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非整数次元を持つ図形の例。左上から順にコッホ曲線の最初の4回の操作を示す。それぞれの操作において、全ての線分がもとの長さの 1/3 の4つの自己相似図形に置き換えられる。ハウスドルフ次元 D の一つの方法論として相似次元(ボックスカウンティング次元)は、スケール因子の逆数 S = 3 と自己相似図形の個数 N = 4 を用い、D = (log N)/(log S) = (log 4)/(log 3) ≈ 1.26 と計算される[1]。則ち、のハウスドルフ次元は0であり、直線のハウスドルフ次元は1、正方形のハウスドルフ次元は2、そして立方体のハウスドルフ次元は3である。コッホ曲線のようなフラクタル図形のハウスドルフ次元は、非整数になりうる。

フラクタル幾何学におけるハウスドルフ次元(ハウスドルフじげん、: Hausdroff dimension)は、1918年に数学者フェリックス・ハウスドルフが導入した、ハウスドルフ測度英語版が有限な値をとり消えていないという条件に適合する、次元の概念の非整数値をとる一般化である。すなわち、きちんとした数学的定式化のもと、のハウスドルフ次元は 0、線分のハウスドルフ次元は 1正方形のハウスドルフ次元は 2立方体のハウスドルフ次元は 3 である。つまり、旧来の幾何学で扱われるような、滑らかあるいは有限個の頂点を持つ点集合として定義される図形のハウスドルフ次元は、その位相的な次元に一致する整数である。しかし同じ定式化のもとで、フラクタルを含めたやや単純さの少ない図形に対してもハウスドルフ次元を計算することが許されるが、その次元は非整数値を取りうる。大幅な技術的進展がエイブラム・サモイロヴィッチ・ベシコヴィッチ英語版によりもたらされて高度に不規則な集合に対する次元の計算が可能となったことから、この次元の概念はハウスドルフ–ベシコヴィッチ次元としても広く知られている。

初等幾何学で用いられる通常のジョルダン測度(あるいはルベーグ測度)に関して、例えば正方形が二次元であるということは、その三次元より高次のジョルダン測度(つまり、体積および高次元体積)が 0 であり、二次元ジョルダン測度(面積)が正の値を持つ(さらに一次元および零次元のジョルダン測度は形式的に となる)ということを本質的に表している。d-次元実内積空間 Rdd-次元ジョルダン測度は、部分集合 S に対して、S の球体[注釈 1]による充填近似が定める内測度と、球体被覆による近似の定める外測度の一致するとき、その一致する値として定義されるのであった(あるいはルベーグ測度外測度のみを利用して構成される)が、(定数因子の違いを除けば)d-次元ジョルダン測度は一次元ジョルダン測度(長さ)の d 個の直積と本質的に同じであり、d-次元球(あるいは立方体)の d-次元体積は本質的に半径の d-乗である。ハウスドルフ次元は、これらの事実を抽象化して、台となる空間を一般の距離空間とし、部分集合の一次元ハウスドルフ測度を距離球体被覆による近似の下限として定まる外測度、また非整数値[注釈 2]d に対する d-次元距離球体のハウスドルフ測度を一次元測度の d-乗(の適当な定数倍)となるように定める。ジョルダン測度の場合と同じく、部分集合 Sd-次元ハウスドルフ測度は次元 d が大きければほとんどすべてに対して零であり、零でなくなるようなギリギリ小さい値として S のハウスドルフ次元を定めるのである。

ハウスドルフ次元は、ボックスカウンティング次元ミンコフスキー–ブーリガン次元英語版)のより単純だがふつうは同値な後継である。

目次

直観編集

幾何学的対象 X の次元の直観的概念は、その対象内の点を一意に指定するために必要な独立なパラメタの数というものである。しかし、二つのパラメタによって特定される任意の点は、代わりに一つのパラメタによって特定することができる。それは実平面の濃度実数直線の濃度に等しいという事実(このことは、二つの数の小数展開を織り交ぜて情報量を落とすことなく一つの数を与える論法により示せる)による。空間充填曲線の例が、一つの実数を二つの実数の対に全射(すなわち、任意の対を対象として)かつ連続的に対応付けられることを示すから、一次元の対象は完全により高次の対象を埋め尽くす。

