岩塩
岩塩(がんえん)またはハライト(英: halite)、ロックソルト(英: rock salt)は、鉱物として産する塩化ナトリウム (NaCl) のことである。岩石名でもある。
岩塩 | |
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分類 | ハロゲン化鉱物 |
シュツルンツ分類 | 3.AA.20 |
化学式 | NaCl |
結晶系 | 立方晶系[1] |
対称 | Fm3m |
単位格子 | a = 5.6404(1) Å; Z = 4 |
モル質量 | 58.433 g/mol |
晶癖 | 主に立方体で、塊状の堆積層の中にあるが、粒状、繊維状、コンパクトなものもある。 |
へき開 | 完全 {001}、三方向立方体 |
断口 | 貝殻状 |
粘靱性 | 脆い |
モース硬度 | 2.0–2.5 |
光沢 | ガラスのような |
色 | 純粋なものは無色または白色。不純物により、黄色、灰色、黒色、茶色、赤色など(同位体純度によって様々な色になる)[1]。 |
条痕 | 白色 |
透明度 | 透明から半透明 |
比重 | 2.17 |
光学性 | 等方性 |
屈折率 | n = 1.544 |
融点 | 800.7 °C |
溶解度 | 水溶性 |
その他の特性 | 塩味、蛍光の可能性 |
文献 | [2][3][4][5] |
プロジェクト:鉱物/Portal:地球科学 |

成り立ち
編集海底が地殻変動のため隆起するなどして海水が陸上に閉じ込められ、あるいは塩湖が、水分蒸発により塩分が濃縮し、結晶化したものである。
この現象は米国のデスヴァレーやボリビアのウユニ塩湖のように現在でも見られるが、地質時代の厚い岩塩は米国や欧州各国、中東、アフリカで知られる。岩塩は他の岩石より軽いため、地層の圧縮を受け絞り出されるように地層中で岩塩栓あるいは岩塩ダイアピルと呼ばれる盛り上がり構造をつくる。この構造の近くで石油が溜まりやすいため、米国メキシコ湾や西アフリカなどで石油が産出する。
岩塩の多くは無色または白色に近い淡い色をしているが、産地や地層によっては青色、桃白色、鮮紅色、紫色、黄色などの様々な色を有する。こうした岩塩の結晶の色は、ミネラルやイオウ、有機物の混入や、地層中で長期間にわたって放射線を浴びることによって生じた格子欠陥などによる吸収であり、このような欠陥を色中心と呼ぶ。格子欠陥による着色は水に溶かすと消失し無色透明の水溶液となる。
地質
編集ソルトテクトニクス 地殻変動で岩塩ドームとして表層に出てきた岩塩氷河は、雨などによって溶けて氷河のように移動する場合がある。
産地
編集以下は主な産地と生産量(2003年度・100万トン超のもののみ記載)
産地 | 生産量 |
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アメリカ合衆国 | 1630万トン |
ドイツ | 1500万トン |
イタリア | 300万トン |
スペイン | 200万トン |
イギリス | 150万トン |
ブラジル | 130万トン |
パキスタン | 130万トン |
有名な岩塩が取れる場所としては、ヴィエリチカ岩塩坑(世界遺産)、ハルシュタットが知られている。
一般人が見ることができる場所としては、廃坑となった後に治療所・観光地となったトゥルダ岩塩坑などがある。
南米コロンビアのシパキラは岩塩の洞窟で有名である。約1億年前に地殻変動で閉じ込められた海水が岩塩化したものである。閉鎖された岩塩抗を利用した「塩の大聖堂」はライトアップされ、多くの観光客が訪れる。
なお、日本においては、岩塩を採取できる場所はない。周囲を海に囲まれた島国であるため、豊富に得られる海水を煮詰め、大規模な製塩が古来より可能であり、岩塩を必要としなかったためでもある。
ただし、製塩には薪や石炭など多量の燃料が必要不可欠であり、また天日で水分を蒸発させ濃い塩水をつくる塩田は緯度の高い関東以北の土地には適さないため、寒冷な土地で大量の燃料が得られにくい北海道のアイヌは必要な食塩の調達を物々交換に頼っていた。そのためアイヌ民族にとって塩は貴重品であり、食品の保存などに塩を多用することはできず、調味料として少量を用いるのみであった。
特徴・用途
編集- 結晶は等軸晶系(立方晶系)で、立方体のものが一般的である。鉱床からは層をなして産出する。このとき、同時に海水中から析出した塩化マグネシウムなどの他の塩類や石膏を伴うことが多い。岩塩の潮解性はこの塩類によるものである。
- 湿度の高い環境下では潮解が起こりやすい。
- 岩塩層は、地層が比較的安定していることを見込まれて、ドイツでは放射性廃棄物の地層処分の場として20世紀後半に使用されたが、地下水浸出や岩塩ドームの崩壊が危惧されている。
- 少しずつ膨張する性質がある。そのためアメリカのニューメキシコ州にある核廃棄物隔離試験施設は岩塩層の中に作られており、数百年後には核廃棄物を完全に岩塩の中に閉じ込めることができることになる。
- 用途
脚注
編集- ^ a b Geology.com: Halite
- ^ “Halite”. Handbook of Mineralogy. 2010年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年4月16日閲覧。
- ^ “Halite”. Mindat.org. 2011年8月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年8月5日閲覧。
- ^ “Halite”. Webmineral. 2004年11月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2004年11月24日閲覧。
- ^ Haynes, William M., ed (2011). CRC Handbook of Chemistry and Physics (92nd ed.). CRC Press. ISBN 978-1439855119
- ^ 田中義信 『切削加工法の進歩』,精密機械,第25巻288号, pp.22-34(1959年)
- ^ 中島篤之助, 下村丁一 『分光装置 第4講 分光器の調整と検査』,分光研究,第19巻4号,pp.223-236(1970年)
参考文献
編集- 国立天文台編 『理科年表 平成19年』 丸善、2006年、ISBN 4-621-07763-5
関連項目
編集外部リンク
編集- Halite(mindat.org)
- Halite Mineral Data(webmineral.com)