Wikipedia:外来語表記法/ポーランド語

ポーランド語はラテン文字により表記が行われるものの、特定の条件によって発音が文字単体のものとは異なるものとなる現象が多々現れる言語であり、原音主義に基づいて日本語への転写を行おうとすると、様々な困難が伴います。そこで以下の解説と早見表により転写時の一定の目安を示すと共に、ポーランド語の人名や氏名を扱う編集者への負担の軽減を図ることとします。なお、加筆はご自由にどうぞ。

実例編集

  1. ポーランド人の姓には-ewski や-owskiで終わるものが一定数存在し、単体では有声音である"w"が無声音として現れるパターンは代表的な例です。
    1. Jerzy Andrzejewski → 「イェジ・アンジェイェスキ
    2. Michał Kwiatkowski → 「ミハウ・クャトコスキ

なお、以下の様にポーランド語の発音が熟知されていない段階で日本語文化圏に伝わり、慣用表記が定着したものもあります。

  1. Warszawaワルシャワ (本来は「ヴァルシャヴァ」)
  2. Andrzej Wajdaアンジェイ・ワイダ (本来は「アンジェイ・ヴァイダ」)

しかし、これから新たにポーランド語由来の地名や人名を転写する際には、検証可能性を踏まえた上で極力原音主義に則ることが望ましいと思われます。

原則編集

 以下では、特に断りが無い限り、ポーランド語本来の音声という観点から述べていきます。

  1. 母音には長短による区別はない。
  2. 促音にあたるものは、同じ音が連続する場合以外には現れない。このため、基本的に日本語表記に促音は用いない。但し、Łódź → 「」(本来は「ウチ」)などの例外も存在する。
  3. 次の場合には有声音が対応する無声音に変化する(同化)。対応関係については、#子音一覧を参照。
    1. 語尾。
      例: Łó → 「ウッ」 (*/wud͡ʑ/  /wut͡ɕ/[ヘルプ/ファイル]
    2. 一つ前に別の無声音がついている場合。→ 順行同化する。
      例1: Krzysztof → 「シュトフ」 (*/kʒɨʃtɔf/  /ˈkʃɨʃtɔf/[ヘルプ/ファイル]
      例2: Przemyśl → 「ェムィシル」 (*/pʒɛmɨɕl/  /ˈpʃɛmɨɕl/[ヘルプ/ファイル]
    3. 一つ後ろに別の無声音が続いている場合。→ 逆行同化する。
      例: #実例の-wski → 「~スキ」 (*/vskʲi//fskʲi/

母音一覧編集

母音の一覧です。

子音一覧編集

ポーランド語の子音は日本語の清音濁音の様に無声音と有声音が対となっています。人名等においては上記の実例の様に有声音が無声音に変化する事例が比較的多く、以下のような左右の組み合わせが重要となります。

無声音  有声音
正書法 IPA表記 正書法 IPA表記
p /p/ b /b/
f /f/ w /v/
t /t/ d /d/
s /s/ z /z/
c /t͡s/ dz /dz͡/
sz /ʃ/ ż, rz /ʒ/
cz /t͡ʃ/ /dʒ͡/
ś /ɕ/ ź /ʑ/
ć /t͡ɕ/ /d͡ʑ/
k /k/ g /ɡ/

以下の音には、対応する子音はありません。

  • m: /m/; n: /n/; ń: /ɲ/; ł: /w/; l: /l/; r: /r/; j: /j/; chおよびh :/x/

早見表編集

子音字 + 母音字編集

各子音字が母音字と組み合わさった場合のカナ表記一覧表です。

a ą e ę i o ó, u y
b ボン ベン ブィ
c ツァ ツォン ツェ ツェン ツォ ツィ
ch ホン ヘン
cz チャ チョン チェ チェン [2] チョ チュ
d ドン デン ディ ドゥ ディ
dz ゾン ゼン ズィ
ジャ ジョン ジェ ジェン [3] ジョ ジュ
f ファ フォン フェ フェン フィ フォ -[4]
g ゴン (ゲ)[5] ゲン -[4]
h ホン ヘン -[4]
j ヨン イェ イェン [4] -[4]
k コン (ケ)[5] ケン -[4]
l ロン レン -[4]
ł ウォン ウェ ウェン -[4] ウォ ウィ
m モン メン ムィ
n ノン ネン ヌィ
p ポン ペン プィ
r ロン レン ルィ
s ソン セン スィ
sz シャ ション シェ シェン [6] ショ シュ
t トン テン ティ トゥ ティ
w ヴァ ヴォン ヴェ ヴェン ヴィ ヴォ ヴィ
z ゾン ゼン ズィ
ż / rz ジャ ジョン ジェ ジェン [7] ジョ

