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商品を密かにポケットにいれる男性
商品を盗むと窃盗罪になることを警告する張り紙

万引き(まんびき)とは、商業施設において買い物客を装って代金を支払わずに無断で商品を持ち去る犯罪行為の通称であり[1]、商品窃盗(しょうひんせっとう)とも呼ばれる[2]。刑法に“万引き”という表現はなく、その行為は罪名で言えば「窃盗罪」で、「刑法第235条」によって「10年以下の懲役もしくは、50万円以下の罰金」という刑罰が与えられる犯罪行為である。また窃盗犯が逃亡しようとした際に他者(主に店員や警備員)に危害を与えた場合は強盗罪強盗致死傷罪になる[1]

目次

語源編集

江戸時代から使われている語であり、語源の由来としては、

  1. 商品を間引いて盗む「間引き」が変化して、万引き(万は当て字)になったとする説
  2. 「間」に「運」の意味もあるためそれぞれを結合し、運を狙って引き抜くという意味で「まんびき」になったとする説
  3. タイミング(間)を見計らって盗むことから
  4. 一度やると癖になり万回繰り返すから

といった説があるが、1の説が有力であるとしている[3]

被害の現状編集

米国カナダオーストラリアブラジルメキシコ南アフリカ日本インドを含む国際的な調査[4]によると、概ねどの国でも似たようなものが万引きされる傾向にあり、同じようなブランドの商品が盗まれるという。しかし、それらの国々の一般的な消費習慣および嗜好等を反映した相違も存在する。

北米編集

北米(アメリカ、カナダ)では客による被害が非常に深刻であり店内の隅々まで監視できるよう監視設備が導入されていることが多い[5]。ほとんどの小売店は万引き行為に対する警告として警察を必ず呼んで法的措置をとることを店内に告示している[5]

日本編集

例えば日本全国の書店の2007年度の「万引きによる損害額」は約192億円分であると推計されている[6]。1冊の書籍が窃盗の被害に遭った場合、取次から小売書店)への卸価格定価の77%から80%であるため、マイナス分を取り返すだけでも同一の書籍を6、7冊以上販売しなければならない[7][8]

罪状編集

日本の刑法235条の窃盗罪の構成要件に該当する犯罪行為であり、「万引き」という世俗的通称のせいで安易に多発しているとする声がある[9]。「現行犯でないと逮捕できない」といわれているが、それは間違いである。監視カメラに記録されていたり、証拠がある場合は現行犯でなくとも逮捕される。また万引き犯が、窃盗した物品を取り返されることや、摘発から逃亡するためなどの目的で店員や警備員に対して暴行・脅迫を加えた場合、「事後強盗罪」が成立する[注 1][10]。さらに、窃盗の際の暴行によって、人間が怪我や死亡させたりした場合は『強盗致死傷罪』が成立し、窃盗罪より重度な刑罰が科される[注 2][10]

様々な対策編集

今日のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでは、客の求めに応じて店員がカウンターの向こうから商品を出してくる対面販売方式でなく、商品が裸のまま陳列された棚の間を客が自由に回遊して購入したい商品を選んでいくセルフサービス方式が主流である。セルフサービス方式で広く行われる裸陳列は、商品をいかに万引きや汚損から守るかよりも、「多く見せるほど、多く売れる」の格言に沿っていかに多くの商品を客に見せるかを優先して発達したものである[11]

対面販売においては店員が売り込みを行うが、セルフサービスにおいては売り込みを行わないので店員の人件費の節約になる。セルフサービス方式の一般化により、商品の包装にはほとんどの場合、自分自身を売り込むようなデザインがされ、同種の他製品と比較検討できるラベルが貼られるようになったので、店員が売り込みを行わなくても客が自分自身で商品を選択できるし、そうさせたほうが客の購買心を誘い出すことができる。また、売り込みを行うと、後になって店員が奨めるから買ったのにと不平を言われることがあるが、売り込みを行わず客自身に商品の選択を行なわせれば、このような不平を言えるものではない。裸陳列には、もともと買うつもりがなかったものも目に入るためにいわゆる衝動買いを引き起こす効果もある[12]

