クラウゼン関数(クラウゼンかんすう、: Clausen function)は、トーマス・クラウゼンによって導入された超越的な単一変数関数である。定積分三角級数英語版などによっても表現される。多重対数関数逆正接積分英語版ポリガンマ関数リーマンゼータ関数ディリクレベータ関数などと深い関わりがある。

クラウゼン関数Cl2(θ)のグラフ

オーダー2のクラウゼン関数:単にクラウゼン関数とも呼ばれることもある。次の式で与えられる。

範囲では式中の正弦関数の値を取るから、絶対値は無視しても良い。クラウゼン関数はまた、フーリエ級数を用いて次のようにも表せる。

クラウゼン関数は、関数の一つとして現代の様々な分野で研究されている。特に、対数積分多重対数積分の評価に用いられる。また超幾何関数の和や中心二項係数逆数に関連する和、ポリガンマ関数の和、ディリクレのL関数にも応用される。

基本的な性質

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 において であるから、(オーダー2の)クラウゼン関数は、 整数倍で0を取る。

 

また  最大値を取る。

 

 最小値をとる。

 

次の式の成立は、関数の定義より直ちに示される。

 
 

詳しくは Lu & Perez (1992)を見よ。

一般的な定義

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一般クラウゼン関数
グレッシャー=クラウゼン関数

より一般に、クラウゼン関数は2つの一般化がある。

 
 

ここで、定数zは実部が1より大きい複素数である。この定義は解析接続によって複素平面上に拡張できる。

z非負整数に置き換えて、フーリエ級数を用いて、一般クラウゼン関数(standard Clausen functions)は次のように定義される。

 
 
 
 

SLのクラウゼン関数は、グレッシャー=クラウゼン関数 Glaisher–Clausen functionsジェームズ・ウィットブレッドリー・グレーシャーの名を冠する)と言われる場合もある。

ベルヌーイ多項式との関係

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SL-type Clausen function の多項式でベルヌーイ多項式と近い関係を持つ。これは、 ベルヌーイ多項式のフーリエ級数による表示より明らかである。

 
 

 を代入して、項を並べ替えると次のような表示が得られる。

 
 

ここでベルヌーイ多項式 ベルヌーイ数 を用いて次のように定義される。

 

以上の式から分かるSLタイプのクラウゼン関数の評価は次の通り。

 
 
 
 

倍角の公式

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 において、クラウゼン関数の倍角の公式は積分の結果から直接証明できる。Lu & Perez (1992)では証明なしに使われている。

 

カタランの定数 を用いれば、次のような関係も成り立つ。

 
 

より高次のクラウゼン関数の倍角公式も、上記の式で変数 を他のダミーの変数 に置き換えて、 の範囲で積分をして求めることができる。

 
 
 
 

より一般には について

 

一般の倍角公式を用いて、オーダー2の場合のカタランの定数に関わる式も一般化できる。  において、

 

 ディリクレベータ関数

倍角の公式の証明

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定義より、

 

正弦関数の倍角の公式 を用いて、

 

 のように、変数を置換して、

 

最後に と置換して余弦関数加法定理 を用いれば、

 

となる。

 

であるから、

 

派生

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クラウゼン関数のフーリエ級数展開表示の微分によって次の式の成立が分かる。

 
 
 
 

微分積分学の基本定理を使えば、次のようにも表現できる。

 

逆正接積分との関係

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逆正接積分英語版は、 において、次のように定義される。

 

クラウゼン関数との関係は次のようになる。

 

逆正接積分との関係の証明

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逆正接積分英語版の定義より、

 
 
 

 を置換して、

 

 を置換して、

 

倍角公式の証明のように と置換すれば、

 

したがって、

 

バーンズのG関数との関係

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実数 について、オーダー2のクラウゼン関数は、バーンズのG関数ガンマ関数で書くことができる。

 

または、

 

詳しくはAdamchik (2003)を見よ。

多重対数関数との関係

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クラウゼン関数は単位円上の多重対数関数の実部と虚部を表す。

 
 

これは、多重対数関数の級数による定義より簡単に示される。

 

オイラーの定理より、

 

さらにド・モアブルの定理より、

 

したがって、

 
 

ポリガンマ関数との関係

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クラウゼン関数は正弦関数とポリガンマ関数線型結合によってあらわすことができる。

 

この系に、フルヴィッツのゼータ関数との関係式もある。

 
証明

 ,  を満たす正整数として、偶数のクラウゼン関数は次のように書ける。

 

この式を、m番目の式が と合同になるようにp個の部分の和に分ける。

 

二重和を用いて次のように書ける。

 

正弦関数の加法定理 の応用

 
 
 

を適応して、

 

内側の総和を非交代和に変形するために、上部で式をp個の部分に分けたようにして、式を2つの部分に分ける。

 

 において、ポリガンマ関数は次のように展開される。

 

故に、内側の総和は次のように変形される。

 

これを元の二重和に代入して、元の式を得る。

 

一般化対数正弦積分との関係

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一般化された対数正弦積分は次のように定義される。

 

クラウゼン関数は一般化対数正弦積分の一種である。つまり、

 

クンマーの関係

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エルンスト・クンマーとロジャースは次の式を発見した。 について、

 

ロバチェフスキー関数との関係

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ロバチェフスキー関数Λ(またはЛ)は本質的には、変数を変えただけで、クラウゼン関数と同義である。

 

ただし、ロバチェフスキー関数という名はあまり正確でない。というのも、ロバチェフスキー双曲体積の公式において、わずかに異なる関数を用いている。

 

ディリクレのL関数との関係

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有理数値 において、  巡回群における元の周期軌道として捉えられている。故にクラウゼン関数 フルヴィッツのゼータ函数に関連する和として表現できる[要出典]。これは、ディリクレのL関数の特殊な値の計算を簡易にする。

加速度

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クラウゼン関数の加速度は次のように与えられる。 において、

 

ここで、  リーマンゼータ関数。より早く収束する形は次のように表現される。

 

収束は、nが大きくとき が急速に0に近づくことより説明できる。両方の形は、有理ゼータ級数英語版を求める際の再足し上げの技法で得られる(Borwein et al. 2000)。

特別な値

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バーンズのG関数をG、カタランの定数をK、ギーゼキング定数Vとする。クラウゼン関数の特殊な値には、次のようなものがある。

 
 
 
 
 
 
 
 

一般にはバーンズのG関数を用いて、

 

オイラーの相反公式英語版を使えば、

 

一般の特別な値

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高次のクラウゼン関数の特殊な値には次のようなものがある。

 
 
 
 
 

ここで ディリクレベータ関数 ディリクレのイータ関数英語版 リーマンゼータ関数

積分

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クラウゼン関数を直接積分した値は簡単に証明できる。

 
 
 
 

フーリエ解析の手法を用いれば、 の範囲で、クラウゼン関数 の自乗の積分は次のように書ける[1]

 
 
 

 多重ゼータ値

他の積分評価

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多くの三角関数や、対数三角関数の積分は、クラウゼン関数、カタランの定数  ゼータ関数の特殊値 を用いて表すことができる。

証明には、基礎的なものよりほんの少し難しい三角関数の積分と、クラウゼン関数のフーリエ級数表示の積分が必要とされる。

 
 
 
 
 
 
 

出典

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  1. ^ István, Mező (2020). “Log-sine integrals and alternating Euler sums”. Acta Mathematica Hungarica (160): 45–57. doi:10.1007/s10474-019-00975-w.