タヌキ

哺乳綱食肉目イヌ科タヌキ属に分類される食肉類

タヌキ(狸、Nyctereutes procyonoides)は、哺乳綱食肉目イヌ科タヌキ属に分類される食肉類、あるいはタヌキ属Nyctereutesに分類される現生種の総称。現生種は1種のみとされていたが、大陸産のN. procyonoidesと日本産のN. viverrinusの2種に分ける説もある[6]

タヌキ
タヌキ
タヌキ Nyctereutes procyonoides
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
: イヌ科 Canidae
: タヌキ属 Nyctereutes
Temminck1838[2][3]
: タヌキ N. procyonoides(広義)
学名
Nyctereutes procyonoides (Gray1834)[2][3][4]
シノニム[2]
  • Canis procyonoides Gray, 1834
  • Canis viverrinus Temminck, 1838
  • Nyctereutes albus Hornaday, 1904
  • Nyctereutes sinensis Brass, 1904
  • Nyctereutes amurensis Matschie, 1907
  • Nyctereutes stegmanni Matschie, 1907
和名
タヌキ[4]
英名
Raccoon dog[2][3][4][5]
分布図
青:自然分布、赤:移入

分布編集

元々極東にのみ生息する世界的に見れば珍しい動物であり[7]日本朝鮮半島中国ロシア東部などに分布していた。主に山野に生息しているが、日本に棲むものは都市部でも見られる[7]

現在の生息域は、日本ロシアウスリー地方)、朝鮮半島中国モンゴル国ベトナム[1]ヨーロッパ各国(ウクライナエストニアオーストリアオランダカザフスタンスイススウェーデンスロバキアスロベニアセルビアチェコ共和国ドイツデンマークノルウェーハンガリーフィンランドフランスブルガリアベラルーシベルギーポーランドボスニア・ヘルツェゴビナマケドニア共和国モルドバ、旧ユーゴスラビアラトビアリトアニア、ロシア(ヨーロッパロシア))[1]

模式標本の産地(基準産地・タイプ産地・模式産地)は不明とされるが、広東省(中国南部)とするとする説もある[2]1928年毛皮目的で旧ソビエト連邦に移入され、1955年にはポーランドや旧ドイツ民主共和国まで、その後さらに北ヨーロッパ西ヨーロッパへも分布を拡大している[4]

上記のように1928年に毛皮をとる目的でソ連(現・ロシア)に移入されたビンエツタヌキが野生化し、ポーランド、東ドイツ(当時)を経て、現在はフィンランドやドイツにも生息している。1990年代頃からフランスやイタリアでも目撃例があり、分布を確実に広げている[8]。なお、ヨーロッパの外来種については、カリーニンタヌキ N. p. kalininensis Sorokin, 1958 の亜種名が与えられているが、後述分類のとおりビンエツタヌキのシノニムとみなされている。

形態編集

頭胴長(体長)50 - 68センチメートル[5][9][10]。尾長12.5 - 25センチメートル[4][9]。体重4 - 6キログラム[5][9]。秋季には体重6 - 10キログラムに達することもある[4]。冬場に向けてのタヌキは長短の密生した体毛で、ずんぐりとした体つきに見えるが、見かけよりは足も尾も長く、毛がなければ顔つきも犬に似ている。そのため、生まれたばかりで毛が短い幼少期は、犬の子供と間違われて拾われて飼われることもある。

体色は全体的には灰褐色あるいは茶褐色で、目の周りや足先、耳の縁が黒く、部分的に白い毛の交じる個体が多いが、まれに全身が真っ白な白変種も存在するし、全身真っ黒の個体が存在したという記録もある[11][12]など、個体差が大きい。幼獣は肩から前足にかけて焦げ茶の体毛で覆われており、有効な保護色となっているが、成熟すると目立たなくなる。陰嚢は、俗に「狸の金玉八畳敷き」と言われるが、それほど大きいわけではない。

