この文書は、ロシア語由来の外来語について、表記を決めるための参考資料を提示するものです。特定の表記を強制するものではありません。もちろん、編集は大胆に。

この文書を利用する際には、Wikipedia:外来語表記法も参照して下さい。

基本原則

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一般にロシア語の綴りは発音と規則的に対応していて、綴り字とアクセントの位置から発音をほぼ正確に推定することができます。一部に例外もあり注意が必要ですが、それは限られています。日本語への転写の原則も、それに応じて綴り字とアクセントから判断して決定することができます。具体的には#発音・表記の節で説明します。

ただし、“ロシア語の標準的な発音”と“ロシア語の日本語への転写”とは必ずしも一致しないことに注意して下さい。ロシア語の母音はアクセントの有無によって発音が大きく変わることがありますが、普通日本語へ転写する際にはそうした変化は反映させず、基本的にはロシア語表記を文字通りに転写します。例えばМоскваのロシア語での発音は「マスクヴァー」に近いとされていますが、一般に日本語表記の際には文字表記にそのまま従って「モスクワ」と表記されます。

アクセントの位置を明示する場合にはカタカナの長音記号「ー」を用います。これは場合によって用いても用いなくても構いません。ただし、間違った位置に長音記号を入れないようにして下さい。長音記号を用いた場合には、その位置がアクセントの位置だと判断されることがあります。使用の際には間違いがないか十分に確認して下さい。

あらゆる言語の例にもれず、ロシア語にも方言が存在します。また標準的な発音とは異なる発音がされる場合もあります。しかし、基本的にそれらの方言や発音は考慮に入れなくても構いません。ペテルブルクに関連した事項の説明であっても、ペテルブルクでの発音に倣う必要はありません。現在のロシア語で標準的とされる言葉や発音に沿うようにして下さい。

ロシア語を日本語に転写する場合は、カタカナで記述するようにして下さい。必要に応じてロシア語のキリル文字表記を、括弧でくくるなどの方法で追加して下さい。 Москва のように表示させるには、例として {{lang|ru|Москва}} と記述します。必要に応じて、ロシア語の標準的な発音に近いと思われるカタカナ表記を併記して下さい。例えば「モスクワ (ロシア語Москва マスクヴァー)」のようにして下さい。

著名な人名、地名などで日本語での表記が定着しているものについてはそれを尊重して下さい。詳しくは#注意事項を参照して下さい。

ラテン文字への転写には、転写の方法が数多く存在します。中立性を尊重してすべてを書こうとすると煩雑になるので、必ずしもラテン文字への転写を記載する必要はありません。詳しくは#ラテン文字への転写を参照して下さい。

使用文字

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ロシア語の筆記にはキリル文字が使用されます。キリル文字には以下の表のようなものがあります。現在のロシア語の正書法ではこのうち次節で紹介する33種類の文字が使用されます。

発音・表記

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以下に各文字ごとの発音と日本語表記の際の原則について解説します。発音についての説明はあくまでも目安と考えて下さい。ここでは表記の原則の理解のために必要な範囲でのみ解説し、音声学的に正しい見地からの解説は割愛します。詳しくは各文字のリンク先の項目を参照して下さい。

母音

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ロシア語には硬母音と軟母音が5つずつ、全部で10通りの母音が存在します。これらはほぼ日本語のア行とヤ行に相当します。注意が必要なのは「イ」で、日本語の「イ」に近いのは軟母音のИです。一方、硬母音のЫにはこれに近い日本語の母音が存在しません。

硬母音

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硬母音
大文字 小文字 読み方 解説
А а アー 「ア」。 А́нна:アンナ、Анто́н:アントン
О о オー 「オ」。アクセントのない場合は「ア」になる。日本語表記の際は普通そのまま「オ」と記す。 О́льга:オリガОкса́на:オクサナ、Во́лков:ヴォルコフ
У у ウー 「ウ」。 Бу́нин:ブーニンЖуко́вский:ジュコーフスキー
Ы ы ウィー 唇を横に開き、舌を奥に引いて「イ」と発音する。語頭には現れない。日本語表記の際はウ段の文字に「ィ」もしくは「イ」を添えて表記する。ただしтыの場合は「トィ」または「トゥィ」、дыの場合は「ドィ」または「ドゥィ」。それぞれ「ティ」、「ディ」と表記されることもある。 Крыло́в:クルィロフ、Столы́пин:ストルイピン、Чебуты́кин:チェブトィキン
Э э エー 「エ」。 Эрмита́ж:エルミタージュ、Эйзенште́ин:エイゼンシュテイン

