック
特性
化学式 C5H12NO4P
モル質量 181.13 g mol−1
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

発見編集

1960年代から1970年代初期にテュービンゲン大学明治製菓会社の科学者らが、ストレプトマイセス属細菌が、細菌を阻害するビアラホスと呼ばれるトリペプチドを生成することを、独自に発見した。2つのアラニン残基と、彼らが「ホスフィノスリシン」と名付けたグルタミン酸類似体であるユニークなアミノ酸で構成されている[5]:90 。彼らは、ホスフィノスリシンがグルタミンシンテターゼを不可逆的に阻害することを同定した :90 。ホスフィノスリシンは、1970年代にヘキストの科学者によってラセミ混合物として初めて合成された。このラセミ混合物はグルホシネートと呼ばれ、化学的に商業的に関連するバージョンである[5][5]:91–92。 その後、光学異性体の活性本体であるL体(グルホシネートP、ナトリウム=L-ホモアラニン-4-イル(メチル)ホスフィナート)を有効成分とした液剤製品も上市されている[6]

1980年代後半、科学者はこれらのストレプトマイセス種に、遊離ホスフィノスリシンを選択的に不活性化する酵素を発見した。ストレプトミセス・ヒグロスコピクスから分離された酵素をコードする遺伝子は「ビアラフォス耐性」または「bar」遺伝子と呼ばれ、Streptomyces viridochromeogenesの酵素をコードする遺伝子は「 phosphoinothricin acetyltransferase 」または「pat」と呼ばれる[5]:98 。2つの遺伝子とそのタンパク質は、DNAレベルで80%の相同性、86%のアミノ酸相同性を持ち、それぞれ158アミノ酸長である [5]:98

利用編集

グルホシネートは、アサガオ 、セスバニアハーバケア(Sesbania bispinosa)、ペンシルバニアスマートウィード(Polygonum pensylvanicum )、およびショクヨウガヤツリなどの主な雑草を制御するために、グリホサートに似た広域除草剤として用いられる。 完全な効果を得るために、対象となる雑草植物が発芽する頃に用いる[4] 。Basta(バスタ)、Rely、Finale、Challenge、Libertyなどの商品名でBASFから販売されている[7]。 日本では、非選択制茎葉処理除草剤としてバスタ(BASF)、ザクサ(明治製菓ファルマ)[6]など、また、一般向け(非農耕地用)の非選択的除草剤が各種販売されている。

グルホシネートは通常、除草剤として3つの状況で使用される。

 
作物噴霧器
  • 接触すると菌類や細菌を殺す作用をするため、さまざまな植物病害に対してある程度の保護を作用があることが示されている[9]

遺伝子組み換え作物編集

グルホシネートに耐性のある遺伝子組み換え作物は、 ストレプトマイセスbarまたはpat遺伝子を、適切な作物の種子に遺伝子操作することによって作成された[5]:98。 1995年に最初のグルホシネート耐性作物であるキャノーラが市場に投入され、1997年にトウモロコシ、2004年に綿、2011年に大豆が続いた[10]

作用機序編集

ホスフィノスリシンは、グルタミン酸部位に結合するグルタミン合成酵素阻害剤。グルホシネートで処理された植物は、 チラコイド内腔にアンモニアが蓄積するために死に、 光リン酸化の脱共役をもたらす [9]。 光リン酸化の脱共役により、活性酸素種の生成、 脂質過酸化 、および細胞膜破壊が引き起こされる[11]

アンモニアレベルの上昇は、ホスフィノスリシンの適用後1時間以内に検出可能となる[4]

毒性編集

食品中に残存することでのヒトへの暴露編集

グルホシネートは収穫前の乾燥剤としてよく使用されるため、残留物は人間が摂取する食品にも含まれる。ジャガイモ、エンドウ豆、豆、トウモロコシ、小麦、大麦などがある。さらに、化学物質は汚染されたわらを与えられた動物を介してヒトが摂取する。 痕跡量のグルホシネートを含む小麦粒から加工された小麦粉は、化学物質の残留物の10〜100%を保持することがわかている[12]

除草剤も持続的で、除草剤の処理から120日後に植えられたホウレンソウ、大根、小麦、ニンジンに多く見られる[4] 。また、その持続性は、土壌の種類と有機物の含有量に応じて3〜70日間変化する半減期によっても観察できる 。残留物は冷凍食品に最長2年間残ることがあり、化学物質は熱湯で食品を調理しても簡単に破壊されない [12] 。EPAは、難分解性と土壌中で容易に移行することに基づいて、グルホシイネートを「持続性」と「可動性」に分類する。 妊娠中および妊娠していない女性における、循環血中の、遺伝子組み換え食品に関連する農薬(Pesticides associated to genetically modified foods (PAGMF))の存在を明らかにし、栄養および子宮胎盤毒性を含む生殖毒性の新しい分野への道を開いた研究もある[13]