食肉目の共通の先祖は森林で樹上生活を送っていたが、その中から獲物を求めて森林から草原へ活動の場を移し、追跡型の形態と生態を身につけていったのが、イヌ科のグループである。タヌキは湿地・森林での生活に適応したイヌの仲間であり、追跡形の肉食獣に較べて水辺の生活にも適した体型である[要出典]。胴長短足の体形など、原始的なイヌ科動物の特徴をよく残している。

分類編集

以下の亜種の分類は、Ward & Wurstar-Hill (1990)・MSW3 (Wozencraft, 2005) に従う。和名・英名は今泉 (1993) に従う[13]

Nyctereutes procyonoides procyonoides (Gray, 1834) タイリクタヌキ(ビンエツタヌキ)
染色体数は2n=54+B[2]
N. p. kalininensisN. p. sinensisN. p. stegmanniはシノニムとされる[3]
Nyctereutes procyonoides koreensis Mori, 1922 コウライタヌキ Korean raccoon dog
タイプ産地はソウル近郊の議政府[2]大韓民国)。
Nyctereutes procyonoides orestes Thomas, 1923 ウンナンタヌキ Yunnan raccoon dog
タイプ産地は雲南省[2](中国南部)。
Nyctereutes procyonoides ussuriensis Matschie, 1907 ウスリータヌキ Ussuri raccoon dog
タイプ産地はウスリー川河口[2]
N. p. amurensis はシノニムとされる[2]
Nyctereutes procyonoides viverrinus (Temmink, 1838) ニホンタヌキ Japanese raccoon dog
タイプ産地は日本[2]
染色体数は2n=38+B[2]
N. p. albus(タイプ産地は日本の長崎)はシノニムとされる[2]

日本の個体群を北海道エゾタヌキ N. p. albus本州四国九州ホンドタヌキ N. p. viverrinus の2亜種とする説もある[4][9][14]。エゾタヌキはホンドタヌキよりやや被毛が長く、四肢もやや長めである[4]

2015年に大陸産と比べて頭骨が長いこと・染色体数から日本産の個体群を独立種 N. viverrinus とする説も提唱されている(この説では下位分類として亜種 N. v. albus も認めている)[15]。この説に従うとタヌキ属の模式種は N. viverrinus となる[3]。なお、研究論文ではないが、日高敏隆の『ぼくの世界博物誌』[16]には、フィンランドで毛皮用に養殖されているシベリアから来たタヌキと、日本のホンドタヌキの掛け合わせがうまく行っておらず、その原因を「日本タヌキとシベリアタヌキ染色体の数が少し違う」からだと述べられている。

生態編集

森林のほか、農業地帯や都市部にも生息する[17]。湖などの水辺で、下生えの深い環境を好む[2][4]。日本の例では河川や湖・海岸などの周辺にある広葉樹針葉樹混交林を好む[2]シベリアの例では河川や小さい湖の周辺にある沼地や草原・地・広葉樹林などを好み、タイガは避ける[2]夜行性だが、人間の影響がない環境では昼間でも活動する[4]。属名Nyctereutesは、古代ギリシャ語で「夜」の意があるnyctosと「探す」の意があるereunaに由来する[2]。交尾時期から子育てを終えるまでの間は、ペアを形成して行動する[14]

行動圏は地域・季節などによって非常に変異が大きい[2]。本州北部や九州南部では秋季に49 - 59ヘクタールとする報告例もある[2]が、複数の個体の行動域が重複しており、特に縄張りというものはもっていないようである。泳ぎはうまく、日本では本土から金華山までの約700メートルを泳いだと考えられる例がある[4]。少なくとも日本では高さ150センチメートルの金網フェンスのよじ登りに成功した報告例がある[18]。巣穴は自分で掘らず[14]、自然に開いた穴やアナグマ類キツネ類の穴を利用し、積み廃屋などの人工物を利用することもある[4]

本種には複数の個体が特定の場所にをする「ため糞(ふん)」という習性がある[19]。1頭のタヌキの行動範囲の中には、約10か所のため糞場があり、1晩の餌場巡回で、そのうちの2、3か所を使う。ため糞場には、大きいところになると、直径50cm、高さ20cmもの糞が積もっているという。ため糞は、そのにおいによって、地域の個体同士の情報交換に役立っていると思われる。糞場のことを「ごーや」や「つか」と呼ぶ地方がある[20]