任意の空間充填曲線はいくつかの点を複数回通過するから、連続な逆写像を持たない。すなわち、二次元の上に連続かつ連続的可逆に写すことは不可能である。位相次元とも呼ばれるルベーグ被覆次元はその理由を説明する。この次元が n であるとは、小さな開球体による X のどのような被覆においても、少なくとも一点は n + 1 個の球体が重なるものが存在するときに言う。例えば、線分を小開区間によって被覆するとき、いくつかの点は二つの区間に属さなければならないから、次元 n = 1 が与えられる。

しかし位相次元は空間の局所的な大きさ(点の近くでの大きさ)に関する非常に粗い測度である。概空間充填曲線は、それが領域の面積をほとんど埋め尽くす場合でさえ、やはりその位相次元は 1 である。フラクタルは整数の位相次元を持つが、それが取り上げる空間の量の意味では、高次元空間のような振る舞いをする。

ハウスドルフ次元は、二点間の距離を勘定に入れた空間(距離空間)の局所的大きさの測度である。X を完全に被覆するために必要な、半径高々 r球体の数 N(r) を考えるとき、r が非常に小さければ N(r)1/r を変数とする多項式的に増加する。十分素性の良い X に対して、そのハウスドルフ次元 d とは r を零に近づけるとき N(r)1/rd と同程度に増大するものとして一意に定まる数を言う。より精確に言えば、これによりボックスカウンティング次元英語版が定義され、その値 d が空間の被覆に不十分な増大率と過剰な増大率の間の臨界境界値であるときには、ハウスドルフ次元に一致する。

従来の幾何学および科学で扱われたような滑らかな図形あるいは少ない数の頂点を持つ図形に対して、ハウスドルフ次元は位相次元と一致する整数値となるが、ブノア・マンデルブロフラクタル(非整数ハウスドルフ次元を持つ集合)が自然界の至る所に見つかることを観測した。マンデルブロは身の回りにあるほとんどの乱雑な形状の真正な理想化は滑らかな理想化図形ではなくて、フラクタルな理想化図形によって述べられるということに気付いたのである:

雲は球形でなく、山は円錐形でなく、海岸線は円形でなく、樹皮は滑らかでなく、雷光は直線上には進まない

—ブノア・マンデルブロ[2]

自然界に生じるフラクタルに対して、ハウスドルフ次元とボックスカウンティング次元は一致する。充填次元英語版 はさらにもう一つの多くの図形に対して同じ値を与える同様の概念であるが、これら三種の次元がすべて異なるよく成文化された例外が存在する。

定義編集

ハウスドルフ容積編集

X を距離空間とする。SX および d[0, ∞) に対して、Sd-次元ハウスドルフ容積[注釈 3]は、半径 ri > 0球体 B(xi, ri) からなる(高々可算な)列による S の被覆がとれるときの、半径の d-乗和
i
r d
i
 
下限英語版:

 
と定義される[3]。言い換えれば、  を満たす半径 ri > 0 を持つ球によって S を被覆するときの、δ の下限である(ただし、標準的な規約 (inf ∅ = +∞) に則り、そのような δ が存在しない場合のハウスドルフ容積は無限大とする)。

ハウスドルフ次元編集

Xハウスドルフ次元は、ハウスドルフ容積が 0 となるような d の下限:

 
と定義される[注釈 4]。同じことだが、dimHaus(X)Xd-次元ハウスドルフ測度英語版[注釈 5]0 となるような d[0, ∞) の下限としても定義できる。これは、Xd-次元ハウスドルフ測度が無限大となるような d[0, ∞) の上限に等しい(ただし、そのような d が存在しないときハウスドルフ次元は 0 とする(sup ∅ = 0))。

編集

 
シェルピンスキーのギャスケットのハウスドルフ次元は log(3)/log(2) ≈ 1.58 である。
 
グレートブリテン島の海岸線のハウスドルフ次元の推定
  • ブノワ・マンデルブロの How Long Is the Coast of Britain? Statistical Self-Similarity and Fractional Dimension英語版 と題された初期の論文およびその後の他の研究者による研究では、海岸線のハウスドルフ次元は推測できると主張されている[要文献特定詳細情報]。その結果は南アフリカの海岸線の 1.02 から、グレートブリテン島の西海岸の 1.25 まで変化する[要出典]。しかし、海岸線および他の多くの自然現象の「フラクタル次元」は、大いにヒューリスティックであり、厳密にはハウスドルフ次元と見なすことはできない[要出典]。それらの結果は目盛りの大きい範囲における海岸線のスケーリング性に基づくものであるが、それらは(測定が原子および亜原子構造に依存するような)任意に小さい目盛りがまったく含まれないから、次元は上手く定義されない[疑問点]

