サンギナリン(Sanguinarine)は、毒性のある多環アンモニウムイオンである。名前の由来となったカナダケシ等カナダケシ(サンギナリア)属の他、アザミゲシ[1]クサノオウタケニグサ等の様々な植物から抽出される。

サンギナリン
Sanguinarine Structure V.1.svg
IUPAC命名法による物質名
識別
CAS番号
2447-54-3 ×
ATCコード none
PubChem CID: 5154
ChemSpider 4970 チェック
UNII AV9VK043SS チェック
ChEBI CHEBI:17183 チェック
ChEMBL CHEMBL417799 チェック
化学的データ
化学式C20H14NO4
分子量332.09
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毒性編集

サンギナリンは、膜貫通タンパク質であるNa+/K+-ATPアーゼに作用して動物細胞を殺す毒である[2]流行性水腫は、サンギナリンを摂取することによる病気である[3]

皮膚に触れると、死んだ組織の大きなかさぶたができる。そのため、サンギナリンは痂皮性を持つと言われる[4]

代替医療編集

ネイティブ・アメリカンは、かつて催吐薬呼吸器補助、その他さまざまな病気治療のために北アメリカ大陸カナダ東部~アメリカ合衆国北東部が原産で、自生していたカナダケシ等のカナダケシ(サンギナリア)属の植物を用いていた[5]。アメリカ植民地では、カナダケシ(サンギナリア)属の植物が由来のサンギナリンがいぼ治療薬として用いられた。1869年にウィリアム・クックのThe Physiomedical Dispensatoryの中にサンギナリンの製法と使用法の情報が記載された[6]。1920年代から1930年代には、ジョン・ヘンリー・ピンカードが販売した薬品"Pinkard's Sanguinaria Compound"の主成分として用いられた。ピンカードはこの化合物を「肺炎、咳、肺の弱り、喘息、また腎臓、肝臓、膀胱、胃の不調を治療し、血液や神経にも良い」と宣伝した。1931年、ピッカードの主張が詐欺であると判断した連邦当局により、この化合物のいくつかのサンプルが押収された。ピッカードは法廷で有罪を認め、25.00ドルの罰金刑を受け入れた[7]

最近では、多くの代替医療の企業がカナダケシ(サンギナリア)属の植物が由来のサンギナリンを癌の治療法として宣伝している。しかし、アメリカ食品医薬品局は、カナダケシ(サンギナリア)属の植物やその他のサンギナリン含有植物を含む製品の抗がん作用は証明されておらず、そのため使用は避けるべきと警告している[8]。実際、このような製品の経口摂取は口腔癌の前兆と考えられる白板症と関連している[9]。さらに、皮膚癌治療のため皮膚にサンギナリンを接触させると、大きな傷跡を残す一方で、皮膚内の癌細胞は生存し続ける。そのため、皮膚癌治療には推奨されない[10][11]

生合成編集

植物では、サンギナリンの生合成は、4-ヒドロキシフェニル-アセトアルデヒドとドーパミンから始まる。これら2つの化合物が結合してノルコクラウリンを形成し、さらにメチル基が付加してN-メチルコクラウリンとなる。次に酵素N-メチルコクラウリン-3'-モノオキシゲナーゼ(CYP80B1)がヒドロキシル基を付加し、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンとなり、もう1つのメチル基が付加してレチクリンとなる。

この時点までのサンギナリンの生合成は、モルヒネの生合成と実質的に相同である。しかし、モルヒネの場合はコデイノンに変換されるが、レチクリンはベルベリン架橋酵素によりスクレリンに変換される。そのため、ここはサンギナリン生合成の重要な段階である[12]。スクレリンがどのような経路を辿るかは完全に分かっていないが、最終的にジヒドロサンギナリンに変換され、さらにジヒドロベンゾフェナントリジンオキシダーゼの作用でサンギナリンとなる[13]

 
サンギナリンの生合成[12]

出典編集

  1. ^ Santos, Alfredo C.; Adkilen, Pacifica (1932). “The Alkaloids of Argemone Mexicana”. Journal of the American Chemical Society 54 (7): 2923-2924. Bibcode1932JAChS..54.2610C. doi:10.1021/ja01346a037. 
  2. ^ Pitts, Barry J. R.; Meyerson, Laurence R. (1981). “Inhibition of Na,K-ATPase Activity and Ouabain Binding by Sanguinarine”. Drug Development Research 1 (1): 43-49. doi:10.1002/ddr.430010105. 
  3. ^ Das, M; Khanna, S. K. (1997). “Clinicoepidemiological, Toxicological, and Safety Evaluation Studies on Argemone Oil”. Critical Reviews in Toxicology 27 (3): 273-297. doi:10.3109/10408449709089896. PMID 9189656. 
  4. ^ Cienki, J. J.; Zaret, L (2010). “An Internet Misadventure: Bloodroot Salve Toxicity”. The Journal of Alternative and Complementary Medicine 16 (10): 1125-1127. doi:10.1089/acm.2010.0140. PMID 20932193. 
  5. ^ BRIT - Native American Ethnobotany Database” (英語). herb.umd.umich.edu. 2017年5月7日閲覧。
  6. ^ Sanguinaria Canadensis. Blood root, Red puccoon, Red turmeric. | Henriette's Herbal Homepage”. www.henriettesherbal.com. 2017年5月7日閲覧。
  7. ^ FDA Notices of Judgment Collection, 1908-1966”. ceb.nlm.nih.gov. 2017年5月7日閲覧。
  8. ^ Research, Center for Drug Evaluation and. “Enforcement Activities by FDA - 187 Fake Cancer” (英語). www.fda.gov. 2017年5月7日閲覧。
  9. ^ W., Neville, Brad (2002-01-01). Oral & maxillofacial pathology. W.B. Saunders. ISBN 0721690033. OCLC 899021983. https://www.worldcat.org/oclc/899021983 
  10. ^ Sivyer, Graham W.; Rosendahl, Cliff (2014-07-31). “Application of black salve to a thin melanoma that subsequently progressed to metastatic melanoma: a case study”. Dermatology Practical & Conceptual 4 (3): 77-80. doi:10.5826/dpc.0403a16. ISSN 2160-9381. PMC 4132006. PMID 25126466. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4132006/. 
  11. ^ Beware of black salve | American Academy of Dermatology”. www.aad.org. 2018年7月2日閲覧。
  12. ^ a b Alcantara, Joenel; Bird, David A.; Franceschi, Vincent R.; Facchini, Peter J. (2017-04-28). “Sanguinarine Biosynthesis Is Associated with the Endoplasmic Reticulum in Cultured Opium Poppy Cells after Elicitor Treatment”. Plant Physiology 138 (1): 173-183. doi:10.1104/pp.105.059287. ISSN 0032-0889. PMC 1104173. PMID 15849302. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1104173/. 
  13. ^ “Chelirubine, Macarpine, and Sanguinarine Biosynthesis”. Recommendations on Biochemical & Organic Nomenclature, Symbols & Terminology etc.. International Union of Biochemistry and Molecular Biology. http://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/enzyme/reaction/alkaloid/macarpine.html