分離工学(ぶんりこうがく、英語:separation engineering)とは、化学工業における分離プロセスについて扱う学問である。分離科学とも呼ばれる[1]

分離工学を学ぶには、物理化学熱力学)や移動現象論の知識が必要となる。 混合物の中から目的物だけをえらび、抽出することを分離といい[2]、化学工学を専門とする者にとって、分離工学は非常に重要な分野であるといってよい。 日本の大学の化学工学に関する学科における、分離工学の講義では、吸着蒸留ガス吸収抽出膜分離などを扱うことが多い。 分離工学は、分離精度を求めたり(例えばAとBの2成分混合物を単蒸留した場合、製品の組成はどうなるかを考えるようなことである)、分離装置(蒸留塔や吸収塔など)を設計したりするということがその目的である。

化学工業における分離操作の重要性 編集

複数の原料反応させて製品をつくるためには、まず原料を精製することから始めなくてはならない。例えば、石油化学プラントでは仕入れた原油をまず蒸留塔にかけて、ガソリン軽油重油などに分けてから次の工程に移す。このとき、分離はとても重要になる。 また、精製した原料を反応させて生成物を合成したあとは、分離して未反応物を取り除いて純度の高い製品にする必要がある。ここでもやはり分離は重要である。また、このとき取り除かれた未反応物リサイクルされて、再び反応器に入る。原料にかかるコストを下げるためにも未反応物を回収し、再び反応させることが必要であり、そのために化学プラントには分離装置は欠かせない。

製造だけでなく廃水の減容化や、有害物質の除去にも分離が用いられている[3]

1982年時点の報告で、化学工業の消費するエネルギーのうち75%が分離に使用されているとある[4][5]。また、石油化学産業の消費するエネルギーのうち約40%が蒸留操作による分離である[6]

分離操作の概要 編集

分離操作には、相平衡を利用して分離する方法(これを平衡分離という)と速度差を利用して分離する方法(これを速度差分離という)とがある。平衡分離には、蒸留やガス吸収、抽出などがあり、速度差分離にはクロマトグラフィー電気泳動などがある。 どの分離操作を用いるのが良いかは、そのケースごとに異なるが、例えば、2成分液ー液系の混合物であれば、蒸留や抽出を考えるのが普通である。また、この混合物の2つの成分の相対揮発度が大きければ蒸留操作では分けやすいといえるし、2成分が水と油のように溶解度が違う場合は抽出操作を用いるのがよいといえる。

分離操作の一覧 編集

出典 編集

  1. ^ 上野景平『分離の科学 ハイテクを支えるセパレーション・サイエンス』講談社、1988年、5頁。ISBN 4061327232 
  2. ^ 上野景平『分離の科学 ハイテクを支えるセパレーション・サイエンス』講談社、1988年、13頁。ISBN 4061327232 
  3. ^ 日本酒製造に使った霧化技術を、廃液処理やリサイクルに活用”. 日経テクノロジーonline (2013年9月10日). 2017年2月2日閲覧。
  4. ^ 7th Simposium of Separation Science, Oak Ridge, Tenn. USA. (1982). 
  5. ^ 分離工学 001”. 武田邦彦(中部大学) (2007年4月15日). 2017年2月2日閲覧。
  6. ^ 戦略プロポーザル-分離工学イノベーション~持続可能な社会を実現する分離の科学技術~」、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、2016年3月、2017年2月2日閲覧 
  7. ^ 松浦一雄「超音波霧化分離法を用いた低沸点有機化合物の高濃度化と不揮発成分の濃縮」『日本醸造協会誌』第108巻第5号、日本醸造協会、2013年、310-317頁、NAID 100311692692017年2月1日閲覧