軟母音

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軟母音
大文字 小文字 読み方 解説
Е е イェー 「イェ」。アクセントのない場合は弱い「イ」になる。日本語表記の際は普通単に「エ」と記す。 Еле́на:エレーナЕлизаве́та:エリザヴェータ
Ё ё ヨー 「ヨ」。必ずアクセントが置かれる。 Пётр:ピョートルГорбачёв:ゴルバチョフ
И и イー 「イ」。 Ири́на:イリーナНики́та:ニキータ
Ю ю ユー 「ユ」。 Ю́рий:ユーリイ、Людми́ла:リュドミーラ
Я я ヤー 「ヤ」。アクセントのある母音の前では弱い「イ」になる。日本語表記の際はその場合でも普通「ヤ」と記す。 Я́ков:ヤーコフ、Яросла́в:ヤロスラフМяско́вский:ミャスコフスキー

子音

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вやжなど日本語には類似した音がないものも含めて、ロシア語には以下のような子音が存在します。

有声子音

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有声子音には以下のものがあります。語末に表れる場合(軟音記号Ьがつく場合も含む)や後ろに無声子音が続く場合は無声化します。

有声子音
大文字 小文字 読み方 解説
Б б ベー バ行の子音。 Большой:ボリショイ、Бобрин:ボブリン、Сологуб:ソログープ
В в ヴェー Фの有声音。この音を表記するための文字である「ヴ」が用いられるほか、ワ行やバ行が転用されることもある。無声化した場合は「フ」と表記する。 Вера:ヴェーラ、Виктор:ヴィクトル、Москва:モスクワ、Владимир:ウラジーミルПавлов:パブロフЛюбовь:リュボーフィ
Г г ゲー ガ行の子音。 Гоголь:ゴーゴリ、Гагарин:ガガーリン
Д д デー 「ダ」「デ」「ド」の子音。口蓋化した場合(後ろに軟母音もしくは軟音記号Ьがつく場合)、「ヂ」の子音に近い音になる。日本語表記の際には「ジ」を用いることが多い。 Дон:ドンДостоевский:ドストエフスキー、Владивосток:ウラジオストク、Медведев:メドヴェージェフНадежда:ナジェージダ
Ж ж ジェー Шの有声音。「ジャ」「ジ」「ジュ」「ジェ」「ジョ」で表記する。後ろに母音を伴わない場合は「ジ」もしくは「ジュ」。 Жуков:ジューコフ、Брежнев:ブレジネフ
З з ゼー Сの有声音。ザ行で表記する。 Захаров:ザハロフ、Козлов:コズロフ、Кавказ:カフカース
Й й イー・クラートコエ 短い「イ」。「イ」「ィ」「ー」(長音記号)が用いられる。 Дмитрий:ドミートリイ、Толстой:トルストイЧайковский:チャイコフスキー
Л л エル 歯茎側面接近音。ラ行で表記する。 Лев:レフ、Ленин:レーニン、Лазарев:ラザレフ
М м エム マ行の子音。 Мария:マリヤМамонтов:マモントフ
Н н エヌ ナ行の子音。 Нина:ニーナ、Антон:アントン
Р р エル 巻き舌のラ行の子音。 Романов:ロマノフ、Ростропович:ロストロポーヴィチ、Александр:アレクサンドル

無声子音

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無声子音には以下のものがあります。後ろに有声子音(вは除く)が続く場合は有声化します。

無声子音
大文字 小文字 読み方 解説
К к カー カ行の子音。 Кирилл:キリルКалашников:カラシニコフ
П п ペー パ行の子音。 Попов:ポポフПавел:パーヴェル
С с エス サ行(シを除く)の子音。 Сергей:セルゲイСофья:ソフィヤ、Стасов:スターソフ
Т т テー 「タ」「テ」「ト」の子音。口蓋化した場合(後ろに軟母音もしくは軟音記号Ьがつく場合)、「チ」の子音に近い音になる。 Толстой:トルストイ、Тарковский:タルコフスキー、Путин:プーチン、Потёмкин:ポチョムキン
Ф ф エフ 「フ」の子音に近い(正確には無声唇歯摩擦音という)。上の前歯を下唇に当てて発音する。 Фёдор:フョードルСофья:ソフィヤ、Прокофьев:プロコフィエフ
Х х ハー 無声軟口蓋摩擦音。ハ行で表記する。 Хабаровск:ハバロフスクНаходкаナホトカСахалин:サハリン
Ц ц ツェー 「ツ」の子音。 Царь:ツァーリЦветаева:ツヴェターエワ
Ч ч チェー 「チ」の子音に近い。舌をやや奥に引いて発音する。 Чехов:チェーホフЧайковский:チャイコフスキー
Ш ш シャー 「シ」の子音に近い(正確には無声そり舌摩擦音という)。舌をやや奥に引いて発音する。「シャ」「シ」「シュ」「シェ」「ショ」で表記する。後ろに母音を伴わない場合は「シ」もしくは「シュ」。 Шостакович:ショスタコーヴィチ、Пушкин:プーシキンЭйзенште́ин:エイゼンシュテイン
Щ щ シシャー(シチャー) Шよりも舌を口蓋に近づけて長めに「シ」のように発音する。日本語表記の際は一般に「シチ」と表記する。 борщ:ボルシチХрущёв:フルシチョフ、Щедрин:シチェドリン