暴露限界編集

労働安全衛生局(Occupational Safety & Health Administration、OSHA)または米国産業衛生専門家会議(American Conference of Governmental Industrial Hygienists、ACGIH)によって定められた暴露限度は、無い [14]。WHO / FAOの推奨するグルホシネートの一日摂取許容量(ADI)は、0.02 mg / kg [12] 。欧州食品安全局はADIを0.021mg / kg体重 / dayに設定した。 出産可能女性の急性参照用量(ARfD)は0.021 mg / kg体重 / day。

規制編集

米国環境保護庁のEPA登録化学物質である。 また、カリフォルニア州の登録化学物質である。 米国では禁止されておらず、 PIC農薬でもない [15]。OSHAまたは米国政府産業衛生士会議によって定められた暴露限度は無い [14]

ヨーロッパでは、除草剤として使用するために登録されている。2007年に最後にレビューされ、登録は2018年に期限切れになるように設定された [16]。フランスでは、2017年10月24日より、食品安全、環境および労働のための国家機関(Agence nationale de sécurité sanitaire de l'alimentation, de l'environnement et du travail)によって生殖毒性化学物質(R1b)として分類されているため、市場から撤退した [17]

日本では、「グルホシネート[Glufosinate]」、活性本体である L体を選択的に製造した「グルホシネート P ナトリウム塩[Glufosinate-P sodium salt] (D/L 存在比 L 体が 99.9%以上)」が農薬登録されており、18.5%グルホシネート 液剤、8.5%グルホシネート 液剤、20.0%グルホシネート 水和剤、11.5%グルホシネート P ナトリウム塩液剤について使用方法の規制があり、グルホシネートのADIは0.0091 mg/kg 体重/day としている[1]

脚注編集

  1. ^ a b c グルホシネート (PDF) 厚生労働省 農薬・動物用医薬品部会
  2. ^ glufosinate-ammonium”. PPDB: Pesticide Properties DataBase. 2019年8月閲覧。
  3. ^ “Biosynthetic Gene Cluster of the Herbicide Phosphinothricin Tripeptide from Streptomyces viridochromogenes Tu494”. Applied and Environmental Microbiology 70: 7093–7102. doi:10.1128/AEM.70.12.7093-7102.2004. PMC: 535184. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC535184/. 
  4. ^ a b c d Topsy Jewell for Friends of the Earth (1998年12月). “Glufosinate ammonium fact sheet”. Pesticides News No.42. 2015年3月閲覧。
  5. ^ a b c d e f Donn, G and Köcher, H. Inhibitors of Glutamine Synthetase. Chapter 4 in Herbicide Classes in Development: Mode of Action, Targets, Genetic Engineering, Chemistry. Eds Peter Böger, Ko Wakabayashi, Kenji Hirai. Springer Science & Business Media, 2012 ISBN 9783642594168
  6. ^ a b ザクサ液剤 Meiji Seika ファルマ
  7. ^ バイエルの種子事業と非選択性除草剤買収で合意 BASF”. JAcom(農協協会) (2017年10月16日). 2019年9月2日閲覧。
  8. ^ benefits of glyphosate in Europe.pdf The agronomic benefits of glyphosate in Europe - ウェイバックマシン(2012年1月17日アーカイブ分)
  9. ^ a b Duke, SO. Biotechnology: Herbicide Resistant Crops. In Encyclopedia of Agriculture and Food Systems, 2nd edition. Ed. Neal K. Van Alfen. Elsevier, 2014. ISBN 9780080931395. Page 97
  10. ^ Green JM and Castle LA. Transitioning from Single to Multiple Herbicide-resistant Crops. Chapter 4 in Glyphosate Resistance in Crops and Weeds: History, Development, and Management. Editor, Vijay K. Nandula. John Wiley & Sons, 2010 ISBN 9781118043547 Page 112
  11. ^ Summary of Herbicide Mechanism of Action, HRAC and WSSA
  12. ^ a b c Watts. “Glufosinate Ammonium Monograph”. Pesticide Action Network Asia and the Pacific. 2015年4月20日閲覧。
  13. ^ doi: 10.1016/j.reprotox.2011.02.004
  14. ^ a b Chemical Identification and Company Information : DL-Phosphinothricin, Monoammonium Salt (PDF)”. Phytotechlab.com. 2015年4月25日閲覧。
  15. ^ The Rotterdam Convention on Prior Informed Consent (PIC)
  16. ^ European Commission. Glufosinate in EU Pesticides Database Page accessed August 7, 2015
  17. ^ Anses. L’Anses procède au retrait de l’autorisation de mise sur le marché du Basta F1, un produit phytopharmaceutique à base de glufosinate Page accessed October 26, 2017

関連項目編集

外部リンク編集