ザ・スフィア

ブロンズ鋳造彫刻

「ザ・スフィア」 (: The Sphere) は、ドイツの芸術家フリッツ・ケーニッヒ英語版が制作した高さ25-フート (7.6 m)のブロンズ鋳造彫刻。1971年の完成以来、ニューヨークワールドトレードセンターにあった広場(トービン・プラザ)の中心に設置されていた。「ザ・スフィア」は2001年のアメリカ同時多発テロで大きな被害を受けたが破壊は免れており、がれきの中から回収された後にマンハッタン島南端のバッテリー・パークに移設された。2017年8月に再び移設が行われ、現在はワールドトレードセンターの跡地に隣接するリバティ・パーク英語版に設置されている。

『ザ・スフィア』
Grosse Kugelkaryatide N.Y.
9/11テロ発生以前の「ザ・スフィア」
作者フリッツ・ケーニッヒ英語版
製作年1971
種類ブロンズ鋳造彫刻
寸法7.6 m (25 ft)
所蔵リバティ・パーク英語版ニューヨーク市
座標座標: 北緯40度42分38秒 西経74度0分50秒 / 北緯40.71056度 西経74.01389度 / 40.71056; -74.01389
所有者ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社 (PANYNJ)

解説 編集

「ザ・スフィア」は1971年以来ワールドトレードセンターのプラザに設置されていたが、2001年のアメリカ同時多発テロに巻き込まれて損傷し、がれきに埋もれた状態で発見された。

「ザ・スフィア」は鋳造した52個の銅製パーツからなる高さ25フィート (7.6 m)の彫刻作品であった[1]。組み立ては西ドイツのブレーメンで行われ、完成後にニューヨークのロウアー・マンハッタンまで輸送された[1]

1971年から2001年まで、「ザ・スフィア」はワールドトレードセンターの敷地中央に設けられた広場「オースティン・トービン・プラザ」に設置されていた[2]。この広場はミノル・ヤマサキ(ワールドトレードセンターの設計者)によってメッカの大モスクを模してデザインされており、「ザ・スフィア」はその中央にある円形の噴水の中心部に設置されており、それはメッカのカアバに相当する場所であった[3]。この彫刻作品は「世界の平和と貿易」を象徴するものであった[4]

制作 編集

この作品は1966年、ワールドトレードセンターの建設にあたるニューヨーク・ニュージャージー港湾公社 (PANYNJ) がフリッツ・ケーニッヒ英語版に制作を依頼したものだった。当初、港湾公社はヘンリー・ムーアに彫刻作品の制作を依頼することを検討していたが、ミノル・ヤマサキがマンハッタンの「ステンフリ・ギャラリー (Staempfli Gallery)」でケーニッヒの作品を目にしたことがきっかけとなり、ムーアの代わりにケーニッヒが選ばれることとなった[1]。ケーニッヒはワールドトレードセンターの建設工事が開始した直後の1967年から彫刻の制作を開始し、4年後の1971年までに作品を完成させた[2]。ケーニッヒによって Grosse Kugelkaryatide N.Y. (ニューヨークの巨大な球状カリアティード) と命名されたこの作品は、一般的には「ザ・スフィア」として知られるようになった[2][1]

場所の変遷 編集

9/11テロ事件の直後 編集

2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件の後、「ザ・スフィア」はがれきの中から回収された。その後、ジョン・F・ケネディ国際空港の近くにある倉庫まで輸送され、そこで保管されていた。「ザ・スフィア」は比較的軽度のダメージしか受けていないように見えたため、ワールドトレードセンターのシンボルの1つであったこの作品を911テロの記念碑として使うべきだとする意見が湧き上がった[5]。テロの5週間後、「ザ・スフィア」の作者ケーニッヒは『バグダッド・カフェ』で知られる映画監督パーシー・アドロン英語版と共にグラウンド・ゼロを訪れた。当初ケーニッヒは、回収された「ザ・スフィア」は「美しい死体」であるとして、この作品を再び展示することには反対していた[6]

バッテリー・パークへの移設 編集

 
バッテリー・パークに移設された「ザ・スフィア」(2015年)

最終的に「ザ・スフィア」はマンハッタンに戻され、2002年3月11日にはグラウンド・ゼロから数ブロック離れたバッテリー・パークに、9/11テロによる犠牲者の追悼碑として再建立された。移設作業はケーニッヒ自身の監督のもとで実施され、それにあたって新たな台座も製作された。再建立記念式典では当時のニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグやその前任者ルドルフ・ジュリアーニがスピーチを行った。ケーニッヒは、「かつてこの作品は彫刻だったが、今では記念碑となった」とした上で、「今や私自身が想像だにしなかったような美しさを有しており、私が与えたものとは異なる独自の生命が宿っている」と述べた[7]

リバティ・パークへの再移設 編集

 
リバティ・パークに再移設された「ザ・スフィア」(2018年)