記号

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母音と子音のほかに以下の二つの記号が用いられます。

記号
大文字 小文字 読み方 解説
Ъ ъ トヴョールドィイ・ズナーク 硬音記号。直前の子音が硬子音(口蓋化しない子音)であることを示す。後ろに母音が続く場合は前の子音と分離して発音する。現在の正書法では専ら前の子音と後ろの母音を分離して発音することを示す目的で使用される。 Разъярённый:ラズヤリョーンヌイ
Ь ь ミャーフキー・ズナーク 軟音記号。直前の子音が軟子音(口蓋化した子音)であることを示す。後ろに母音が続く場合は前の子音と分離して発音する。イ段の文字によって表記する。 Горький:ゴーリキーЯрославль:ヤロスラヴリЛюбовь:リュボーフィ、Васильев:ワシリエフ

注意事項

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人名

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当該の人物や関係する当事者団体などが用いている公式な表記がある場合はそれに従って下さい。また日本語の表記として定着したものがある場合はそれを尊重して下さい。表記に揺れがある場合は、個別に判断することが必要です。

ロシア語圏では慣習として、公的な文面や手紙の宛名書きなどの他、事典類において「<姓>,<名> <父称>」の順で記述されている場合があります。Wikipediaのロシア語版の人物項目でもこうした順序による項目名が採用されています。しかし日本語版Wikipediaでは他のヨーロッパの人物と同様、「名・姓」の順で記載して下さい。

名と姓の間は「・(全角中黒)」で区切って下さい。父称は項目名には含めずに、本文の冒頭に記述するようにして下さい。これは父称を「ミドルネーム」として扱う場合の、一般的なミドルネームの扱いに準じています。ただし姓を記事名に入れられない場合などで、記事名が「名・父称・姓」という構造にならない場合は、その限りではありません。

地名

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日本で発行されている地図で一般的に用いられている表記を尊重して下さい。表記が統一されていない場合や、地名が地図にない場合は、転写の原則に沿って個別に判断することが必要です。

企業・団体名

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当該の企業・団体が日本において使用している公式の日本語表記がある場合はそれに従って下さい。その他の場合は、転写の原則に沿うようにして下さい。

その他

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人名・地名に由来する名称(航空機名、艦船名など)は、それらの人名・地名を考慮し、なるべくその関連性が分かるような表記を選んで下さい。

ラテン文字への転写

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ロシア語のキリル文字表記は、しばしばラテン文字ローマ字)で転写されることがあります。各ページ内では、必要があればラテン文字転写を記載して下さい。ただし、その際にはいくつかの点について注意して下さい。

一般に、ロシア語のキリル文字表記のラテン文字転写にはいくつかの方法があります。主なものでは、ロシア科学アカデミーなど各国の科学アカデミーで制定されているものがあります。しかし、そこでもいくつかの表記方法が認められています。この他では、アメリカ合衆国の図書館でよく用いられる表記、イギリスの図書館でよく用いられる表記、そして国際標準化機構(ISO)によって定められた表記などがあります。学術的な分野ではISO方式が用いられる例が多く見られますが、それ以外では英語方式かドイツ語方式が優勢のようです。

表記バリエーションがどのくらい生じるかといえば、例えばПущинという名前をラテン字で表記しようと思った場合、主なものだけでもPushchinPuschtschinPuszczinPuścinPuscsinPuščinPuschinなどが候補として考えられます。こうした転写バリエーションを全てページ内で網羅することは困難ですし、たとえその偉業を達成したとしてもそれが必ずしも閲覧者の利益になるとは限りません。従って、ラテン文字転写が必要であると考える場合には、こうした候補の中からいくつか(たいてい1つか2つ)の表記方法を選ぶことになります。

従って、ページに記載する際には「ラテン文字転写:xxxx」という方式は取ることはできません。飽くまでそれは「ラテン文字転写の例:xxxx」なのです。

例外もあります。国名や都市名であれば、その国や都市で公式に定められている表記があればそれは唯一無二の「ラテン文字転写」と扱うことができます。人物であればパスポートに書かれた表記や本人が公式に用いているラテン文字表記が記載できる場合は「ラテン文字転写:xxxx」と書くことができます。また、それに準じて公的・公式に用いられる表記も同様です(例えば、スポーツ選手の場合その所属する団体・協会・機構などに登録してあるラテン文字表記名)。

それから、ラテン文字転写を記載する際にはこれが「日本語版」ウィキペディアであるという点を忘れないで下さい。本当にそのラテン文字転写は日本語版利用者にとって必要でしょうか? そのラテン文字表記はキリル文字表記のみの場合と比べて日本語版利用者に有益な情報をより多くもたらすでしょうか?

こういった点に留意し、各ページにラテン文字表記を記載するようにして下さい。

参考文献

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  • 内閣告示『外来語の表記』

関連項目

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