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刑務所図書館(けいむしょとしょかん、英:prison library)は、刑務所拘置所少年院、教護院等の矯正施設に設置される図書館である[1]。 また、矯正施設被収容者に対し、資料の提供を通じ、情報、教養、文化、娯楽を供するとともに、矯正施設の教育的設置趣旨に照らし、その教育、社会復帰の援助に資する図書館であるとされている[2]

運営形態として、

  1. 刑事施設が完全に独立して運営する
  2. ボランティアが運営する
  3. 公共図書館の協力のもと運営する

場合の三種が挙げられる[3]

目次

日本における刑務所図書館編集

 2014年現在の現行法である「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」では、

第一条(目的)  この法律は、刑事収容施設(刑事施設、留置施設及び海上保安留置施設をいう。)の適正な管理運営を図るとともに、被収容者、被留置者及び海上保安被留置者の人権を尊重しつつ、これらの者の状況に応じた適切な処遇を行うことを目的とする。 — 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律

とあるように、被収容者の処遇について、人権を尊重することを謳っており、被収容者の権利義務を明確にした[4]。被収容者の読書環境に関わる規定として、「第八節 書籍等の閲覧」を設け、自弁の書籍等の閲覧、新聞紙に関する制限、時事の報道に接する機会の付与等について規定している。第七十二条では、刑事施設の長に、刑事施設に書籍等を備え付ける義務を課している。ただし、図書と呼べるレベルの刑務所図書館を有する矯正施設は極僅かで、多くの刑務所図書館は図書レベルに留まる[2]

 日本の刑務所図書館、あるいは読書施設に関する調査はあまり行われていないため、現状を全国的に把握するのは難しい。しかし、通常は開架式又は閉架式の図書室を設け、そこに被収容者を連行し、図書カード等を用いて貸し出しをする方法が採られている[5]。また各居室棟や工場の食堂内に図書コーナーを設置して自由に貸し出す方法などもある[5]

 後述する海外の刑務所図書館の現状とは異なり、図書や閲覧できる部屋等が十分に設けられているとはいえず、実質的な読書環境の整備は進んでいない[6]。実際に、法務省が行っている「受刑者に対する釈放時アンケート(平成24年度分)[7]」では、各種の教育(改善指導等)のうち、図書(官本)について受刑者にたずねたところ、「種類の不足」という意見が男女とも50%以上を占めており、女子においては「本を選ぶ時間が短かった」という指摘が多くみられた 。

刑事施設が用意する書籍編集

刑務所図書館日本十進分類法別所蔵図書数の例[8]
施設名 日本十進分類法 外国語図書 合計
総記 哲学 歴史 社会科学 自然科学 技術 産業 芸術 言語 文学
東京拘置所 384 212 587 647 394 186 199 5314 399 10059 5160[9] 23541
1.6% 0.9% 2.5% 2.7% 1.7% 0.8% 0.8% 22.6% 1.7% 42.7% 21.9% 100%
静岡刑務所 213 834 782 2780 798 797 502 3761 3014 11907 2090[10] 27478
0.8% 3.0% 2.8% 10.1% 2.9% 2.9% 1.8% 13.7% 11.0% 43.3% 7.6% 100%
姫路少年刑務所 87 628 521 723 299 337 305 409 362 9075 N/A 12746
0.7% 4.9% 4.1% 5.7% 2.3% 2.6% 2.4% 3.2% 2.8% 71.2% 100%

2014年現在、刑務所図書館に備え付けられる書籍についての細則は「被収容者の書籍等の閲覧に関する訓令 」で定められている。これによれば、

第9条(備付書籍等の内容)  刑事施設の長は、被収容者の利用に供するため、法令、教育、教養及び適当な娯楽に関する書籍等を刑事施設に備え付けるものとする。
2  前項の書籍等(以下「備付書籍等」という。)には、職業上有用な知識の習得及び学力の向上に役立つものを含むよう配慮しなければならない。 — 被収容者の書籍等の閲覧に関する訓令