死んだふり、寝たふりをするという意味の「たぬき寝入り」とよばれる言葉は、猟師猟銃を撃った時、その銃声が刺激となってタヌキは「擬死」の状態に入り、猟師が獲物をしとめたと思って持ち去ろうと油断すると、その間に擬死が解けて逃げ去っていってしまうという性質による[9]。同様の習性を持つことから、擬死を指す表現として英語圏では fox sleep(キツネ寝入り)、それよりさらに一般的なものとして playing possumポッサムのまねをする)という言いまわしがある[21]。また「タヌキ」という言葉は、この「たぬき寝入り」を「タマヌキ(魂の抜けた状態)」と呼んだのが語源であるという説がある[22]

長い剛毛と密生した柔毛の組み合わせで、湿地の茂みの中も自由に行動でき、水生昆虫魚介類など水生動物も捕食する。足の指の間の皮膜は、泥地の歩行や遊泳など水辺での活動を容易にする。

温暖な地域に生息する個体に冬眠の習性はないが、秋になると冬に備えて脂肪を蓄え、体重を50%ほども増加させる。積雪の多い寒冷地では、冬期に穴ごもりする[23]ことが多い。タヌキのずんぐりしたイメージは、冬毛の長い上毛による部分も大きく、夏毛のタヌキは意外にスリムである。

食性は雑食で、齧歯類鳥類やその卵、両生類魚類昆虫多足類甲殻類軟体動物、動物の死骸、植物(果実・堅果・漿果・種子)などを食べる[2][4]。ヒトには悪臭とされるイチョウの種子(ギンナン)も好んで採食する[17]。イヌ科の動物としては珍しく、あまり上手くないが木に登る習性があり、木に登ってカキやビワの果実を食べたりする。人家近くで残飯を漁ったりすることもある[4]。捕食者はオオカミイヌオオヤマネコクズリイヌワシオオワシワシミミズクなどが挙げられる[2]

繁殖様式は胎生発情期は1 - 3月[2][4]。1頭のメスへ3 - 4頭のオスが集まり、ペアが形成されると周囲や互いに尿をかけて臭いをつける[4]。陰茎がメスの膣内で膨張して射精するまで抜けなくなり、尻合わせのような姿勢で交尾(交尾結合、タイ)を行う[4]。妊娠期間は59 - 64日[2][4]。5 - 7頭の幼獣を産むが、最大19頭の幼獣を産んだ例もある[2][4]。授乳期間は1か月半から2か月[4]。生後9 - 11か月で性成熟するが、繁殖を開始するのは生後2 - 3年以降が多い[4]

人間との関係編集

概念編集

 
野生のホンドタヌキ
 
野生のホンドタヌキ

漢字と呼称編集

「狸(貍)」の漢字は中国ではヤマネコ等を中心とした中型の哺乳類を表した[24]。中国で1596年に発刊された李時珍著『本草綱目』ではジャコウネコの仲間を「貍」と表していると考えられている[25]。現代中国では「貛(Huan)」はアナグマ類、「貉(He)」がタヌキ、「狸(Li)」がジャコウネコ科一般を表している[25]

一方、日本では「狸(貍)」「狢(貉)」「(貒)」という漢字がみられた[24]。このうち「狢(ムジナ)」はタヌキまたはアナグマのことを指し、タヌキとアナグマは外見が似通っていることや「同じ穴のムジナ」という言葉があるようにアナグマの掘った穴をタヌキが利用することもあり両者は混同されてきた[24]。また「猯(マミ)」は常陸、伊豆、会津、長門などの資料にあり、タヌキの一種とされアナグマまたはテン(貂)のことを指すこともあった[24]

貝原益軒の『大和本草』に「貍」の記載があり、数種いるとして「猫貍」「虎貍」「九節貍(香貍)」「玉面貍」の記載があるが、これらは『本草綱目』の記述を踏襲しているとされる(「玉面貍」はハクビシンの記載、「虎貍」はアナグマの情報が混じっている可能性も指摘されている)[25]。また『大和本草』には「貒(マミ/ミタヌキ)」に関する記載もあるが、その記載からアナグマとみられている[25]。なお『大和本草』にも「貉(ムジナ)」はあるが詳細な記載はない[25]

