賃粉切り(ちんこきり)とは、賃金を取って葉たばこを刻む職人のことである[1][2]。単に賃粉ともいう[3]。賃金を取って葉たばこを刻むこと自体も賃粉切りという[2]

概要 編集

江戸時代の日本における煙草は、煙管に詰めて用いる刻み煙草であり、当初は喫煙者自身で煙草を刻む「手刻み」が一般的であったが、喫煙の広まりとともに刻んだ煙草が販売されるようになった[4]。そのような中、行商に出て、客の注文に応じて路上で葉たばこを刻んで売ったり[1]、あるいは、煙草を売る店舗から葉たばこ刻みを請け負って手間賃をもらったり[5]する職人が出て、このような職人を「賃粉切り」と呼んだ[1][5]17世紀末には行商形態、18世紀前半には店専属の賃粉切りが出現していたと見られている[6]

たばこを刻む仕事はあまり元手を必要としなかったことから、経済力を問題とせず始めやすい仕事だったようで[7]、食い詰めた下級武士浪人が賃粉切りを行うこともあったとされる[5]

江戸時代の庶民にとって賃粉切りはなじみの深い存在であり[1]、当時の川柳には賃粉切りが多く登場しているほか[8]井原西鶴の『好色五人女[5]や、歌舞伎[9]洒落本[10]などにも賃粉切りが現れている。

切り方 編集

賃粉切りが葉たばこを刻む工程は、まず葉に付着した塵を取り除いた上、まな板(台)に葉脈を抜き取って固く縛った束状の葉たばこを乗せ[11]、葉の上から木の板(駒板あるいは押さえ板と呼ぶ)を当てがい、職人が体で押さえこむようにした上で駒板を少しずつずらしながら[12]包丁で葉たばこを細かく刻んでいくというものであった[7][13][14]。体全体の力を使う作業であったとされる[5]。煙草の刻み方については、客が自分好みの刻み方を注文することもあったようである[14]

「ちんこ」切り 編集

「賃粉」の読みは、陰茎幼児語である「ちんこ」と同じである。そのため、すでに誹風柳多留などにも、この同音異義語に絡めた、

  • ちんこ切りなら怖いよと頑是なさ[15]
  • きん玉の休む隙無き賃粉切り[16]
  • 煙草屋の娘ちんこが取りたがり[17]
  • 烟草やの娘ちんこを入たがり[18]

などの川柳が残され、現代にまで伝わっている。

脚注 編集

  1. ^ a b c d 『江戸の生業事典』232頁「賃粉切り」の項
  2. ^ a b 『日本国語大辞典 第2版 第9巻』175頁
  3. ^ 『日本国語大辞典 第2版 第9巻』174頁
  4. ^ 『時代小説「江戸」事典』258頁
  5. ^ a b c d e 其の十五 ふきがらをじゅうといわせるちんこ切 > たばこの川柳 > ことわざ&川柳 > たばこに親しむ > たばこの雑学 > たばこワールド - 日本たばこ産業ウェブサイト(2014年4月26日閲覧)
  6. ^ 『タバコの歴史』213頁
  7. ^ a b 『タバコの歴史』212頁
  8. ^ 『江戸の生業事典』232-233頁に掲載されているだけで、「賃粉切り」「ちんこ切り」を含む川柳は26句ある。
  9. ^ 例えば『お染久松色読販』「能き所に鬼門喜兵衛賃粉切の拵へ煙草を切り居る」、『御国入曽我中村』「向うより源次ちんこ切りの拵え煙草の俵を一俵かつぎ」
  10. ^ 例えば『娼妓絹籭』「なんの事はねへたばこやの賃粉切といふ身だ」、『辰巳婦言』「なんのこった庖丁を引ったくられたちんこ切か」、『南極駅路雀』「ちんこ切と葉ごしらへして芥川を歩渉にして」
  11. ^ 誹風柳多留118編29丁甲「筋骨を抜きふんじばる多葉粉の葉」
  12. ^ 誹風柳多留108編21丁「乗っ掛かりこまを早める賃粉切り」
  13. ^ 『江戸の生業事典』232-233頁「賃粉切り」の項
  14. ^ a b 『江戸と東京風俗野史』209頁
  15. ^ 誹風柳多留52編25丁。頑是ない幼児が、「ちんこ切り」と聞いて性器切断の方と捉え、怖がっているという川柳。
  16. ^ 誹風柳多留35編18丁
  17. ^ 誹風柳多留60編10丁
  18. ^ 雑俳・梅柳〔1836〕一(『日本国語大辞典 第2版 第9巻』174頁による)

参考文献 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集