ハウスドルフ次元の性質編集

ハウスドルフ次元と帰納次元編集

X を任意の可分距離空間とする。位相的な概念として X に対する帰納次元 dimind(X) が再帰的に定義され、常に整数値(または +∞)をとる。

定理
Xでないならば
 
が成り立つ。さらに言えば、YX同相な距離空間を走るとき
 
が成り立つ。ここで XY が同相というのは、XY の台集合は同じであり、Y の距離 dY は dX と位相的に同値であることを意味する。

この結果は、もともとはエドワード・マルチェフスキ (1907–1976) が確立したものである[6]

ハウスドルフ次元とミンコフスキー次元編集

ミンコフスキー次元英語版(ボックスカウント次元)は(少なくとも大きさについては)ハウスドルフ次元と似ており、多くの場合に同じ値を持つ。しかし、[0, 1] に属する有理数全体の成す集合のハウスドルフ次元が 0 になるのに対し、ミンコフスキー次元は 1 である。ミンコフスキー次元がハウスドルフ次元より真に大きいコンパクト集合さえも存在する。

ハウスドルフ次元とフロストマン測度編集

距離空間 Xボレル集合族上定義されたボレル測度 μ が存在して、全測度が 0 < μ(X) かつ μ(B(x, r)) ≤ rs が適当な定数 s > 0 および X 内の任意の球体 B(x, r) に対して成り立つならば、dimHaus(X) ≥ s である。フロストマンの補題[注釈 6]によって、部分的な逆が得られる(詳細は当該の項目を参照)。

合併および直積に対する振る舞い編集

有限または可算合併   に対し、

 
が成立することは定義から直接に確かめられる。

X および Y が空でない距離空間ならば、それらの直積のハウスドルフ次元は

 
を満たす[7][要ページ番号]。ここで等号が成り立たない場合も起こり得る。実際、次元 0 の二つの集合で、それらの直積の次元が 1 であるものが存在する[4][要ページ番号]。逆向きの不等号を持つような次元の不等式として、X, YRnボレル集合とすれば、直積 X × Y のハウスドルフ次元は X のハウスドルフ次元と Y の上パッキング次元の和で上から抑えられることが知られている。これらについて、Mattila (1995)に議論がある。

ハウスドルフ次元定理編集

定理
任意に与えられた r > 0 に対し、nr なる任意の n に対するユークリッド空間 Rn において、ハウスドルフ次元 r を持つフラクタルは非可算個存在する。[8]

自己相似集合編集

自己相似性条件によって定義された多くの集合は明示的に決定できる次元を持つ。大まかには、集合 E が自己相似であるとは、それが適当な集合値変換 ψ不動点、すなわち ψ(E) = E となるときに言う。正確な定義は以下に与える:

定理
Rn 上の写像の列
 
が縮小定数 ri < 1 を持つ縮小写像ならば、空でないコンパクト集合 A が一意に存在して
 
が成り立つ。

定理はバナッハの不動点定理Rn の空でないコンパクト部分集合全体がハウスドルフ距離に関してなす完備距離空間に適用することで得られる[9](Theorem 8.3)

開集合条件編集

(特定の場合の)自己相似集合 A の次元を決定するためには、縮小写像列 ψi に関する「開集合条件」と呼ばれる技術的な条件を必要とする。

条件 (開集合条件)
相対コンパクト開集合 V が存在して
 
が成り立つ。ただし、左辺の和に現れる集合族はどの二つも互いに交わらないものとする。

開集合条件は、像 ψi(V) たちが「重なり過ぎない」ことを保証する分離条件になっている。

定理
開集合条件が満足され、各 ψi が相似変換、すなわち等長変換と適当な点を中心とする拡大変換英語版の合成であるとき、ψ の唯一の不動点はハウスドルフ次元 s を持つ集合である、ただし s
 
