益都路
益都路（えきとろ）は、中国にかつて存在した路。モンゴル帝国および大元ウルスの時代に現在の山東省濰坊市一帯に設置された。治所は益都県で、大元ウルスの行政上は中書省に直属する地域（腹裏/コルン・ウルス）であった。
歴史 編集
唐代の青州、金代の益都路総管府を前身とする。チンギス・カンによる最初の金朝遠征の際、ジョチ・カサルらチンギス・カンの弟達の一族（東道諸王）と国王ムカリらの率いる「左翼軍」は遼東・遼西地方から南下して山東半島一帯を攻略し、後の益都路一帯もモンゴル帝国の勢力下に入った[1]。金朝遠征が成功裏に終わると、チンギス・カンは配下の諸王・諸将にそれぞれが攻略を担当した地域を領地（投下領）として与えており、この時現在の山東省西部一帯にオッチギン家の勢力圏が形成されたと見られる。
1236年、第2代皇帝オゴデイはチンギス・カン時代の領土の分配を追認する形で河北の諸路を諸王・勲臣に分配した（丙申年分撥）が、この時益都一帯はカサル家のイェグに与えられた[2]。その後、何らかの事情を経て益都路はカサル家ではなくオッチギン家の投下領となった[3]。
1287年（至元24年）にテムゲ・オッチギンの末裔であるナヤンが叛乱を起こした際（ナヤン・カダアンの乱）、「ナヤンが管轄する益都路・平灤路のダルガチを罷免した」とする記録があり[4]、国初以来変わらず益都路・平灤路がオッチギン王家の投下領であったことが確認される[5][6]。
管轄州県 編集
益都路には録事司、21県（内6県が路の直轄）、8州が設置されていた。
6県 編集
8州 編集
脚注 編集
- ^ 『聖武親征録』「辛未……乃分軍為三道……哈撒児及斡陳那顔・拙赤䚟・薄刹為左軍、沿海破淄・沂等城而還」
- ^ 『元史』巻2太宗本紀,「［八年秋月］詔以真定民戸奉太后湯沐、中原諸州民戸分賜諸王・貴戚・斡魯朶……野苦、益都・済南二府戸内撥賜」
- ^ 『元史』巻95志44食貨志3,「太祖弟斡真那顔位：歳賜、銀一百錠、絹五千九十八匹、綿五千九十八斤、段三百匹、諸物折中統鈔一百二十錠、羊皮五百張、金一十六錠四十五両。五戸絲、丙申年、分撥益都路等処六万二千一百五十六戸」
- ^ 『元史』巻14世祖本紀11,「［至元二十四年秋七月］癸丑……罷乃顔所署益都・平灤、也不干河間分地達魯花赤、及勝納合児済南分地所署官」
- ^ 松田2010,55頁
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「益都路、唐青州、又升盧龍軍。宋改鎮海軍。金為益都路総管府。戸七万七千一百六十四、口二十一万二千五百二。領司一・県六・州八。州領十五県」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「録事司。県六：益都、中。倚郭。至元二年、以行淄州及行淄川県併入。三年、又並臨淄・臨朐二県入焉。十五年、割臨淄・臨朐復置県、並属本路。臨淄、下。臨朐、下。高苑、下。旧属淄州。楽安、下。寿光、下」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「州八：濰州、下。唐初為濰州、後廃。宋為北海軍、復升濰州。金属益都路。元初領北海・昌邑・昌楽三県及司候司。憲宗三年、省司候司入北海。至元三年、省昌楽県入北海。領二県：北海、下。昌邑、下」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「膠州、下。唐初為膠西県。宋置臨海軍。金仍改為膠西県、属密州。元太祖于県置膠州。領三県：膠西、中。即墨、下。宋・金皆隷萊州、元太祖二十二年来属。高密、下。宋・金並隷密州」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「密州、唐初改為高密郡、後仍為密州。宋為臨海軍、復為密州。元初因之、以膠西・高密属膠州。憲宗三年、省司候司入諸城県、隷益都。領二県：諸城、州治所。安丘、下」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「莒州、下。唐廃莒州、以莒県隷密州。宋沿其旧。金復為莒州、隷益都府。元初因之。領四県：莒県、下。州治所。憲宗三年、省司候司入焉。沂水、下。有沂山、為東鎮。日照、下。蒙陰、下。元初、因旧名為新泰県。中統三年、以李璮乱、人民逃散、省入沂水。皇慶二年、復置為蒙陰県」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「沂州、下。唐初改為琅邪郡、後仍為沂州。宋属京東東路。金属山東東路。元属益都路。領二県：臨沂、中。州治所。憲宗三年、省司候司入焉。費県、下」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「滕州、下。唐為滕県、属徐州。宋仍旧。金改為滕州、属兗州。元隷益都路。領二県：滕県、下。憲宗三年、省司候司入焉。鄒県、下」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「嶧州、下。唐置鄫州、又改蘭陵県為承県、後州廃、以県属沂州。宋仍旧。金改蘭陵県、於県置嶧州。元初以嶧州隷益都路、至元二年、省蘭陵入本州」
- ^ 『元史』巻58志10地理志1,「博興州、下。唐博昌県。後唐改博興。宋属青州。金属益都府。元初升為州」
参考文献 編集
- 杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
- 松田孝一「オゴデイ・カンの『丙申年分撥』再考(2)」『立命館文学』第619号、2010年