寺島良安の『和漢三才図会』にも「貍」の記載があるが、斑がある、果実を食う、木に登るのが速いなどの特徴が記述されており、ここでも『本草綱目』のジャコウネコの記述を踏襲しているとみられている[25]。一方『和漢三才図会』の「貉(ムジナ)」には寝たふり(狸寝入り)とみられる記述があり、これがタヌキを指すとみられている[25]。『和漢三才図会』では「貒(ミ)」に関しては単に美味と記載されているが、その記述からアナグマとみられている[25]

その他の地方名として「アナッポ」「アナホリ」「カイネホリ」「ダンザ」「トンチボー」「ハチムジナ」「バンブク」「ボーズ」「マメダ」、「ヨモノ」などがあり、行動、外観、伝承などに基づいた呼び方であろうことが分かる[26]

19世紀に入ると本種が「タヌキ」として認識されることが多くなったが、地域的な方言なども影響してアナグマが未だに「マミ」「ミダヌキ」と呼ばれることもあった[25]。このような呼称の混乱は江戸期本草学の分類学としての未成熟さも原因になっている[25]

アイヌ語編集

アイヌエゾタヌキを「モユㇰ(小さな獲物)」と呼び、特に顔が黒いものを「スケ(飯炊きをする)モユㇰ」と区別しているが[27]、エゾタヌキとムジナは区別されておらず、民話『モユㇰ キムンカムイ』は一般的に『ムジナと』と訳される[28]

raccoon dog編集

英語ではタヌキのことを raccoon dog(アライグマのようなイヌの意味)という[24]。なお、ヨーロッパでもアナグマと混同されることが多い[24]

飼育編集

毛皮が上質なため、中国やロシアでは産業的な人工飼育が行われている。日本でもかつては防寒具の材料とするため養殖された時期があった[29]

タヌキ類が生息する日本などの地域ではそれほど珍しがられない動物であるが、生息していない国や地域では珍しがられ、2010年3月23日に、旭山動物園久留米市鳥類センターとが、シンガポール動物園へホンドダヌキのオス・メスひとつがい(2009年5月産)を贈ったところ、「パンダ並み」の珍獣と扱われ、タヌキに冷暖房完備の専用舎が用意されたうえに、歓迎式典まで開かれた[30][31]。このように、日本国外の動物園がタヌキを展示すべく日本の動物園に飼育中のタヌキの譲渡を依頼することがある。さらに、日本の動物園がタヌキと交換で国外の稀少動物の譲渡を受けることもある[32]

食用編集

日本における食用編集

日本におけるタヌキの料理法にたぬき汁がある。ただし、たぬき汁と称してコンニャク汁を指すこともある。タヌキの脚の肉を「沢渡」といった[33]

タヌキの肉は概ね臭みが強いという[34]。そのため、酒で煮たりショウガニンニクを使ったりするなど臭みを消す必要がある。また、臭い消しのためたぬき汁は味噌仕立てにすることが多い[35]。臭い消しのために、山椒牛蒡生姜なども利用される[34]佐藤垢石随筆『たぬき汁』では、毛皮をとったあとの狸を食材として売り出す可能性を試すため、ある日、食通の知り合いを集め、タヌキを各種の料理にして食べる会を開催したとある。その記録では味噌汁と、香辛料を混ぜて作った狸の肉団子は美味であったが、カツステーキは噛めないほど固く、吸い物は獣臭くて食べられず、タヌキ肉は一般的な食材になりがたいと結論している[36]。しかし、その後、佐藤の『続たぬき汁』には友人から家に送られた野狸の肉の贈り物に「家内一同大いに喜んだ」とあり、また「上州、会津、雄鹿半島、紀州、丹波、信濃、満州などの狸を食ったこと」があるという記述もある[37]

