1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン

1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン (1,8-bis(dimethylamino)naphthalene) は、有機化学において用いられる塩基化合物の一種。水素陽イオン(プロトン、H+)を強く捕捉して離さない性質があるため、「プロトンスポンジ」の別名がある(シグマ・アルドリッチ社の商標)。

1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン
識別情報
CAS登録番号 20734-58-1 チェック
PubChem 88675
ChemSpider 80012 チェック
UNII 6S79D2P9H8 チェック
特性
化学式 C14H18N2
モル質量 214.31 g mol−1
外観 白色の結晶性粉末
融点

47.8 °C, 321 K, 118 °F

酸解離定数 pKa 12.1 (水)[1]

18.62 (アセトニトリル)[2]
(acidity of the conjugate acid C14H18N2H+)

特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

強い塩基性

編集

プロトンスポンジの共役酸の酸解離定数 (pKa) は約12.34(水溶液中)と、単なるアミンとしては異常に強い塩基性を示す。これはその特殊な構造によっている。通常芳香族アミン窒素原子は芳香環との共役のため平面構造をとるが、プロトンスポンジでは4つのメチル基の立体反発によって平面の配置を取り得ず、ひずんだ構造となっている。ここにプロトンがやってくると2つの窒素原子にキレートされる形で強く結合し、安定化される。このためプロトンスポンジは水素イオンを捕捉する速度は速くないが、一度結合すると解離速度が極めて遅いという特異な性質を持つ。

また窒素上のメチル基が減ると塩基性は大きく低下し、トリメチル誘導体pKa は約6.43と100万倍も低いことが知られている。またプロトンスポンジの 2,7 位にメトキシ基がついたり、フルオレンの 4,5 位にジメチルアミノ基を持ったものはさらに強い塩基性を示す。ジメチルアミノ基の代わりにホスファゼン塩基をつけたさらなる強塩基も開発されている。

ちなみに、プロトンスポンジのアミノ基をボランに置き換えた1,8-ナフタレンジイルビス(ジメチルボラン)ヒドリドスポンジと呼ばれ、プロトンスポンジとは逆にヒドリドと強く結合する性質を持つ[3]

用途

編集

有機合成において、微量のプロトン源によって反応が妨害される場合、プロトンスポンジの添加が効果的な場合がある。

脚注

編集
  1. ^ R. W. Alder; P. S. Bowman; W. R. S. Steele & D. R. Winterman (1968). “The remarkable basicity of 1,8-bis(dimethylamino)naphthalene”. Chem. Commun. (13): 723. doi:10.1039/C19680000723. 
  2. ^ I. Kaljurand, A. Kütt, L. Sooväli, T. Rodima, V. Mäemets, I. Leito, I. A. Koppel. Extension of the Self-Consistent Spectrophotometric Basicity Scale in Acetonitrile to a Full Span of 28 pKa Units: Unification of Different Basicity Scales. J. Org. Chem., 2005, 70, 1019–1028. doi:10.1021/jo048252w
  3. ^ Howard Edan Katz. "Hydride sponge: 1,8-naphthalenediylbis(dimethylborane)" J. Am. Chem. Soc. 1985, 107 (5), 1420–1421. DOI: 10.1021/ja00291a057