モルヒネ
モルヒネ(蘭: morfine、英: morphine、英語発音: [ˈmɔːrfiːn])は、ベンジルイソキノリン型アルカロイドの一種で、チロシンから生合成されるオピオイド系の化合物である。ケシを原料とする。脳内や脊髄に作用し、痛みを脳に伝える神経の活動を抑制し、鎮痛作用を示す。
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IUPAC命名法による物質名 | |
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(5α,6α)-7,8-didehydro- 4,5-epoxy-17-methylmorphinan-3,6-diol | |
臨床データ | |
胎児危険度分類 | |
法的規制 | |
投与方法 | 吸入, 経口, 皮下注射, 筋肉内注射, 静注 |
薬物動態データ | |
生物学的利用能 | 〜25% (経口); 100% (静注); |
血漿タンパク結合 | 30–40% |
代謝 | 肝臓 90% |
半減期 | 2–3 時間 |
排泄 | 腎臓 90%, 胆汁 10% |
識別 | |
CAS番号 | 57-27-2 |
ATCコード | N02AA01 (WHO) |
PubChem | CID: 5288826 |
DrugBank | APRD00215 |
ChemSpider | 4450907 |
KEGG | D08233 |
化学的データ | |
化学式 | C17H19NO3 |
分子量 | 285.4 |
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強力な鎮痛作用を持ち、日本では薬機法に定められた、重要な処方箋医薬品である。とくに持続する鈍痛に効果が高く、一般的な鎮痛薬が効きにくい内臓痛をはじめ、各種がん痛や手術後にも適応する。有効限界がないのも特徴で、より強い痛みに対しては用量を増やすことによる対応が可能である[1]。
医療用途編集
医療用途においては、癌性疼痛や胃けいれんを始め、各種の疾病、及び、外傷による疼痛を緩和する目的で使用される。薬剤の剤形としては錠剤、散剤、液剤、坐剤、注射剤があり、それぞれ実情に応じて使用される。「モルフィン」「モヒ」とも言う。末(粉薬)、錠剤、徐放剤(ゆっくりと長時間効く薬)、内服液、貼付剤、坐剤、注射剤、シリンジ注など、多くの剤形が揃っており、種々の痛みに対応出来る。
作用機序編集
モルヒネはオピオイド神経を興奮させ、下行性疼痛制御により、侵害受容器(痛みを感じる受容器)で発生した興奮の伝達を遮断し、上行性疼痛伝達を止めることにより、中枢鎮痛作用を示す。
副作用編集
モルヒネの副作用には、薬物依存性、耐性のほか、悪心嘔吐、血圧低下、便秘、眠気、呼吸抑制がある。便秘の発現が98%、悪心嘔吐は40%–50%の症例でみられる。眠気はモルヒネ投与開始から7日の間で頻繁にみられ、時間経過と共に改善することがほとんどである。
塩基性であることから乳汁中に濃縮されやすく、乳汁中に排泄され、乳児に影響を及ぼすことがある。
毒性編集
毒としてみた場合、非常に強い塩酸モルヒネを例にとると、ヒト(経口)のLD50:120-500mg/kg。マウス皮下注 (LD50) 456mg/kg、マウス静注 (LD50) 258 mg/kg。乳児・ 小児では感受性が高い。数量にすると、ヒトに対し6-25gであり、数分から2時間程度で死亡する。
法的分類編集
国際的には、麻薬に関する単一条約の、スケジュールIに指定されている。
歴史編集
1804年、ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナーにより、初めて分離される(この物質は、史上初めて薬用植物から分離されたアルカロイドとなった)。ゼルチュルナーは、この薬が「夢のように痛みを取り除いてくれる」ということから、ギリシア神話に登場する夢の神モルペウス (Morpheus)にちなんでモルフィウム (morphium) と名づけ、効用の研究・宣伝に当たった。
1805年には鎮静催眠薬として精神医学にも導入された[2]。
しかし、1853年の皮下注射針の開発までは、モルヒネは普及しなかった。鎮痛のために用いられ、また、アヘンやアルコールの中毒(依存症)の治療として用いられた。南北戦争ではモルヒネは広く使用され、軍人病(モルヒネ依存症)による40万人を超える被害者を生み出した。また普仏戦争において、同様のことが西欧で起こった。
脚注編集
関連項目編集
- デソモルヒネ
- コノトキシン
- ブロンプトン・カクテル
- 『人間失格』 - 主人公の大庭葉蔵が絶望の果てに酒の替わりに知り中毒に陥る。
- L.A.ノワール - 推理ゲーム。風紀犯罪課の捜査でモルヒネの事件を扱う。