としている。このような、備え付ける図書の方向性を示した規則は、監獄法改正以降に初めて示された[11]。なお、被収容者が購入する私本は勿論、刑務所図書館に備え付けられる官本も検閲の対象となる[1]。「被収容者の書籍等の閲覧に関する訓令 」が2006年に定められる以前は,「収容者に閲読させる図書、新聞紙等取扱規程」が用いられていた。

貸出冊数・貸出期間編集

刑務所図書館での貸出冊数・貸出期間の例[12]
名称 貸出冊数 貸出期間
一般貸与官本 特別貸与官本 一般貸与官本 特別貸与官本
市原刑務所 3冊 1週間
静岡刑務所 3冊 7冊 原則1週間 おおむね1週間
川越少年刑務所 3冊 1週間
姫路少年刑務所 3冊 2冊 1週間 1ヶ月
東京拘置所 3冊 3冊 2週間 3ヶ月
広島拘置所 3冊 3冊[13] 1ヶ月 3ヶ月

貸出冊数は、古い規程によれば3冊以内であったが、現行規程では最低2冊、上限は刑事施設の長が定めるとしており、貸出期限も「おおむね1月以内」を目安に刑事施設の長が定めるとしている[14]。実際の運用は、刑事施設によって大きく異なる。

閲覧編集

新聞は、居住区で回覧させる形式が殆どであるが、一部の刑事施設では図書室を設置し、そこで閲覧させている[15]。また、公衆の場に掲示させるものも見られる[15]

一方書籍は、前述の様な図書室を備えた刑事施設以外では、自身の部屋で閲覧する[16]

刑事収容施設法第百五十条第一項では被収容者への懲罰を認めており、その懲罰の具体的内容は第百五十一条の各項各号で定められている。書籍等の閲覧に関する懲罰内容は、改正で最長三月から30日(条件を満たした閉居罰については60日)と短縮された[17]

日本以外の刑務所図書館編集

 1991年にIFLA(国際図書館連盟)によって「矯正施設被拘禁者に対する図書館サービスのためのガイドライン」が作成され,国際レベルの図書館基準が示された[18]

 このガイドラインは2005年の第三版に至るまで改訂されているが[19],刑務所図書館の規模や形態等はいまだ国によって異なっている。例えば、アメリカやヨーロッパ諸国の刑事施設において、刑務所図書館は広い普及をみている[2]

イギリス編集

 イギリスでは1999年刑務所規則(英:The Prison Rules 1999)によって

A library shall be provided in every prison and, subject to any directions of the Secretary of State, every prisoner shall be allowed to have library books and to exchange them.
すべての刑務所に図書館を設置しなければならない。そして、内務大臣の定める所に従い、すべての受刑者は、図書館の図書を所持し、交換することが許されなければならない — The Prison Rules 1999
日本語訳は中根憲一 2010による

と定められている。また、2000年青少年犯罪者施設規則(英:The Young Offender Institution Rules 2000)でも

A library shall be provided in every young offender institution and, subject to any directions of the Secretary of State, every inmate shall be allowed to have library books and to exchange them.
すべての青少年犯罪者施設に図書館を設置しなければならない。そして、内務大臣の定める所に従い、すべての受刑者は、図書館の図書を所持し、交換することが許されなければならない — The Young Offender Institution Rules 2000
日本語訳は中根憲一 2010による

のように、定めている。

 また、専門の図書館員を置くことを強く勧告し、その最低限度を定めるガイドラインが存在していることも特徴的である[20]

 2008年現在、140の刑事施設がイギリスには存在し、それら全てには図書館の設置がされている[21]。さらに、民営施設の2刑務所と129の官営刑務所の刑務所図書館は刑務所の立地する区域を管轄する公共図書館行政庁(英:public library authority)と締結した、サービスレベル協定(英:service level agreement)によって公共図書館行政庁が運営している[21]

 CILIP(en:CILIP,英国図書館・情報専門家協会)の刑務所図書館グループが様々な活動において積極的なサポートを行っており[22]、刑務所や青少年犯罪者収容所の図書館や図書館員の際立った功績を称えるための刑務所図書館アワードも創設されている[23][24]