また、狸肉の臭み抜きの方法として、山梨の猟師の間で行われている、内臓を取り稲ワラに包んで4 - 5日土に埋めておく方法や、岩手の猟師が皮を剥ぎ骨を外して20日間くらい軒に吊るしておく方法[35]、狸の肉を水で煮て泡立ってきてから本格的に味噌で煮る方法[34]などがある。

なお、麺類における「たぬき」については、たぬき (麺類) の項を参照。

中国における食用編集

中国では、「野味」(げてもの料理、ブッシュミート)もしくは薬膳の一つとして、タヌキ(拼音: )が現在も一部で食用にされている。中国では、古来ヤギ肉、犬肉など、臭みのある肉の処理方法も研究されており、タヌキ肉は、長時間水につけて血抜きをすること、ニンニクネギトウシキミ(八角)、クミン唐辛子などを使って臭みを隠すこと、煮込んで柔らかくすること、熱いまま食べるのではなく、冷菜として食べることがこつであるとされる。主に毛皮目的で養殖されたものの肉や内臓が利用されるが、河北省には、煮付けにした肉をレトルト食品として販売している会社もある。

民間療法編集

タヌキの胆嚢を胃炎、風邪、急性肺炎などの薬にするという民間療法が伝承されていた[38]

皮革編集

狸の皮は昔から需要が多く、高値で売買されていた。当てにならないものを当てにして無意味な計画を立てることを「捕らぬ狸の皮算用」と言うのは、かつての日本では狸の毛皮が高値で売れたことに由来する。

鞴(ふいご)
日本においては、皮が丈夫だったことから、鍛冶屋製鉄業が使用する火に風を送って温度を上げる道具である「(ふいご)」に最適とされた[39][40][41][42][43]
太鼓の革
「狸の腹鼓」が有名だが、太鼓にも使用された。
服飾
防寒具のために乱獲され、一時は場所によって絶滅が懸念された[44][40][29]。タヌキの毛皮は、防寒具に最適であるとして珍重される[10][19]。英語では「murmansky」と呼ばれ、一般的にシルキーな毛を持つ小さな狸の皮が上質とされる。アメリカ合衆国では人造毛皮であるフェイクファーと偽り、本物の狸の毛皮が何度も使用されては問題になっている[45][46][47][48][49]

編集

タヌキの毛はの材料として珍重される[9][10][19]。この場合、タヌキ毛は俗にラクーンと呼ばれている(ラクーンという単語自体はアライグマの英名でもある)。

「弘法筆を選ばず」で知られる空海(弘法大師)がの技法で狸の毛を使った筆を造らせ、嵯峨天皇に献上している。その時に空海が書いたという上表文が『狸毛筆奉献表』であり、国宝に指定されている。

歯ブラシなどのブラシにも使われる[50]

人間の生活との関係編集

近代に入り、タヌキが毛皮採取目的で乱獲され、全国的に絶滅が危惧された時期があった。1926年大正15年)2月24日山口県防府市の「向島(むこうしま)タヌキ生息地」が、国の天然記念物に指定されている[9]。しかし1950年昭和25年)に本土と向島を結ぶ錦橋が建設されて以来、島のタヌキの生息数は減少の一途をたどり、天然記念物指定時には2万頭と推定されたタヌキが、1987年にはほぼ10頭未満まで減少し、近年では姿を見られることさえまれであるという。これは、錦橋を渡って島に侵入した野犬の影響が大きいと思われている。現在では、多数の市民ボランティアにより、様々な保護活動が行われている[51]

タヌキが人家の周辺に出没する際に、飼い犬・猫を起源とするイヌジステンパーウイルスや、ヒゼンダニ属のダニ等の寄生により疥癬に感染する例がある[52]。重症化した場合は毛が抜け落ちてハイエナを思わせる外見となる[53]。重症化した場合は多くの個体が数週間程度で衰弱死する[54]。近年では目撃例が増加しているが、タヌキは有害鳥獣に指定されていることから行政の保護対象ではない[53]