セルフサービス方式の売り場は人類に残る狩猟採集時代の感覚を刺激することで売り上げを伸ばしている。広い店内、豊富な品物、少ない店員により、ごく一般的な人でさえふと狩猟採集の感覚に戻り、そのまま商品を持って帰ってしまえるような錯覚にとらわれる。子供たちが万引きをするのは、野山で昆虫採集や釣りなどをして狩猟採集を体験することができなくなったため、その代わりに小売店の店頭で狩猟採集のを味わいたくなるのだという分析もある[13]。しかし、もちろん、小売店の店頭で狩猟採集をするのは重大な犯罪である。

今日の激しい販売競争に勝ち抜くためには店はより客の狩猟採集本能を刺激する売り場作りをしなければならない。つまり、店は万引きを誘発しやすい状態でなければ、売れ行きが伸びない。店は万引きを作り出して万引きに悩んでいるのである[14]

セルフサービス方式が万引きを誘引しているとの批判もある[15]。その批判が当たっているかはともかく、上記のようにセルフサービス方式は経費の増加を抑えながら売り上げを増進できる方式である。仮にセルフサービス方式により万引きが増えるとしても、その被害額を補って余りある売り上げ増が見込めれば、万引きのリスクを甘受するだけの価値がある[16]

店員の手を通じなければ絶対に商品に触れないような販売方式であれば万引きは起こらないが、セルフサービス方式では客をして自由に商品に触れさせている以上、万引きが絶対に避けられないことは明白な事実である[17]。万引きには二つの原因がある。すなわち「誘惑」と「機会」である。前者は客の内心の現象で、小売店側からではこれを左右できないが、後者には小売店側で対策を講じることができる。万引きの機会を減らすため次のような対策が採られている[18]

買い物かごや手押し車の使用編集

これらを利用させることで、客が店外から持ち込んだものと店内で購入しようとしているものとの区別がはっきりする。これらを利用していない客がいたら、利用するように働きかけるべきである[19]

客自身のかばんを使わせない編集

有効な方法ではあるが、実際に店の入り口で客のかばんを預かり、出口で返却するとなると、保管・管理の手間が生じるし、紛失・破損した場合の責任問題も生じるのが難しいところである[20]

売り場レイアウト編集

客が買い物しやすいレイアウトにすることはもちろんだが、同時に店員から客の行動を監視しやすいようにも配慮すべきである。陳列棚が高すぎたり通路が狭すぎたりすると監視の目が届きにくくなり、好ましくない。死角があれば、それを補う鏡を設置すべきである。レジは、店内を見渡せるように配置される必要がある[21]

照明編集

明るい照明は店内を華やかにするばかりでなく、万引きを抑止する心理的効果もある[22]

陳列編集

万引きの被害に遭いやすいのは、小さくて高価な商品である。そのような商品は店員の目の届きやすい場所に陳列すべきである。あるいは万引きされやすい商品に限ってガラスケースに納めて陳列したり、カウンター越しの対面販売を採用したりしてもよい[23]

従業員の教育編集

防犯の重要性を認識し、客の不審な行動に気づくことができるよう従業員を教育すべきである。不審な行動として、ラルフ・G・トウジイ『セルフサービス経営入門』では以下を挙げている[24]

  • 買い物かごや手押し車を使いたがらない
  • 一箇所をぶらつく
  • 季節にそぐわない厚着をしている
  • 店員とよく喋る
  • 特定の場所に何度も戻ってくる
  • レジの誤りに、繰り返してブツブツ不平を言っている
  • よその店で買ったものを持ち込む
  • 大きな買い物袋をぶらさげている
  • あたりをチラチラと見回す