アメリカ編集

 19世紀前後から宗教的な献身とふるまいの矯正を目的として聖職者の運営する刑務所図書館が設けられており[25]、ALA(アメリカ図書館協会)によって1915年に最初の刑務所図書館のマニュアルが出版されたほか、1920年代末には全国刑罰情報協会(National Society of Penal Information)が刑務所図書館の全国調査を実施していた[26]

 時代とともに位置づけは変化し、現在では、被収容者が社会復帰のために必要なスキルを身に着け、再犯率を減少させるうえで重要な役割を果たしている[27]。また、メリーランド州のジェサップ刑務所での、面会日に被収容者が自身の子どもや孫に対して読み聞かせを行うプログラムが開始されるという例[28]に見られるように、被収容者の家族も図書館サービスの対象とされている[29]

 また、アメリカ最大の刑務所であるにもかかわらず図書館の設置されていなかったアルゲニー群刑務所への図書館設置に向けた取り組みがピッツバーグ・カーネギー図書館によって開始されるなど、公共図書館による刑務所図書館に対する働きかけも行われている[30]

 アメリカ図書館協会(ALA)の部会であるAssociation of Specialized and Cooperative Library Agencies (ASCLA)が、各種ガイドラインの提供など刑務所での図書館サービスのための支援を行っている[31]。 2010年に採択された『受刑者の読む権利』では、セキュリティや違法性に関わるリスクを除いて検閲に当たる情報アクセスの制限を避け、可能な限り図書館の自由に関する宣言に沿った蔵書管理を要求している[32]。また、図書館の中立性を保つため、図書資源の購入に際して図書館員が施設側の審査や承認を受けることなく、受刑者のニーズに応じた購入を行うことを求めている[32]

カナダ編集

 カナダでは、矯正保護法第3条によって、連邦刑務所は「刑務所および社会においてさまざまな企画を実行し、犯罪者が法を守る社会人として再び社会において活動できるように、受刑者の社会復帰を援助する」ことを定められており、この社会復帰のための活動のために必要な情報を受刑者に提供する機関として、図書館の重要性が高いと指摘されている[33]

 2003年に発表された刑務所図書館を対象とした調査では、カナダの刑務所図書館の特徴として、被収容者が管理に大きく貢献していること、蔵書を充実させるための資金が不足していること、インターネットや参考図書、教育教材などが利用できないために被収容者に情報が不足することなどが明らかになった[34]

ドイツ編集

 すべての図書館で専門の図書館員が採用されているわけではないが、レクリエーションを提供し、教育を支援し、被収容者の個人的な発達を支援することを目的としてほとんどの刑務所が図書館を有しており、全ての被収容者が図書館にアクセスする権利を持っている[35] 。また、2007年には、ドイツ図書館協会(GLA)等が授与する図書館オブ・ザ・イヤーを刑務所図書館が受賞している[36]

