ヒドノラ科ヒドノラか (学名: Hydnoraceae) はコショウ目に分類されるの1つである。すべて光合成能を欠く全寄生植物である。2022年現在では、ヒドノラ亜科としてウマノスズクサ科に含めることも多い。寄生根宿主に寄生し、地上に大きなを咲かせる。花は3–4枚の多肉質の花被片をもち、雄しべは多数のをもつ。

ヒドノラ科
Hydnora visseri, Namibia.png
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : モクレン類 Magnoliids
: コショウ目 Piperales
: ヒドノラ科 Hydnoraceae
学名
Hydnoraceae C.Agardh1821[1]

2属13種ほどが知られ、ヒドノラ属(Hydnora)はアフリカアラビアマダガスカルに、プロソパンケ属(Prosopanche)は中南米に分布する。

特徴編集

光合成能を欠く全寄生植物である[2][3]。寄生根によって宿主の根に寄生する[2][3]。茎の維管束はふつう複数輪に配置しており、散在中心柱[2]道管は単穿孔をもつ[2]師管色素体はデンプン粒やタンパク質顆粒を欠く[3]。維管束形成層による二次成長はしない[2]。完全に葉を欠く[2][3]

は比較的大型、両性、放射相称、地下部から内生的に生じ、地上に伸びるが、土中で開花することもある[2][3](上図1a)。花被片は3–4(–5)枚、敷石状、厚く多肉質、基部で合生し、背軸面は褐色、向軸面は白、赤、ピンク、褐色など[2](上図1b, c, 下図1d–f)。雄しべは3–4(–5)個が1輪につき、花被に対生してこれに合着し、葯は多数、外向、離生または合生、縦裂開または横列裂開する[2][3](下図1d, f)。プロソパンケ属は外側に1輪の仮雄しべをもつ[2][3]。花粉は単溝粒、2細胞性[2][3]心皮は3(–4)枚、合生、花柱を欠き、柱頭は1–3個[2][3]子房は1室、子房下位、側膜胎座(プロソパンケ属)または頂生胎座(ヒドノラ属)、胚珠は多数、直生胚珠珠皮は1枚で退化的、厚層珠心[2][3]。胚嚢は2胞子性(プロソパンケ属)または4胞子性(ヒドノラ属)[2][3]。胚乳形成は造壁型[2]

1g. H. triceps の果実断面

果実は多肉質で非裂開(ヒドノラ属)または横周裂開する(プロソパンケ属)[2][3](上図1g)。微小(1 mm以下)な種子を多数(ときに9万個)含む[2][3](上図1g)。種子はアラビノースデンプンを含む内胚乳をもち、外胚乳(周乳)は薄く、は小さく未分化[2][3]染色体数は n = 12[3]

色素体DNAは極めて退化的で光合成遺伝子は消失しており、24–29 kbp (kbp = 1,000塩基対; 一般的には120–160 kbp[4]) しかない[3]

分布・生態編集

 
2. 背景にある Euphorbia mauritanicaトウダイグサ科)に寄生した Hydnora africana の花

ヒドノラ属はアフリカマダガスカルアラビア半島に、プロソパンケ属は中南米に分布する[3]。ヒドノラ属の宿主はカンラン科ネムノキ亜科マメ科)およびトウダイグサ属に限られるが (右図2)、プロソパンケ属はより広い宿主範囲を示す[3]

は悪臭を放ち、双翅類甲虫カツオブシムシケシキスイコガネムシ)によって送粉される[2]。花が発熱するものも報告されており、おそらく匂いを強化する[3]。花に産卵する昆虫もいる[3]。また果実は、おそらく哺乳類に食べられることによって種子散布される[3]

系統と分類編集

極めて特異な形態をしており、最初は菌類(キノコ)として記載された。その特異性から独立の科とされていたが、他の寄生植物と同様、分類学的位置は一定していなかった。新エングラー体系では、花の形態がウマノスズクサ科に似ることから、ウマノスズクサ目に分類されていたが[5]、他にも、他の全寄生植物とともにラフレシア目ヤッコソウ目に分類される例もあった[6][7][8]。また独立のヒドノラ目に分類されることもあった[3]

やがて分子系統学的研究が行われるようになり、ヒドノラ類はウマノスズクサ科コショウ科などに近縁であることが示され、コショウ目に分類されるようになった[9]。さらにAPG IV (2016) では、ヒドノラ類をウマノスズクサ科に含めてその1亜科とすることが提唱されている[10]。ウマノスズクサ科内での位置は必ずしも明瞭ではないが[11]、ウマノスズクサ亜科 + ラクトリス属の姉妹群であることが示されることが多い[3]。ただし、一般的にウマノスズクサ科を構成するとされる4群(ラクトリス属、ヒドノラ亜科、カンアオイ亜科、ウマノスズクサ亜科)をそれぞれ独立科とする意見もある[11]

ヒドノラ科の属までの分類体系の1例[1][3]

脚注編集

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出典編集

  1. ^ a b Hydnoraceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年8月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Hydnoraceae C.A. Agardh”. The Families of Angiosperms. 2022年8月14日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x Stevens, P. F. (2001 onwards). “Hydnoroideae”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2022年8月14日閲覧。
  4. ^ 葉緑体ゲノム”. 光合成事典. 日本光合成学会. 2022年8月15日閲覧。
  5. ^ Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien mit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen 
  6. ^ Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants. Columbia University Press. ISBN 9780231038805 
  7. ^ 加藤雅啓 (編) (1997). “ラフレシア目”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. p. 272. ISBN 978-4-7853-5825-9 
  8. ^ 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “ヤッコソウ目”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. p. 223 
  9. ^ Angiosperm Phylogeny Group (2003). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG II”. Botanical Journal of the Linnean Society 141 (4): 399-436. doi:10.1046/j.1095-8339.2003.t01-1-00158.x. 
  10. ^ Chase, M. W., Christenhusz, M. J. M., Fay, M. F., Byng, J. W., Judd, W. S., Soltis, D. E., ... & Stevens, P. F. (2016). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV”. Botanical Journal of the Linnean Society 181 (1): 1-20. doi:10.1111/boj.12385. 
  11. ^ a b Jost, M., Samain, M. S., Marques, I., Graham, S. W. & Wanke, S. (2021). “Discordant phylogenomic placement of Hydnoraceae and Lactoridaceae within Piperales using data from all three genomes”. Frontiers in Plant Science 12: 586. doi:10.3389/fpls.2021.642598. 
  12. ^ Hydnora”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年8月15日閲覧。
  13. ^ Prosopanche”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年8月15日閲覧。

外部リンク編集

  • Stevens, P. F. (2001 onwards). “Hydnoroideae”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2022年8月14日閲覧。(英語)
  • Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Hydnoraceae C.A. Agardh”. The Families of Angiosperms. 2022年8月14日閲覧。(英語)