外傷歯(がいしょうし)とは、外的要因により、歯周組織に発生する損傷の総称。硬組織の損傷である破折性のものと、軟組織の損傷である脱臼性のものに大別されるが、両方が同時に発生していることも多い[1]

分類 編集

外傷歯の分類として統一された指針はまだないが、Ellis(1970)、Davey、Andreasen(1980)、稗田らによる分類や、日本小児歯科学会が行った調査結果による分類法などが知られる[2][3]

疫学 編集

乳歯においては1歳6か月から2歳6か月、永久歯においては7~9歳の時期が多い[2][4]。男女比は年齢によって異なるが、男性のほうが多いが、女性のスポーツなどの参加の活発化に伴い、女性の割合が増加してきている[5]。部位は上顎中切歯が80%を占め[5]、残りも大部分が他の切歯である[4]

診査 編集

問診視診触診温度診歯髄電気診レントゲンCTコーンビームCT等のX線検査口腔内写真検査等により状態、治療法を検討する[6][7]

治療 編集

外傷の種類・範囲により治療方法は大きく変わるが、素早く処置を行うことにより、より保存的な経過が可能な場合もある。特に歯の脱離の場合、歯根部分の歯根膜の生死で再植後の生存率が変わる[8]ため、受傷後ただちに脱離した歯を保存液、牛乳口腔内などで保存し、歯科医師の治療を受ける必要がある[9]

予防 編集

スポーツでの外傷歯の発生を防ぐのに、マウスピースの有効性が知られており、接触の多いスポーツの一部ではその装着が義務化あるいは一部義務化されている他、多くのスポーツで使用が推奨されている。

虐待との関連 編集

外傷歯などの口腔外科的損傷で歯科を受診した子どもの中には、虐待が原因で発生したと思われる症例が存在する[10][11]歯科口腔外科を受診した小児外傷の救急患者のうち、「受傷状況に不自然な点がある」患者と「繰り返し受傷」患者が12.5%存在したとの報告もある[11]

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ 月星, p. 10
  2. ^ a b 久保山・本川, p.156
  3. ^ 大東・嘉藤, pp. 299-301
  4. ^ a b 大東・嘉藤, p.294
  5. ^ a b 勝海
  6. ^ 月星, pp. 13-25
  7. ^ 大東・嘉藤, pp. 297-299
  8. ^ 月星, p. 154
  9. ^ 月星, p. 155
  10. ^ 都築 他
  11. ^ a b 岩原 他

参考文献 編集

  • 岩原香織中川清昌山本悦秀「当科における小児外傷患者と虐待の可能性についての検討」『日本口腔科学会雑誌』第53巻第2号、日本口腔科学会、2004年、113頁、ISSN 0029-0297“第46回日本口腔科学会中部地方部会 2003年9月20日 B-16” 
  • 勝海一郎 著「第1章 外傷歯について 1-2外傷歯の疫学」、編集委員長 須田英明 編集委員 井上美津子杉山茂樹都築民幸 編『よくわかる外傷歯 症例から学ぶ治療のエッセンス』デンタルダイヤモンド社東京都千代田区〈DENTAL DIAMOND増刊号 35(6)〉、2010年4月1日、14-15頁。ISBN 978-4-88510-202-8ISSN 0386-2305 
  • 久保山博子本川渉 著「VIII 歯の外傷」、編著代表 町田幸雄下岡正八 編『小児の歯科臨床[診断と処置]』(初版)永末書店、2002年3月30日、155-174頁。ISBN 4-8160-1116-1 
  • 大東道治嘉藤幹夫 著「第16章 小児の歯の外傷」、編集 下岡正八 他 編『新小児歯科学』(第1版)クインテッセンス出版、1996年2月10日、294-315頁。ISBN 4-87417-501-5 
  • 月星光博『外傷歯の診断と治療 増補新版』(第2版)クインテッセンス出版〈シリーズMIに基づく歯科臨床〉、2009年8月10日。ISBN 978-4-7812-0090-3 
  • 都築民幸岩原香織 著「第3章 外傷歯の最新トピックス 3-14 外傷歯の法医学的側面」、編集委員長 須田英明 編集委員 井上美津子杉山茂樹都築民幸 編『よくわかる外傷歯 症例から学ぶ治療のエッセンス』デンタルダイヤモンド社東京都千代田区〈DENTAL DIAMOND増刊号 35(6)〉、2010年4月1日、14-15頁。ISBN 978-4-88510-202-8ISSN 0386-2305