民事不介入
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概要編集
民事事件は司法権によって解決すべきであり、行政権に属する警察は口を出してはならない、というのが民事不介入の意味するところである[1]。
民事上は契約自由の原則が存在し、同原則から導かれる契約自治の原則により、契約はその当事者間で拘束力を持つ。そのため、明確な犯罪行為がない限り、契約当事者間で合意した内容につき警察が介入することは原則的にできない[2]。
法律上直接に民事不介入の原則を定めた規定はないが、警察法第2条第2項が以下のとおり定めていることに民事不介入の法的根拠を求める見解もある[1]。
警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきであって、その責務の遂行に当っては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない。 — 警察法第2条第2項
民事不介入が問題とされる分野編集
男女関係、家族関係等編集
ドメスティック・バイオレンスや児童虐待[3]に対する対応に関しては、従来は警察は民事不介入を理由に家庭への介入を差し控える傾向があったが、DV防止法施行以降、積極的な対応を取る方向に方針を転換したとされる。同法施行以降もしばらくは被害者の処罰意思が示された場合にのみ捜査を進める方針を採っていたが、ストーカー事案やDV事案での深刻な被害が発生し警察の対応が問題視されることが繰り返されたため、2013年12月6日の通達[注釈 1]などに基づき、被害者の処罰意思が明確に示されない場合でも必要な場合には積極的に強制捜査を行う方針が示された[4]。
知的財産権編集
知的財産権を侵害する行為は多くの場合犯罪であるが、捜査当局の立場からすれば単なる民事事件である財産権の侵害であるため、限られた人的・時間的資源の投入には消極的であり、極めて悪質な事案か国際的に協力を要請されるような事案(海賊版や違法アップロードの取り締まりなど)を除いて、民事不介入を理由に積極的な捜査に乗り出さないことが多い[5]。
暴力団関係編集
1991年の暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)施行により、警察では民事不介入の原則を転換していったとされている。しかし、末端では2021年5月時点においても民事不介入に基づく対応が続けられていると指摘されている[6]。
消費者事件編集
民事不介入が問題とされた事件編集
- 桶川ストーカー殺人事件および栃木リンチ殺人事件(石橋事件)について、いずれも民事不介入についての誤った認識の払拭が必要であると指摘されている。特に石橋事件については、民事不介入とは全く別の問題であるのに民事不介入を理由に警察が職務を怠ったとされ、「非常識」との意見が出されている[8]。
脚注編集
注釈編集
- ^ 平成25年12月6日警察庁丙生企133号ほか。
出典編集
- ^ a b 中里和伸 & 野口英一郎 2017, p. 18.
- ^ a b 牧野和夫 2014, p. 5.
- ^ 三枝有「児童虐待への刑事法的介入と理論的背景」『法政論叢』第48巻第2号、日本法政学会、2012年、 45頁、 doi:10.20816/jalps.48.2_45、 ISSN 0386-5266、 NAID 130006193077。
- ^ 打越さく良 2018, pp. 209–210.
- ^ 三山裕三 2016, p. 593.
- ^ “番組審議会から(第631回)”. テレビ西日本 (2021年5月18日). 2021年9月3日閲覧。
- ^ “警察は助けてくれない!弁護士が教える「ぼったくり対処法」”. 東スポWeb. (2015年2月26日) 2020年5月8日閲覧。
- ^ “警察刷新会議第8回会議議事要旨”. 国家公安委員会 (2002年6月16日). 2021年9月3日閲覧。
参考文献編集
- 牧野和夫 『英文契約書の基本表現 : 契約書が楽に読めるようになる』日本加除出版、2014年。ISBN 9784817842015。 NCID BB17763766 。
- 中里和伸、野口英一郎 『判例にみる 債務不存在確認の実務』新日本法規、2017年11月。ISBN 978-4-7882-8344-2。
- 打越さく良 『Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで』(第3版)日本加除出版、2018年12月。ISBN 978-4-8178-4534-4。
- 三山裕三 『著作権法詳説 : 判例で読む14章』(第10版)勁草書房、2016年。ISBN 9784326403264。 NCID BB22770578 。