ガル
ガル(英: gal、記号:Gal)は、CGS単位系における加速度の単位である。gal という名称はガリレオ・ガリレイ (Galileo Galilei)にちなむ[注 1]。
ガル 英 gal | |
---|---|
![]() 地震計 | |
記号 | Gal |
系 | 非SI単位(CGS単位系) |
種類 | 組立単位 |
量 | 加速度 |
SI | 0.01 m/s2 |
組立 | cm/s2 |
定義 | 0.01 m/s2 (計量単位令による定義) |
派生単位 | ミリガル(mGal)= 0.001 Gal |
語源 | ガリレオ・ガリレイ |
国際単位系においては認められていない非SI単位である。ただし、日本の計量法は地震動などの計量に限定してその使用を認めている[1]。
- 1 Gal = 0.01 m/s2 = 1 cm/s2 である。
定義
編集国際単位系 (SI)における加速度のSI単位はメートル毎秒毎秒 (m/s2)である。一方、ガル (Gal)は計量法などにおいて「メートル毎秒毎秒の百分の一」と定義されている[2]。すなわち、ガルはCGS単位の一つであり、非SI単位である。
- 1 Gal = m/s2 = 1 cm/s2
である。
単位記号
編集ガルの単位記号は、立体の「Gal」である。ガリレオ・ガリレイ (Galileo Galilei)の人名にちなむので、最初の文字は大文字である。ガルの1/1000 であるミリガルの単位記号は、「mGal」である[3]。
使用
編集加速度のSI単位は、前述のようにメートル毎秒毎秒 (m/s2)であるが、地震に関連する分野においては、CGS単位系に属するガルがよく用いられる。このため、計量法はその第5条第2項において特殊の計量に用いる計量単位として、「重力加速度又は地震に係る振動加速度の計量」に限定してガル(Gal)および1000分の1のミリガル(mGal)の使用を認めており、キロガルやマイクロガルの使用は計量法上いかなる場合にも認められない。
地球表面における重力加速度、すなわち地球の重力の目安となる標準重力は、9.80665 m/s2 = 980.665 Galと定められている。このことは、たとえば981ガルを越える加速度の振動がもしも鉛直方向に加わったならば、床にしっかり固定されていない物体はその質量が如何に大きくても床から離れて宙に浮いてしまうことを意味する。
地上においては、緯度や標高による重力の差異が数ガル程度、地下構造の違いに起因する重力異常による差異が数ミリガル程度ある[4]。そしてそれより小さなオーダーで変動がみられ、地球潮汐による変動が数百マイクロガル、地殻変動、地下水やマグマの移動などによって検出される変動が数十マイクロガルから数マイクロガル以下の値をとる[4]。
自然現象としては地震による表面最大加速度(PGA)に大きな値が生じうる。1995年の兵庫県南部地震では891ガルを、2011年の東北地方太平洋沖地震で震度7を観測した宮城県栗原市では2,934ガルを、2016年の熊本地震で震度7を観測した熊本県益城町では1,580ガルを、2024年の能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町では2,828ガルを、それぞれ記録した[5]。
地震による観測史上最大の値は、岩手・宮城内陸地震(2008年6月14日)の際に岩手県一関市厳美町祭畤(まつるべ)で観測された4,022ガルであり、これは「地震時に記録された最大加速度」としてギネス世界記録に認定されている[6][7]。
発生日 | 地震の名称 | 規模 | 観測地点 | 計測震度 | 最大加速度 (3成分合成) [注 2] |
---|---|---|---|---|---|
1993年1月15日 | 釧路沖地震 | M7.5 | 北海道釧路市 | 1040.6ガル [8] | |
1994年12月28日 | 三陸はるか沖地震 | M7.6 | 青森県八戸市 | 673.5ガル [9] | |
1995年1月17日 | 兵庫県南部地震 | M7.3 | 兵庫県神戸市中央区 | 6.4 [10] | 891.0ガル [11] |
2003年5月26日 | 三陸南地震 | M7.1 | 岩手県大船渡市 | 5.8 | 1106.8ガル [12] |
宮城県石巻市 | 5.5 | 971.7ガル [12] | |||
2004年10月23日 | 新潟県中越地震 (本震) | M6.8 | 新潟県川口町 | 6.5 | 1722.0ガル [10][13] |
新潟県中越地震 (最大余震) | M6.5 | 6.2 | 2515.4ガル [10][注 3] | ||
2008年6月14日 | 岩手・宮城内陸地震 | M7.2 | 岩手県一関市 | 6.3 [14] | 4022ガル [15][注 4] |