その他、次のような行動も不審である。

  • 手持ち鞄のファスナーや口が開いており、かつ、手で隠す行動をしている
  • 店に入る時の動きが速い
  • 防犯カメラよりも人気がないところを探したがる
  • 商品を無造作に持つ、または手の中に隠すように持つ
  • 「買いたい物」として吟味する様子がない

万引き防止の最上の方法は、不審な客に自分が疑われていることを知らせることである。不審な客がいたら近くへ寄って「お買い物のお手伝い」をすることで、あなたを疑って監視していることを分からせることができる[25]

掲示編集

万引き対策の実施を知らせる簡単な掲示を行うことで万引きを抑制する。アメリカなどでは強く率直な警告を行う店もあるが、そのような警告は大多数の正直な客に対して無礼すぎると思われる[26]

防止システム編集

 
電波式の万引き感知ラベル

電子機器やソフトウェアなど高額商品の場合、磁性体(磁気式、EM)[27]ICチップ(電波式、RFID[28]を利用した商品タグや小型のブザーを商品に貼付もしくは装着し、店舗出入口に設置された検知器で検出すると言う防止方式が、一般に採用されている。

この方式では、コストはかかるものの、個別に防犯対策を施せることから、各種量販店やレンタルビデオ店などでも普及している。しかし、検知を無効化したり、防犯装置自体を破壊したりして窃盗する者も出現しており、犯行はより巧妙化している。家電量販店では、上の感知ラベルに加え、売り場に本体・ソフトウェア・インクカートリッジなど、商品を置かず、商品のカードや見本の空箱、若しくは本体やソフトを抜いた空箱を、レジに持って行くことで、製品と交換して購入を出来るようにしている。

プリペイドカードについては、POSレジアクティベーションを有効にしないと、各種サービスが全く受けられない仕組みになっており、例えそのまま盗んでも全く意味が無い様になっている。このシステムの場合は検知ゲートは必要ない。

また、衣類に関しては、洗浄の出来無い顔料系インクを加圧封入した特殊なタグを商品に装着し、所定の治具以外で取り外すと「商品にマーキングされる」という方法で、商品窃盗を抑止している[29][30]

一部の監視カメラには、顔認識システムなどにより不審者を自動で検知する動作検知機能を伴ったものがあり、不審者を検知した後、アラームや携帯電話に電子メールを送るなどの方法で、店員に警告するシステムがある[6]

また、福井県のディスカウントスーパーPLANTでは、2008年7月から、万引の商品金額に関係なく損害賠償請求を導入し、抑止効果を上げた。このため、東京都内の一部書店中部地区三洋堂書店が損害賠償を導入しており、成果が上がりつつある[31]

万引き対策の副作用編集

一方で、万引き対策には副作用もある。先に店は客の万引きを誘発しやすい状況でなければ売れ行きも伸びにくいと述べたが、逆にいえば、万引きしにくい状況では売り上げも落ちやすいのである。

書店、文具店、レコード店の店主には、万引き対策に非常に力を入れる者がいる。これらの店では古くからセルフサービス方式が採られている上に、扱う品物が子供たちの興味を引きやすいため万引きの格好の標的になるからである。そのため、これらの店では「万引きお断り」「防犯カメラ設置」といった掲示をべたべたと貼ったり、客が入ってくると見張っているぞとばかりに「いらっしゃいませ」と言ったり、客の後をつけたりする。このように露骨な万引き対策をすればさすがに万引きは減るが、万引きをするつもりのない正直な買い物客にも不快感を与え、客足が遠のいてしまう。競争の少ない環境では、このような店でも客は仕方なく買い物をするが、買い物をしやすい競合店が進出すると万引き犯のみならず正直な買い物客までそちらへ流れてしまう。このように万引き対策には大きなジレンマがある。万引き対策をすれば確かに万引きは減るが、同時に客足まで遠のいてしまうのである[32]

