国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案
国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案(こっかひみつにかかるスパイこういとうのぼうしにかんするほうりつあん)は、1985年の第102通常国会で自民党所属議員により衆議院に議員立法として提出されたが、第103臨時国会で審議未了廃案となった法律案。通称「スパイ防止法案」。
法案の概要
全14条及び附則により構成される。外交・防衛上の国家機密事項に対する公務員の守秘義務を定め、これを第三者に漏洩する行為の防止を目的とする。また、禁止ないし罰則の対象とされる行為は既遂行為だけでなく未遂行為や機密事項の探知・収集といった予備行為や過失(機密事項に関する書類等の紛失など)による漏洩も含まれる。最高刑は死刑または無期懲役(第4条)。
憲法が保障する言論の自由、報道の自由に対する配慮から、第14条において「この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない」と定められているが、あくまでも政府の努力義務とされており、法律の適用により、一般国民の人権が侵害された際の救済措置がない点が特に批判の対象とされた。
なお、本法の名称について、マスコミなどの反対勢力は「国家機密法」などと表記していた(同様の例は通信傍受法などにも見られる)。これについてはスパイ活動の防止という本質を隠したものだという批判がある。
法案審議とその後の経緯
スパイを防ぐ法制の必要性は、自民党内において1980年代前半から活発に議論されるようになり、当時の内閣の元でその気運が高まった。しかし本法案が一般国民の権利制限に直結する法律であることや報道の自由が侵害されることに対する懸念から、大多数のマスメディアが反対に回った[1][2]。そのため、政府は内閣法案として提出することを断念したものの、通常国会の閉会を間近に控えた1985年6月6日に伊藤宗一郎ら10名が衆議院に議員立法として法案を提出した。
これに対し、当時の野党(日本社会党・公明党・民社党・日本共産党・社会民主連合他)は断固反対を主張。法案は継続審議となるが、10月に開会した第103臨時国会でも野党は徹底して審議拒否を貫き、12月21日の閉会に伴い廃案となった。
その後2001年に自衛隊法が改正されて従来の第59条における「秘密を守る義務」規定に加え第96条の2に「防衛秘密」規定が新設され、廃案となったスパイ防止法案の一部と同趣旨の規定が盛り込まれた。2007年2月には航空自衛隊の一佐が読売新聞記者に機密情報を漏洩し、この規定に違反したとして警務隊が事情聴取や家宅捜索を行ったと報じられている[3]。
近年では、2008年に結成された改革クラブ(現・新党改革)が公約としてスパイ防止法の成立を掲げていた。また2011年10月、民主党政権の野田内閣が「秘密保全法制」を提案。
現状
現在、日本では本法のようなスパイ活動そのものを取り締まる法律が存在しないため、ボガチョンコフ事件のようなスパイ活動事件を取り締まることができない実情がある。制定賛成派はこの現状を「スパイ天国」と揶揄することがある(この言葉自体は時の首相・中曽根康弘も用いている)。
なおスパイの黒幕は、ほとんどの場合大使館の書記官や駐在武官、つまり外交特権保持者なので逮捕はできず、可能なのはペルソナ・ノン・グラータ通告で“退去・帰国お願い”をすることだけである。さらに対象はロシア・中国などの“仮想敵国”のみで、中央情報局やイギリス情報局秘密情報部など友好国の活動は一切咎められない。
スパイ対策に関する法律
政府情報の守秘義務に関する法律
- 国家公務員法(昭和22年10月21日法律第120号)
- 地方公務員法(昭和25年12月13日法律第261号)
- 外務公務員法(昭和27年3月31日法律第41号)
- 自衛隊法(昭和29年法律第165号)
- 日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(昭和29年法律第166号)
現在の日本の法律では、国家公務員法、地方公務員法、外務公務員法、自衛隊法の守秘義務(「秘密を守る義務」)規定で、それぞれ一般職国家公務員、地方公務員、外交官、自衛隊員を対象とする情報漏洩防止の趣旨が定められている。また、上述のとおり、自衛隊法第96条の2において「防衛秘密」に関する規定が定められ、防衛大臣が「防衛秘密」を指定するものとしている。さらに同法第122条においては、防衛秘密を取り扱うことを業務とする者(業務としなくなった後も同様)を対象として、漏洩の既遂、未遂及び過失犯について、罰則を設けている。この漏洩罪は、共謀、教唆又は煽動についても罰せられ、さらに、刑法(明治40年法律第45号)第3条の例により、日本国民の国外犯も罰せられる。
だが、これらの法律は日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法を除いて、機密情報を漏洩する公務員の存在を前提としたものであるため、公務員が機密情報を漏洩しない形でのスパイ活動を規制したものではない。
それ以外の法律
それ以外のスパイ活動に関連する法律には以下のものがある。
- 窃盗罪(他者の書類や記録媒体といった物の持ち出しおよびコピーの処罰)
- 住居侵入罪(断りなく他者の住居施設への侵入を処罰)
- 電気通信事業法(有線通信の盗聴を処罰)
- 有線電気通信法(有線通信の盗聴を処罰)
- 電波法(違法な周波数や違法な電波出力の盗聴器使用、無線局免許を受けていない無線機器の使用を処罰)
- 不正アクセス行為の禁止等に関する法律(クラッキングを処罰)
- 外国為替及び外国貿易法(許可されない安全保障に関わる物品や情報の国際取引のを処罰)
- 不正競争防止法(知的財産権関連情報の無断コピーや外部流出禁止)
- 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法、軍事情報包括保護協定、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(アメリカまたは日本の安全を害すべき用途に供する目的を持つまたは不当な方法で在日米軍関連の情報を収集することの禁止)
文献
賛成・反対の双方の立場から書かれているものを挙げる。
賛成の立場
- 『スパイ防止法案―その背景と目的』(自由民主党広報委員会出版局、1982年)
- 河西徹夫・日高明『間接侵略の危機―日本だけにないスパイ防止法』(日本工業新聞社、1982年)
- スパイ防止法制定促進国民会議『機密保護と現代―スパイ防止法はなぜ必要か』(啓正社、1983年)、『誰にもわかるスパイ防止法―正しく学ぶ三つの章』(世界日報社、1987年)
反対の立場
- 『国家秘密法〈スパイ防止法〉―いま資料の時代 国家秘密法案阻止のマニュアル集』(晩稲社、1985年)
- 『暗黒時代を再現する自民党の「スパイ防止法案」に反対しよう』(自由人権協会、1985年)
- 『エッ! わたしがスパイ? ―あなたも「スパイ防止法」に狙われる』(東京弁護士会、1985年)
- 『あなたの目、耳、口ふさぐ国家機密法』(日本共産党中央委員会出版局、1985年)
- 荒井荒雄『悪魔(サタン)があやつる“スパイ防止法”と霊感商法』(青村出版社、1985年)
脚注
- ^ 推進の立場を表明した主たるマスメディアには世界日報がある。
- ^ 戦前・戦中は政府により恣意的に「機密」が指定され、報道機関は真実を報道する事が出来なかった。日本における検閲も参照
- ^ 「防衛省、読売新聞に機密漏洩の疑いで一佐宅を捜索」(ジェイ・キャスト)
関連項目
- 外患罪
- 情報窃盗
- 国際勝共連合
- 暗号名 黒猫を追え! - スパイ防止法の必要性を訴える立場から製作された映画
外部リンク
- 賛成の立場
- 反対の立場
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