出典編集

  1. ^ a b 『図書館情報学ハンドブック』図書館情報学ハンドブック編集委員会、丸善、1999年3月20日、第2版、877-878頁。ISBN 4621045598
  2. ^ a b c 『図書館情報学用語辞典』日本図書館情報学会用語辞典編集委員会、丸善出版、2013年12月25日、第4版、59頁。ISBN 9784621087749
  3. ^ 『図書館情報学ハンドブック』図書館情報学ハンドブック編集委員会、丸善、1988年3月25日、174-175頁。ISBN 4621032321
  4. ^ 中根憲一 2010, p. 13.
  5. ^ a b 鴨下守孝『受刑者処遇読本:明らかにされる刑務所生活』小学館集英社プロダクション、2010年2月23日、121頁。ISBN 9784796870665
  6. ^ 日置将之 (2011). “矯正と図書館サービス連絡会の発足について:矯正施設と図書館との連携充実・読書環境整備を目指して”. 図書館雑誌 105 (2): 82-83. 
  7. ^ 法務省. “「受刑者に対する釈放時アンケート」について(平成24年度分)”. 2014年10月15日閲覧。
  8. ^ 中根憲一 2010, p. 35.
  9. ^ 英語:2006冊、中国語:680冊、ペルシャ語:402冊、ハングル:319冊、ドイツ語:200冊など
  10. ^ 英語:1508冊、スペイン語:147冊、ペルシャ語:119冊、ポルトガル語:104冊、中国語:84冊など
  11. ^ 中根憲一 2010, p. 33.
  12. ^ 中根憲一 2010, p. 42.
  13. ^ 希望により増冊可能
  14. ^ 中根憲一 2010, p. 40.
  15. ^ a b 中根憲一 2010, p. 44.
  16. ^ 中根憲一 2010, p. 45.
  17. ^ 中根憲一 2010, p. 47.
  18. ^ Kaiser, Frances E. ed. (1994). 中根憲一(訳). “矯正施設被拘禁者に対する図書館サービスのガイドライン”. 現代の図書館 32 (1): 50-55. 
  19. ^ Lehmann, Vibeke and Joanne Locke. “Guidelines for Library Services to Prisoners”. 3rd Edition. IFLA Professional Reports, No. 92. 2005.
  20. ^ The Library Association Prison Libraries Group et al. (1997-10-25), Guidelines for Prison Libraries (2nd Revised edition edition ed.), Library Association Publishing 
  21. ^ a b 中根憲一 2010, p. 108.
  22. ^ Chartered Institute of Library and Information Professionals. “Chartered Institute of Library and Information Professionals”. 2014年10月8日閲覧。
  23. ^ Chartered Institute of Library and Information Professionals. “Prison Library of the Year Award”. 2014年10月8日閲覧。
  24. ^ 国立国会図書館関西館 (2012年11月9日). “英国図書館・情報専門家協会(CILIP)、初の刑務所図書館アワード授賞館を発表”. 2014年10月15日閲覧。
  25. ^ Lehmann, V. (2011). “Challenges and accomplishments in U.S. prison libraries”. Library Trends 59 (3): 491. http://muse.jhu.edu/login?auth=0&type=summary&url=/journals/library_trends/v059/59.3.lehmann.pdf. 
  26. ^ ウィリアム・J・コイル 『アメリカの刑務所図書館』、中根憲一(訳) 日本図書館協会、1994年、157頁。 
  27. ^ Marshall, A. M. J (2011). “Library services in correctional settings”. Information Outlook 15 (1): 24-26. 
  28. ^ NPR STAFF (2011年5月29日). “Prison Library Offers A Place To Escape”. 2014年10月8日閲覧。
  29. ^ American Library Association (2014年9月16日). “Prison Libraries”. 2014年10月8日閲覧。
  30. ^ 国立国会図書館関西館図書館協力課 『地域活性化志向の公共図書館における経営に関する調査研究』15巻 国立国会図書館〈図書館調査研究リポート〉、2014年3月25日http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8649952 
  31. ^ ASCLA. “Library Service to Prisoners Forum”. 2014年10月8日閲覧。
  32. ^ a b 図書館協会知的自由部(編)「アメリカ図書館協会の知的自由に関する中核文書」『図書館の原則』改訂4版 第1刷 日本図書館協会 2016年 ISBN 9784820416050 pp.69-71.
  33. ^ 山口昭夫 (2005年). “カナダの刑務所内図書館”. カレントアウェアネス. 国立国会図書館. pp. 5-7. 2014年9月20日閲覧。
  34. ^ Curry, Ann et al. (2003). “Canadian federal prison libraries: a national survey”. Journal of Librarianship and Information Science 35 (3): 141-152. 
  35. ^ Peschers, G (2011). “Books open worlds for people behind bars: Library services in prison as exemplified by the Münster Prison Library, Germany’s “Library of the Year 2007.””. Library Trends 59 (3): 520–543. 
  36. ^ 図書館オブ・ザ・イヤーを刑務所図書館が受賞(ドイツ)”. 国立国会図書館 (2007年10月29日). 2014年9月20日閲覧。

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集