また、店主や店長はともかく、一般の店員は、万引きに気づいたときの対処法についてマニュアルなどで教育を受けていたとしても、いざ万引きの現場を発見したときは見て見ぬふりをしてしまいがちである。店員にとっては、万引きをされても直接に自分が損するわけでもなく、せいぜい店主や店長に小言を言われるだけである。万引き犯を警察に引き渡したりするのはそれより煩わしいし、万引き犯に逆上でもされれば身に危険さえ及び兼ねないので、悪事を見逃す後ろめたさはあっても、万引きに気づきたくない心理が働くのである。万引き犯の柄が悪かったり身体が大きかったりすればなおさらである[33]

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ (用例)窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防止し、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。(刑法第238条 事後強盗
  2. ^ (用例)強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。(刑法第240条 強盗致死傷

出典編集

  1. ^ a b “「アクティヴレイド」の花咲里あさみが警視庁の万引き防止啓発ポスターに登場” (日本語). アニメハック. https://anime.eiga.com/news/102092/ 2018年9月29日閲覧。 
  2. ^ 刑法[各論]がよ~くわかる本p58中井多賀宏、‎坂根洋輔,2007年 ‎
  3. ^ 万引き(まんびき)”. 語源由来辞典. ルックバイス. 2015年5月19日閲覧。
  4. ^ Bamfield, Joshua A. N. (Centre for Retail Research) (2012). Shopping and crime (Crime Prevention and Security Management). Houndmills, Basingstoke, Hampshire: Palgrave Macmillan. p. 84. ISBN 0230521606. 
  5. ^ a b 『最新版 留学&ホームステイのための英会話』アルク、2006年、45-46頁。
  6. ^ a b “不審行動を検知 「サブローくん」が万引きを防ぐのだ!”. J-CASTトレンド (ジェイ・キャスト). (2009年7月3日). http://www.j-cast.com/trend/2009/07/03044299.html 2015年3月11日閲覧。 
  7. ^ “本屋が万引で大損害をする理由!あの業界の原価率ってどのくらい?”. マイナビウーマン (マイナビ). (2013年6月25日). http://woman.mynavi.jp/article/130625-023/ 
  8. ^ https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170905-00010001-abemav-soci
  9. ^ https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170905-00010001-abemav-soci
  10. ^ a b 広報だざいふ11.06-877号 - 防犯だより (PDF)”. 太宰府市 (2012年5月8日). 2015年3月11日閲覧。
  11. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 59. 
  12. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 60-62. 
  13. ^ 馬渕哲、南條恵 (1995). 良い店悪い店の 法則. 日本経済新聞社. p. 192-193. 
  14. ^ 馬渕哲、南條恵 (1995). 良い店悪い店の 法則. 日本経済新聞社. p. 193. 
  15. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 78. 
  16. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 78-79. 
  17. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 79. 
  18. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 79-83. 
  19. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 79-80. 
  20. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 80-81. 
  21. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 81-82. 
  22. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 82. 
  23. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 82. 
  24. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 82-83. 
  25. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 82. 
  26. ^ ラルフ・G・トウジイ (昭和43年). セルフサービス経営入門. 株式会社商業界. p. 82-83. 
  27. ^ 磁気式(EM)万引防止システム”. IDECシステムズ&コントロールズ株式会社 (2008年9月1日). 2015年3月11日閲覧。
  28. ^ 電波式(RF)万引防止システム”. IDECシステムズ&コントロールズ株式会社 (2009年4月19日). 2015年3月11日閲覧。
  29. ^ ハードタグ - インクタグ”. 株式会社コージン (2011年10月13日). 2015年3月11日閲覧。
  30. ^ インクタグとは ”. 株式会社キャトルプラン (2011年10月13日). 2015年3月11日閲覧。
  31. ^ “悪質万引きに損害賠償請求 全国で100店以上が実施”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2009年10月2日). http://www.j-cast.com/2009/10/02050913.html?p=all 
  32. ^ 馬渕哲、南條恵 (1995). 良い店悪い店の 法則. 日本経済新聞社. p. 194. 
  33. ^ 馬渕哲、南條恵 (1995). 良い店悪い店の 法則. 日本経済新聞社. p. 195-196. 

関連項目編集