マザートロフィー英語: Mutha Trophy)は、アメリカ海軍戦闘飛行隊の中で、あらゆる点で最優秀と認められた飛行隊に授与されるマザー賞(英語: Mutha award)のトロフィー。最高の戦闘機乗りの魂を示すものとして評価されている。

マザートロフィー
受賞対象最高の戦闘飛行隊に授与
会場バージニア州オシアナ海軍航空基地
アメリカ合衆国
主催アメリカ海軍戦闘飛行隊
初回1964年

マザー賞 編集

Muthaは母(Mother)を意味するスラングで、トロフィーが信楽焼の子連れの雌のであるからと推定される[1]。アメリカ海軍やアメリカ政府が定めた正式な褒賞ではない。

毎年、初夏にオシアナ海軍航空基地で開催される大西洋ストライクファイターボール・スポーツ週間の最後に授与される[2]。受賞した飛行隊には、信楽焼のトロフィーと「MUTHA TANUKI」と書かれた革製表紙のバインダーが託される[3]

立案者は、フレッド・ネビット(Fred Nevitt)、デイル・キンブル(Dale Kimble)、ボブ・ファーガソン(Bob Farguson)の3名の中佐で、3名ともアメリカ海軍空母の艦隊防空を担っていた艦上戦闘機F-8の教官パイロットであった。彼らは立案時、太平洋艦隊のF-8機種転換飛行隊VF-124に所属しており、同賞の設立により、戦闘機パイロットの士気を高める目的があったとみられる[1]

当初は、太平洋艦隊のF-8飛行隊のみを対象としていたが、機種改変が進むにつれてF-14F-18E/F飛行隊を対象とするようになった。

狸のトロフィー 編集

信楽焼の狸のトロフィーは、ボブ・ファーガソン中佐が当時、海軍部隊にパッチ等を納入する東京都千代田区の業者、エース・ノベリティ商会の小川太郎氏に調達を依頼したものである[4]

狸の像は決してが空にならない徳利、常にいっぱいの金袋を持つ幸運を招く伝統的なもので[5]、狸は国をさまよい、不可能な冒険に参加し、怖いもの知らずのならず者や大胆に飲み騒ぐ人と付き合うと認識され[6]、トロフィーに選ばれている。

トロフィーには台座と特製ガラスケースが準備され、台座の真鍮プレートに受賞飛行隊名が刻印されている。

トロフィーを獲得するためにはどのような手段を講じてもよく、盗むことも可とされている[3]。そのため、トロフィーの担当士官は移動時、盗難防止のため、ケースのハンドルと自分の腕を手錠と鎖でつなぐことも少なくない。ただ、盗んだからといって、正式なホルダーにはなれず、公式に記録されることはない。

トロフィーは飛行隊に連れられ、富士山頂硫黄島宇宙空間まで様々なところに運ばれている[3][7]。その結果、トロフィーの台座左側面には富士山頂で押した焼印が残され、その隣にはスペースシャトルでミッションを経験した搭乗員のみが得られる「マッハ25クラブ」のパッチが貼り付けられている[5][7]

受賞飛行隊 編集

受賞飛行隊は以下の表のとおり[7]

受賞飛行隊 備考 受賞飛行隊 備考 受賞飛行隊 備考
1964 VF-51           1990 VF-51           2010 VFA-213          
1965 VF-194 1991 VF-2 2011 VFA-103
1966 VF-24 1992 VF-11 2012 VFA-31
1967 VF-211 1993 VF-213 2013 VFA-11
1968 VF-51 1994 VF-111 VF-11の記録もあり 2014 VFA-103
1971 VF-191 1995 VF-21
1973 VF-211 1996 VF-213 VF-103の記録もあり
1977 VF-24 1997 VF-103
1978 VF-24 1998 VF-211
1979 VF-211 1999 VF-31
1980 VF-51 2000 VF-211
1981 VF-2 2001 VF-11
1982 VF-114 2002 VF-143
1983 VF-114 2003 VF-103
1984 VF-2 2004 VF-213
1985 VF-1 2005 VFA-11
1986 VF-2 2006 VFA-105
1987 VF-114 2007 VFA-103
1988 VF-21 2008 VFA-211
1989 VF-211 2009 VFA-11

注釈 編集

  1. ^ a b 神野、pp.90
  2. ^ 神野、pp.97
  3. ^ a b c 神野、pp.94
  4. ^ 神野、pp.91
  5. ^ a b Lt Benjamin D. Witt From VFA-105 Public Affairs. “Gunslingers win MUTHA trophy for most strike fighter spirit” (英語). Military Newspapers of Virginia. 2019年9月4日閲覧。
  6. ^ Mutha Tanuki” (英語). 2019年9月4日閲覧。
  7. ^ a b c 神野、pp.96

参考文献 編集

  • 神野幸久『航空ファン 2014年10月号 特集 米海軍魂の象徴 MUTHAトロフィー』文林堂、2014年、90-103頁