 
タヌキの図案を用いた標識

子供のタヌキは経験不足から自動車の前照灯にすくんでしまう習性があり、交通事故に遭う件数が非常に多い。特に高速道路では事故死する動物の約4割を占め、群を抜いて多い[55]。このため、タヌキが多く出没する地域の高速道路に於いて、動物の注意を促す標識にタヌキの図案を用いているところが多い。また、高速道路に限らず、地方の民家の少ない道路などでも事故が絶えない。事故に遭わないよう、道路をくぐる動物用トンネルが設置されているところもある[56]

イメージ編集

 
信楽焼のタヌキ
 
タヌキの剥製草鞋を履いて立っている)。分福茶釜伝承がある群馬県館林市茂林寺にて
 
日本手話の「たぬき」は、「タヌキの腹鼓」の伝承による。

タヌキは夜行性であることから中国ではと結びつけられ、日本でも絵や童謡證城寺の狸囃子』などの歌にも影響を与えている[24]

日本では、飼育している人を含む愛好者団体(「日本たぬき学会」)が、腹鼓大会などの活動をしている[57]

化け狸編集

民間伝承では、タヌキの化けるという能力はキツネほどではないとされている。ただ、一説には「狐の七化け狸の八化け」といって化ける能力はキツネよりも一枚上手とされることもある。実際伝承の中でキツネは人間の女性に化けることがほとんどだが、タヌキは人間のほかにも物や建物、妖怪、他の動物等に化けることが多い。また、キツネと勝負して勝ったタヌキの話もあり、佐渡島団三郎狸などは自身の領地にキツネを寄せ付けなかったともされている。また、犬が天敵であり人は騙せても犬は騙せないという[58]

狸信仰編集

日本には狸を祀り飾る文化があるが、他国ではいたずらなど狸に対してあまり良いイメージが持たれていない[24]。日本の狸信仰は憑きもの信仰や稲荷信仰、言霊信仰などと結び付いた日本独自の文化である[24]

日本でしばしば見かけられるタヌキの置物の多くは信楽焼滋賀県)で、「他を抜く」と語呂合わせした縁起物である。産地では11月8日を「信楽たぬきの日」としている[59]狸谷山不動院(京都市)、東京メトロ有楽町線有楽町駅「ぽん太の広場」のように、タヌキの置物を集めているあるいは所有者が寄贈していく場所もある[57]

狸にたとえた表現編集

目も鼻も顔も丸くてかわいい顔つきの顔を「たぬき顔」と呼ぶことがある[60]