の唯一の解である[10][要ページ番号]。相似変換の縮小係数はこの拡大変換の大きさに一致する。

この定理を用いてシェルピンスキーの三角形(シェルピンスキーのガスケット)のハウスドルフ次元を計算することができる。平面 R2 上の同一直線上にない三点 a1, a2, a3 を考え、ψiai を中心とする拡大比 1/2 の拡大変換とする。この写像 ψ に対応する空でない唯一の不動点がシェルピンスキーのガスケットであり、次元 s  の一意な解である。両辺の自然対数を取れば s について解くことができて、s = ln(3)/ln(2) を得る。シェルピンスキーのガスケットは自己相似かつ開集合条件を満たすことに注意。一般に、写像   の不動点となる集合 E が自己相似となるための必要十分条件は、どの二つの交わりに関しても

 
が成り立つことである。ただし sE のハウスドルフ次元で、Hss-次元ハウスドルフ測度とする。これはシェルピンスキーのガスケットの場合には明らか(交わりはちょうど点になるから)であるが、より一般に次も成り立つ:
定理
前の定理と同じ条件のもとで、ψ の唯一の不動点は自己相似である。

関連項目編集

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注釈編集

  1. ^ これは内積の誘導するノルムに関する d-次元ノルム球体の意味だが、位相的に同値なノルムに取り換えても構わないから、立方体充填を考えても同じことである。外測度のほうも同じ
  2. ^ ここでは任意の実数値、あるいは正負の無限大を含む補完数直線 に値をとるものとしてよいが、正の拡張実数値に取るのが普通である
  3. ^ 容積 (content) は一般的には「弱い意味の測度」として有限加法的測度の意味で用いるが、ここではおそらく外測度の意味である。
  4. ^ 十分大きな d に対して常にその容積 C d
    Haus
     
    (X)
    0 となることに注意せよ
  5. ^ ハウスドルフ容積が球体被覆の半径の和で測るのに対し、ハウスドルフ測度は任意の被覆の差し渡し(径)の和で測る
  6. ^ この補題により、ハウスドルフ次元の内測度を用いた定義が可能となる。

出典編集

  1. ^ Campbell, MacGregor (2013年). “5.6 Scaling and the Hausdorff Dimension”. 'Annenberg Learner:MATHematics illuminated'. 2015年3月5日閲覧。
  2. ^ Mandelbrot, Benoît (1982). The Fractal Geometry of Nature. Lecture notes in mathematics. 1358. W. H. Freeman. ISBN 0-7167-1186-9. 
  3. ^ Hausdorff measure at Encyclopedia of Mathematics
  4. ^ a b Falconer 2003.
  5. ^ Morters, Peres (2010). Brownian Motion. Cambridge University Press. 
  6. ^ Hurewicz & Wallman 1948, Chapter VII.
  7. ^ Marstrand 1954.
  8. ^ Soltanifar, Mohsen (2006), “On A sequence of cantor Fractals”, Rose Hulman Undergraduate Mathematics Journal 7 (1 paper 9) 
  9. ^ Falconer, K. J. (1985). The Geometry of Fractal Sets. Cambridge, UK: Cambridge University Press. ISBN 0-521-25694-1. 
  10. ^ Hutchinson 1981.

参考文献編集

関連文献編集

  • Besicovitch, A. S. (1929). “On Linear Sets of Points of Fractional Dimensions”. Mathematische Annalen 101 (1): 161–193. doi:10.1007/BF01454831. 
  • Besicovitch, A. S. (1937). “Sets of Fractional Dimensions”. Journal of the London Mathematical Society 12 (1): 18–25. doi:10.1112/jlms/s1-12.45.18. : Several selections from this volume are reprinted in Edgar, Gerald A. (1993). Classics on fractals. Boston: Addison-Wesley. ISBN 0-201-58701-7.  See chapters 9,10,11.
  • Dodson, M. Maurice (June 12, 2003). “Hausdorff Dimension and Diophantine Approximation”. Fractal geometry and applications: a jubilee of Benoît Mandelbrot. Part, --347. Proc. Sympos. Pure Math. 72 (Providence, RI: Amer. Math. Soc.) 1 (305). arXiv:math/0305399. Bibcode2003math......5399D. 
  • Hausdorff, F. (March 1919). “Dimension und äußeres Maß”. Mathematische Annalen 79 (1–2): 157–179. doi:10.1007/BF01457179. 
  • Szpilrajn, E. (1937). “La dimension et la mesure”. Fundamenta Mathematicae 28: 81–9. 

外部リンク編集