早替わり
一人の歌舞伎役者が複数の役を短時間で演じ分けること
早替わり(はやがわり)は、歌舞伎の演出の一つ。一人の役者が、老若・男女・善悪など趣を異にする複数の役を短時間あるいは一瞬で演じ分けること。
概要
編集早替わりはケレンの一種としてすでに元禄歌舞伎(18世紀末)の舞台で行われていたが、文化文政時代(19世紀半ば)に四代目鶴屋南北が『天竺徳兵衛韓噺』『東海道四谷怪談』『於染久松色読販』などの演目にふんだんに用いて評判を集めこれを完成させた。やがて『仮名手本忠臣蔵』『夏祭浪花鑑』などの旧作品の演出や舞踊劇でも使われるようになり、後代には「変化物」という一つの演目群が形成された。
明治以降は歌舞伎の高尚化に伴ってケレン物の演出が排除される動きが起こり早替わりも軽視されたが、関西で初代市川右團次や二代目實川延若らによって辛うじて継承された。戦後になって、1970年代頃から三代目市川猿之助が一連の猿之助歌舞伎でこれを多用したことで復権を果たし、そこから発展したスーパー歌舞伎では演出上不可欠な要素にまでなっている。
スピードと鮮やかさが求められるので、舞台袖や道具裏揚げ幕内で複数のスタッフによって化粧から扮装まで手早く行われる「早拵え」や、身体が似ている役者を時間稼ぎに使う「吹き替え」など様々な工夫が行われる。
主な例
編集参考文献
編集- 『歌舞伎事典』平凡社 1983年