関連作品編集

物語編集

狂言編集

  • 隠狸
  • 狸腹鼓

落語編集

音楽編集

地歌『たぬき』
大阪・鶴山勾当作曲・18世紀中頃 = 滑稽な内容を持つ「作もの」といわれる一群に属する曲。猟師が鉄砲で狸を撃とうとすると、タヌキはお腹に子を宿しているし夫が待っているので、どうか助けてくれと頼む。それを聞いた猟師は哀れんで撃つのを止めるとタヌキは喜び、お礼に自慢の腹鼓を打って猟師に聴かせる。猟師は良いものを聴いたと帰って行くという筋。三味線で腹鼓を模した手事 {器楽部分} が面白い。[独自研究?] またこの曲を伴奏とした上方舞の演目。
長唄『たぬき』(『昔噺たぬき』)
杵屋勝三郎作 文福茶釜を長唄曲にしたもの 浮世節『たぬき』の元
浮世節『たぬき』
立花家橘之助が創始した浮世節のなかの一曲
清元『玉兎』
かちかち山がテーマの舞踊曲
俗謡『たんたんたぬきの』
作詞作曲者:不詳。原曲はプロテスタント聖歌まもなくかなたの(Shall We Gather at the River ?)』
童謡『山の音楽家
水田詩仙による日本語詞では、タヌキが太鼓を叩くという歌詞が登場する。
童謡證城寺の狸囃子
作詞:野口雨情、作曲:中山晋平
童謡『月夜のポンチャラリン』(『おかあさんといっしょ』2003年7 - 8月の歌)
作詞:斉藤久美子、作曲:越部信義
童謡『こだぬきポンポ』(NHK『みんなのうた』)
うた 下條アトム、作詞:鈴木悦夫、作曲:大山高輝、アニメーション:堀口忠彦
童謡『ポンタ物語』(NHK『みんなのうた』)
『わらいかわせみに話すなよ』(『みんなのうた』)
一番がタヌキの子が腹に霜焼けを作る話。
童謡『こぶたぬきつねこ』
作詞・作曲:山本直純
童謡『たぬきのレストラン』(『おかあさんといっしょ』)
作詞:名村宏、作曲:福田和禾子。たぬきのレストランにお客さんのきつねが入りびたって食べまくったあげく、きつねは食べ過ぎてレストランいっぱいに太ってしまう話。
わらべうた『げんこつやまのたぬきさん』(曲名は『げんこつ山のたぬきさん』とも)
テレビ番組で歌われたものとしては『おかあさんといっしょ』のコーナー「てをつなごう」で、名古屋市内の幼稚園でのロケで歌われたのが初とされる[61]
1973年に『あそびましょパンポロリン』で、同番組の初代「歌のお姉さん」である山田美也子によって歌われ、香山美子の補作詞・小森昭宏の補作曲・編曲、山田の歌で歌詞とメロディを付け足してシングルレコードとして発売された[61]。1980年、矢野顕子がカバー。
童謡『パンダがなんだ』(『ひらけ!ポンキッキ』)
作詞:海友彦、作曲:小倉靖。パンダの人気を羨むタヌキが、パンダに化けて人前に出るという話。
もしもタヌキが世界にいたら』(『なるほど!ザ・ワールド』エンディングテーマ)
作詞:荒木とよひさ、作曲・編曲:坂本龍一
『もしもタヌキが世界にいたら2』(『なるほど!ザ・ワールド』エンディングテーマ)
作詞:荒木とよひさ、作曲:坂本龍一、編曲:瀬尾一三
陰陽座『貍囃子』
作詞: 瞬火、作曲: 招鬼
ZAZEN BOYS『TANUKI』
作詞・作曲: 向井秀徳
『ニッポンのたぬき』(NHK『なんでもQ』)
うた:知久寿焼(元たま)、作詞:斎藤久美子、作曲:濱田理恵

映画編集

アニメ編集

タヌキの名を持つ生物編集

タヌキの名を持つ生物、特に植物はいくつかある。タヌキの特徴(フサフサした毛やずんぐりと丸みを帯びた形など)にちなむ場合もあるが、怪しげな印象からタヌキに結びつけられる場合も多い。

動物
植物
菌類

脚注編集

[脚注の使い方]

出典編集

  1. ^ a b c Kauhala, K. & Saeki, M. 2016. Nyctereutes procyonoides. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T14925A85658776. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T14925A85658776.en. Downloaded on 04 July 2018.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x Oscar G. Ward & Doris H. Wurstar-Hill, "Nyctereutes procyonoides," Mammalian Species No. 358, American Society of Mammalogists, 1990, Pages 1-5.
  3. ^ a b c d e W. Christopher Wozencraft, "Order Carnivora," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 532-628.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 増井光子 「イヌ科の分類」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、124-149頁。
  5. ^ a b c Kelly Carr, 2004. "Nyctereutes procyonoides" (On-line), Animal Diversity Web. Accessed March 09, 2021.
  6. ^ 谷戸崇・岡部晋也・池田悠吾・本川雅治Illustrated Checklist of the Mammals of the Worldにおける日本産哺乳類の種分類の検討」『タクサ:日本動物分類学会誌』第53巻(号)、日本動物分類学会、2022年、31-47頁。
  7. ^ a b 「首都にすむ世界的珍獣」〜タヌキ”. ナショナルジオグラフィック日本版. 2013年2月17日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2013年2月9日閲覧。
  8. ^ Kaarina Kauhala (1994年). “The Raccoon Dog: a successful canid”. 2008年6月25日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年8月19日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g 日本大百科全書(ニッポニカ), ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典, 防府市歴史用語集. “タヌキ”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年4月19日閲覧。
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参考文献編集

関連資料編集

関連項目編集

外部リンク編集