スクアレン
スクアレンの構造式
スクアレンの分子模型
IUPAC名2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサ-2,6,10,14,18,22-ヘキサエン
別名スクワレン
分子式C30H50
分子量410.73
CAS登録番号111-02-4
形状若干黄緑色を帯びた液体
または、無色液体
密度0.858 g/cm3, 液体
融点−75 °C
沸点285 °C(25 mmHg)

スクアレン (squalene) とは、トリテルペンに属する油性物質である。肝油から発見されたが、オリーブ油にも含まれ、人体では生合成され皮脂の主な成分として分泌される。これに水素を添加したスクアラン (squalane、またはスクワランとの表記)についても記す。

歴史 編集

スクアレンは、1906年に東京工業試験所辻本満丸によって“黒子鮫”の肝油から発見され[1]、1926年、イシドール・ヒールブロン (Isidor Morris Heilbron) によって構造が決定された[2]

辻本は深海鮫 (学名Squalus spp.) から発見したことから、スクアレン (squalene) と命名した[3]

1990年代にはスクアレン、スクアラン共に鮫肝油が主な原料で、1990年代は日本が主要な輸入国かつ消費国で、「鮫肝油エキス」として健康食品が販売されてきた[4]。基礎研究では抗酸化、抗がん、抗菌作用を示し、また様々な化学物質の前駆体でもあり、ワクチンを体内で輸送するアジュバントにも利用でき、様々な製造業が注目し需要が増加し、このため持続可能性のある生産方法が求められており、微生物の分野で探索が続けられている[3]

分布 編集

スクアレンはステロイド骨格の中間体でもあり、多くの動物に分布している。哺乳類では、メバロン酸経路を通じてアセチルCoAより肝臓皮膚で800mg/日程度生合成されるが、さらにコレステロールに転化されるため、その存在量は多くない。

肝臓にて生合成され皮脂腺から分泌されており、ヒトではその分泌量は食事の影響や個人差があり1日に125–475mgで、一般に30歳を過ぎると分泌量が減ってくる[3]。ヒトでは、皮膚に集中的に存在しており、スクアレンは皮脂の13%を占める主な構成成分である[5]。市販のスクアレンはサメ肝油から抽出されたものである。サメにはがないので、浮力を得るために肝臓に蓄えた脂質を利用している。

オリーブ油にも含まれる[6]ほか、羊毛を処理する際の副産物としても得られる。

役割 編集

ヒトでは手のひらと足の裏をのぞく毛穴から皮脂として分泌され、皮膚を柔軟にし、肌に水分を保つ。また基礎研究からは抗酸化作用を持ち、フリーラジカルによる損傷を減らすといった可能性がある[5]

脂溶性の物質と乳化したり、外用での利用が行われる[5]

有効性 編集

サプリメントとして注目されているが、2010年の国立健康・栄養研究所のデータベースによると、有効性を裏付ける資料は見当たらないとされている[7]

ヒトでの試験では、経口摂取したスクアレンは血中のスクアレン濃度を増加させており、24時間後まで比較グループよりも多かった[8]

生合成 編集

まずジメチルアリル二リン酸イソペンテニル二リン酸からゲラニル二リン酸が生成する(図で −OPP は二リン酸基 −OP(=O)(OH)−O−P(=O)(OH)2 を示す)。

 

次にゲラニル二リン酸と3-イソペンテニル二リン酸からファルネシル二リン酸が生成する。

 

最後にファルネシル二リン酸2分子からファルネシル二リン酸ファルネシルトランスフェラーゼ(スクアレン合成酵素)によりスクアレンが生成する。

 

スクアラン 編集

スクアレン
IUPAC名2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサン
別名スクアラン
分子式C30H62
分子量422.826
CAS登録番号111-01-3
密度0.810 g/cm3,
融点−38 °C
沸点176 °C

スクアラン (squalane、スクワランとの表記もある) はスクアレンに水素添加を施した硬化油である。ゲラニルアセトンとアセチレンの反応からスクワランジオールを経て、化学的に合成することもできる[6]。保湿性があり化粧品に含有され、戦時には機械の潤滑油としても用いられた[4]

無色の液体で潤滑性に優れ、主にクリームなど化粧品の油剤や皮膚の保湿剤、軟膏、座薬の製造に使用される。工業的には離型剤、潤滑油、ガスクロマトグラフ固定相などに使われる[6]

妊婦の乳首に異常が生じた際に、硬さ、浮腫、発赤、水胞、亀裂に対し、従来の薬で10%前後の改善率しかないが、スクアランで過半数が改善し副作用も見られなかった[9]

出典 編集

  1. ^ 辻本満丸 (1906). “黒子鮫油に就て”. 工業化学雑誌 9 (10): 953-958. doi:10.1246/nikkashi1898.9.953. 
  2. ^ Heilbron, I. M.; Thompson, A. (1929). "CXV.—The unsaponifiable matter from the oils of elasmobranch fish. Part VI. The constitution of squalene as deduced from a study of the decahydrosqualenes." J. Chem. Soc. 883–892. doi:10.1039/JR9290000883.
  3. ^ a b c Gohil, Nisarg; Bhattacharjee, Gargi; Khambhati, Khushal; et al (2019). “Engineering Strategies in Microorganisms for the Enhanced Production of Squalene: Advances, Challenges and Opportunities”. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 7. doi:10.3389/fbioe.2019.00050. PMC 6439483. PMID 30968019. https://reftag.appspot.com/doiweb.py?doi=10.3389/fbioe.2019.00050. 
  4. ^ a b 海谷篤「天然スクアレン、スクアランの用途と最近の原料事情」『油化学』第39巻第8号、1990年、525-529頁、doi:10.5650/jos1956.39.8_525NAID 130001019606 
  5. ^ a b c Huang, Zih-Rou; Lin, Yin-Ku; Fang, Jia-You (2009). “Biological and Pharmacological Activities of Squalene and Related Compounds: Potential Uses in Cosmetic Dermatology”. Molecules 14 (1): 540–554. doi:10.3390/molecules14010540. PMC 6253993. PMID 19169201. https://doi.org/10.3390/molecules14010540. 
  6. ^ a b c 『15710の化学商品』化学工業日報社、2010年、1379頁。
  7. ^ スクアレン - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所) 更新日2010/11/12、閲覧日2018年9月26日
  8. ^ Gylling, Helena; Miettinen, Tatu A. (1994). “Postabsorptive metabolism of dietary squalene”. Atherosclerosis 106 (2): 169–178. doi:10.1016/0021-9150(94)90122-8. 
  9. ^ 小濱隆文、小林寛人「29-21 スクアランオイルを用いた乳頭・乳輪マッサージによる、乳頭異常・母乳授乳率の改善について」『日本産科婦人科學會雜誌』第56巻第2号、2004年、668頁、NAID 110002102577 

関連項目 編集