2011年、「ザ・スフィア」をワールドトレードセンター跡地の9/11メモリアル内のプラザに移設することを求めるオンライン請願がテロ犠牲者の遺族によって開始され、2011年3月までに7200人以上の署名を集めたが[8]、9/11メモリアルの関係者はプラザにテロの遺物を設置することには反対すると明言した[9][10]。一方で、「ザ・スフィア」の所有者であるニューヨーク・ニュージャージー港湾公社は2012年6月28日、9/11メモリアルへの移設を支持することを表明した[11]。2016年6月には、9/11メモリアルの近隣にリバティ・パーク英語版がオープンしたが、「ザ・スフィア」の移設問題はいまだ未解決の状態だった[12]。2016年7月22日、港湾公社は「ザ・スフィア」のリバティ・パークへの移設を票決したと発表した[13][14]。2017年8月、港湾公社によるリバティ・パークへの移設が行われ[15][16]、「ザ・スフィア」はバッテリー・パークからワールドトレードセンター跡地を見晴らす場所に移り、2017年9月6日には一般公開された[17][18]。2017年11月29日、「ザ・スフィア」がワールドトレードセンターに帰還したことを祝して、港湾公社はリバティ・パークで記念式典を挙行した[19]

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ a b c d Percy Adlon (2001年). “Koenig’s Sphere”. Leora Films, Inc.. 2010年9月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年9月9日閲覧。
  2. ^ a b c Fritz Koenig, sculptor whose art withstood 9/11 attack, dies”. Associated Press (2017年2月24日). 2019年9月9日閲覧。
  3. ^ Kerr, Laurie (2001年12月28日). “The Mosque to Commerce: Bin Laden's special complaint with the World Trade Center”. Slate (The Washington Post Company). http://www.slate.com/id/2060207/ 2009年1月27日閲覧。 
  4. ^ Otterman, Sharon (2017年11月29日). “Battered and Scarred, 'Sphere' Returns to 9/11 Site”. New York Times. 2019年9月9日閲覧。
  5. ^ Robert Kolker (2005年11月28日). “The Grief Police; No one says the 9/11 families aren't entitled to their pain. But should a small handful of them have the power to reshape ground zero?”. New York Magazine. 2010年3月24日閲覧。
  6. ^ Percy Adlon (2001年12月15日). “Koenig's Sphere: The German Sculptor Fritz Koenig at Ground Zero”. Bayerischer Rundfunk (BR) 
  7. ^ Hargittai, I.; Hargittai, M. (2017). New York Scientific: A Culture of Inquiry, Knowledge, and Learning. Oxford University Press. p. 264. ISBN 978-0-19-876987-3. https://books.google.com/books?id=sT5uDQAAQBAJ 2019年9月11日閲覧。 
  8. ^ Haskell, Peter. “Effort Underway To Return Iconic Sphere Sculpture To World Trade Center”. CBS Local Media, a division of CBS Radio Inc. 2011年7月5日閲覧。
  9. ^ Shapiro, Julie. “9/11 Family Members Start Petition to Save World Trade Center Sphere”. Digital Network Associates dba DNAinfo.com. 2011年3月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年2月28日閲覧。
  10. ^ Chung, Jen. “World Trade Center Sphere's Uncertain Fate Worries 9/11 Families”. Gothamist LLC. 2011年2月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年2月28日閲覧。
  11. ^ “Port Authority head supports making WTC sphere that survived 9/11 attacks part of memorial”. The Washington Post (Associated Press). オリジナルの2018年11月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20181108105425/https://www.washingtonpost.com/national/port-authority-head-supports-making-wtc-sphere-that-survived-911-attacks-part-of-memorial/2012/06/28/gJQAb9o49V_story.html 2012年6月29日閲覧。 
  12. ^ Barone, Vincent (2016年6月30日). “Liberty Park renews debate around Koenig Sphere's home”. 2016年7月10日閲覧。
  13. ^ Plagianos, Irene (2016年7月21日). “Koenig Sphere Moving to WTC Liberty Park, Port Authority Says”. DNAinfo New York. 2017年8月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年10月1日閲覧。
  14. ^ Port Authority votes to move Koenig Sphere to Liberty Park”. Downtown Express. 2016年7月24日閲覧。
  15. ^ Otterman, Sharon (2017年11月29日). “Battered and Scarred, ‘Sphere’ Returns to 9/11 Site” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2017/11/29/nyregion/911-memorial-sphere-sculpture.html 2018年1月8日閲覧。 
  16. ^ Plitt, Amy (2017年8月17日). “Iconic 'Sphere' sculpture, damaged on 9/11, moves to its permanent home”. Curbed NY. 2017年8月18日閲覧。
  17. ^ The Sphere, a Symbol of Resilience After 9/11, Is Unveiled at Liberty Park” (2017年9月6日). 2017年9月30日閲覧。
  18. ^ Warerkar, Tanay (2017年9月6日). “World Trade Center's iconic 'Sphere' sculpture is now on view at Liberty Park”. Curbed NY. 2017年10月1日閲覧。
  19. ^ Otterman, Sharon (2017年11月29日). “Battered and Scarred, ‘Sphere’ Returns to 9/11 Site”. New York Times. https://www.nytimes.com/2017/11/29/nyregion/911-memorial-sphere-sculpture.html 2019年9月11日閲覧。 

外部リンク 編集

画像外部リンク
  The Sphere in Battery Park
  The Sphere in Liberty Park