2011年3月11日 | 東北地方太平洋沖地震 | M9.0 | 宮城県栗原市 | 6.6 | 2933.7ガル [23] |
茨城県鉾田市 | 6.4 [24] | 1761.5ガル [23] | |||
2011年3月12日 | 長野県北部地震 | M6.7 | 長野県栄村 | 6.4 | 1250.9ガル [25] |
2011年4月11日 | 福島県浜通り地震 | M7.0 | 福島県中島村 | 5.8 | 2071.7ガル [26] |
2016年4月14日 | 熊本地震 (前震) | M6.5 | 熊本県益城町 | 6.4 | 1580ガル [27][28][29] |
2016年4月16日 | 熊本地震 (本震) | M7.3 | 6.5 | 1362ガル [30] | |
熊本県大津町 | 6.1 | 1791.3ガル [31] | |||
2016年10月21日 | 鳥取県中部地震 | M6.6 | 鳥取県倉吉市 | 5.8 | 1494ガル [32] |
2018年6月18日 | 大阪府北部地震 | M6.1 | 大阪府枚方市 | 5.6 | 900.4ガル [33] |
2018年9月6日 | 北海道胆振東部地震 | M6.7 | 北海道厚真町 | 6.5 | 967.3ガル [34] |
北海道安平町 | 6.7 | 1505ガル [35][36] | |||
2024年1月1日 | 能登半島地震 | M7.6 | 石川県志賀町 | 6.6 | 2825.8ガル [37] |
符号位置
編集記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
㏿ | U+33FF |
- |
㏿ ㏿ |
ガル |
Unicodeには、ガルを表す上記の文字が収録されている。これはCJK互換用文字であり、既存の文字コードに対する後方互換性のために収録されているものであるので、使用は推奨されない[38][39]。
脚注
編集注釈
編集- ^ 単位名をガリレオ (galileo) としている地域もある。
- ^ 南北・東西・上下の3成分合成
- ^ 4年後の2008年に岩手・宮城内陸地震(国内最大の4022ガルの最大加速度を記録)が発生するまでは、当時最大の加速度であった。
- ^ 地震時に記録された最大加速度としてギネス世界記録に認定された[16]。当時、それまでに記録された加速度の最大値は、新潟県中越地震(2004年10月23日)の最大余震(M6.5)において新潟県川口町(本震では震度7を観測したが最大余震では計測震度6.2の6強であった)で気象庁が観測した2515.4ガルであったが[10][17]、岩手・宮城内陸地震における最大加速度はその1.5倍以上であり[18][19][20][16]、重力加速度(約980ガル)の4倍を超えた[21][22]。
出典
編集- ^ 計量単位令 別表第6 項番10
- ^ “計量単位令”. elaws.e-gov.go.jp. 2022年3月25日閲覧。
- ^ “計量単位規則”. elaws.e-gov.go.jp. 2022年3月25日閲覧。
- ^ a b c 新谷昌人「重力測定と小型絶対重力計の開発」『Webテキスト測地学 新装訂版』2015年 。2024年9月15日閲覧。
- ^ “令和6年能登半島地震の評価” (2024年1月2日). 2024年1月7日閲覧。
- ^ “Largest Peak Ground Acceleration measured in an earthquake” (英語). Guinness World Records. 2022年3月25日閲覧。
- ^ “地震時の観測最大加速度のギネス認定”. 独立行政法人防災科学技術研究所 (2011年1月11日). 2011年12月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月25日閲覧。
- ^ “強震波形 釧路沖地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年12月9日閲覧。
- ^ “強震波形 三陸はるか沖地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年12月9日閲覧。
- ^ a b c d 災害時地震速報 平成16年新潟県中越地震 (PDF) (P.19〜23)
- ^ “強震波形 兵庫県南部地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年12月9日閲覧。