軟子音を含む一覧表編集

以下では、IPAによる軟子音の音価と母音の結びつきの組み合わせの正書法とカナ転写の一覧を表示します。また、口蓋化した子音とyが結びつくことはありません。なお、古典ギリシア語ラテン語由来の語彙中のものは、下表の拗音部分を対応するア行の音に直して下さい。

母音なし a ą e ę i o ó, u
/bʲ/ (b) bia: 「ビャ」 bią: 「ビョ」 bie: 「ビェ」 bię: 「ビェ」 bi: 「ビ」 bio: 「ビョ」 bió, biu: 「ビュ」
/t͡ɕ/ ć cia: 「チャ」 cią: 「チョン」 cie: 「チェ」 cię: 「チェン」 ci: 「チ」 cio: 「チョ」 ció, ciu: 「チュ」
/d͡ʑ/ dzia: 「ジャ」 dzią: 「ジョン」 dzie: 「ジェ」 dzię: 「ジェン」 dzi: 「ジ」 dzio: 「ジョ」 dzió, dziu: 「ジュ」
/fʲ/ (f) fia: 「フャ」または「フィァ」[8] fią: 「フョン」 fie: 「フィェ」[9] fię: 「フィェン」[9] fi: 「フィ」 fio: 「フョ」 fió, fiu: 「フュ」[10]
/ɡʲ/ (g) gia: 「ギャ」[10] gią: 「ギョン」 gie: 「ギェ」 gię: 「ギェン」 gi: 「ギ」 gio: 「ギョ」[10] gió, giu: 「ギュ」[10]
/kʲ/ (k) kia: 「キャ」[10] kią: 「キョン」[10] kie: 「キェ」 kię: 「キェン」[10] ki: 「キ」 kio: 「キョ」[10] kió, kiu: 「キュ」[10]
/lʲ/ (l) - - - - li: 「リ」 - -
/mʲ/ (m) mia: 「ミャ」 mią: 「ミョン」 mie: 「ミェ」 mię: 「ミェン」 mi: 「ミ」 mio: 「ミョ」 mió, miu: 「ミュ」
/ɲ/ ń: 「ン」 nia: 「ニャ」 nią: 「ニョン」 nie: 「ニェ」 nię: 「ニェン」 ni: 「ニ」 nio: 「ニョ」 nió, niu: 「ニュ」
/pʲ/ (p) pia: 「ピャ」 pią: 「ピョン」 pie: 「ピェ」 pię: 「ピェン」 pi: 「ピ」 pio: 「ピョ」 pió, piu: 「ピュ」
/ɕ/ ś sia: 「シャ」 sią: 「ション」 sie: 「シェ」 się: 「シェン」 si: 「シ」 sio: 「ショ」 sió, siu: 「シュ」
/vʲ/ (w) wia: 「ヴャ」または「ヴィァ」[8] wią: 「ヴョン」 wie: 「ヴィェ」または「ヴィエ」[11] wię: 「ヴィェン」[9] wi: 「ヴィ」 wio: 「ヴョ」 wió, wiu: 「ヴュ」
/ʑ/ ź zia: 「ジャ」 zią: 「ジョン」 zie: 「ジェ」 zię: 「ジェン」 zi: 「ジ」 zio: 「ジョ」 zió, ziu: 「ジュ」

脚注編集

  1. ^ a b c 人名・地名では必ず語中のみに現れる為、実際には「子音 + 表示された音」となる。
  2. ^ 外来語を表記する場合のみ用いられている。
  3. ^ Fiiフィジー〉など限られた外来語にのみ用いられる。
  4. ^ a b c d e f g h ポーランド語の正書法では基本的に用いられない組み合わせ。
  5. ^ a b 通常は gie 「ギェ」、kie 「キェ」の様に口蓋化した状態で現れる。
  6. ^ 外来語を表記する場合のみ用いられている。
  7. ^ 外来語を表記する場合のみ用いられている。
  8. ^ a b 本来は1音節だが、「ィァ」とすると日本語の字面としては不自然というジレンマあり。
  9. ^ a b c 本来は1音節だが、「ィェ」とすると日本語の字面としては不自然というジレンマあり。
  10. ^ a b c d e f g h i 実例に乏しい。
  11. ^ 例: ヴィエリチカ (Wieliczka)。本来は1音節だが、「ィェ」とすると日本語の字面としては不自然というジレンマあり。

参考文献編集

  • 久山宏一、アルカディウシュ・ヤブウォンスキ 『まずはこれだけ ポーランド語』2009年。ISBN 978-4-87731-453-8 
  • 塚本桂子 『よくわかる現代ポーランド語文法』南雲堂フェニックス、2009年、13-14頁。ISBN 978-4-88896-404-3