- ^ a b “強震波形 宮城県沖の地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年12月9日閲覧。
- ^ “強震波形 新潟県中越地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年12月9日閲覧。
- ^ “岩手県一関市厳美町祭畤”. www.ejec.ej-hds.co.jp. 2024年12月9日閲覧。
- ^ 平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震において記録されたきわめて大きな強震動について (PDF)
- ^ a b 地震時の観測最大加速度のギネス認定 (PDF) 独立行政法人防災科学技術研究所 (平成23年1月11日)
- ^ 平成16年新潟県中越地震で観測された震度7の強震波形等について (PDF)
- ^ “岩手・宮城地震の加速度 国内最大4022ガル”. www.asahi.com. 朝日新聞 (2008年6月16日). 2024年12月9日閲覧。
- ^ “ギネスが岩手・宮城内陸地震の最大加速度を「世界記録」と認定 防災科学技術研究所が発表”. www.tsukuba-sci.com. 2024年12月9日閲覧。
- ^ “最大加速度でギネス認定 08年の岩手・宮城内陸地震”. 日本経済新聞 (2011年1月12日). 2024年12月9日閲覧。
- ^ 岩手宮城内陸地震 - 失敗知識データベース
- ^ 岩手・宮城内陸地震が道路ネットワークに及ぼした影響について (PDF)
- ^ a b 強震観測記録に基づく地震動特性と建築物の挙動 (PDF)
- ^ 津野, 靖士; 地元, 孝輔; 山中, 浩明 (2011). “東北地方太平洋沖地震の余震観測記録と微動観測記録の解析から推定された茨城県中部に於けるs波速度構造 —東茨城台地に注目して—”. 物理探査 64 (6): 401–412. doi:10.3124/segj.64.401 .
- ^ “強震波形 長野県北部の地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年12月25日閲覧。
- ^ “強震波形 福島県浜通りの地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2025年2月25日閲覧。
- ^ 防災科学技術研究所の観測網による。“防災科学技術研究所 2016年4月14日熊本県熊本地方の地震による強震動 最大加速度上位10観測点” (PDF). 防災科学技術研究所. 2016年4月16日閲覧。
- ^ “2016年04月14日 平成28年(2016年)熊本地震による強震動”. 防災科学技術研究所 (2016年4月15日). 2016年4月16日閲覧。
- ^ 日経クロステック(xTECH) (2016年4月15日). “最大1580ガル 短周期だった地震動”. 2024年12月9日閲覧。
- ^ 防災科学技術研究所の観測網による。“防災科学技術研究所 2016年4月16日熊本県熊本地方の地震による強震動 最大加速度上位10観測点” (PDF). 防災科学技術研究所. 2016年12月16日閲覧。
- ^ 平成28年熊本地震の評価 (PDF) 地震調査委員会 (平成28年5月13日)
- ^ 2016年10月21日鳥取県中部の地震による強震動 (PDF)
- ^ “強震観測データ 大阪府北部の地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年12月9日閲覧。
- ^ “強震観測データ 北海道胆振東部地震”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2024年12月9日閲覧。
- ^ 平成30年北海道胆振東部地震の評価 (PDF) 地震調査委員会 (平成30年9月6日)
- ^ 防災科学技術研究所の観測網による。“防災科学技術研究所 平成30年北海道胆振東部地震による強震動 観測点最大加速度上位10件”. 防災科学技術研究所 (2020年7月9日). 2020年9月8日閲覧。
- ^ “震度7観測の石川県志賀町 揺れは東日本大震災に匹敵 気象庁”. NHK (2024年1月3日). 2024年12月9日閲覧。
- ^ “CJK Compatibility” (2015年). 2016年2月21日閲覧。
- ^ “The Unicode Standard, Version 8.0.0”. Mountain View, CA: The Unicode Consortium (2015年6月17日). 2016年2月21日閲覧。
参考文献
編集- 『Webテキスト測地学 新装訂版』日本測地学会、2015年 。