ダイオウイトマキツムバイ

ダイオウイトマキツムバイ(大王糸巻き紡錘蛽)、学名 Manaria chinoi [2][3]は、イトマキシワバイ科に分類される海産の巻貝の一種。殻長(殻高)80mm前後になり、イトマキシワバイ属 Manaria としては大型。は細長い紡錘形で、全体に白色で模様などはない。フィリピンのやや深い海に産するが、生きた貝が未だ採取されない珍品とされる[4]

ダイオウイトマキツムバイ
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
階級なし : 新生腹足類 Caenogastropoda
階級なし : 高腹足類 Hypsogastropoda
階級なし : 新腹足類 Neogastropoda
上科 : エゾバイ上科 Buccinoidea
: イトマキシワバイ科 Eosiphonidae[1]
: イトマキシワバイ属 Manaria
: ダイオウイトマキツムバイ
chinoi
学名
Manaria chinoi Fraussen, 2005[2]
和名
ダイオウイトマキツムバイ

種小名の chinoi日本貝類学会の知野光雄(ちの みつお)への献名[4]で、本種の新種記載に用いられた標本の多くは、知野がフィリピンの採取業者から購入して記載者のFraussenに託したものである[2]

分布 編集

ミンダナオ島ダバオ)沖、バラット島沖、アリグアイ島沖。

形態 編集

大きさと形

殻高(殻長)は86mmほどになり、スレンダーな紡錘形をしている。螺塔は高く、後成層(後殻)は約10層ある。縫合が狭く溝状になるのが本種の目立つ特徴の一つである。

原殻(プロトコンク)

全ての標本で浸食されているため詳細は観察されていない。また後成層との明瞭な境界も確認されていない。

彫刻

細い螺肋が全体にあり、螺塔上部には縦肋もある。後成層のうち最初の4層は殻表面が浸食されているため螺肋は縦肋間にのみ認められる。5層目には細くシャープな9本の螺肋があり、ここでは螺肋と螺肋間はほぼ同じ幅で、螺肋は縦肋上でも消えずに縦肋を乗り越える。螺肋は成長にとともに数が増え、次体層では12本を数える。体層には41本の螺肋があり、体層上部では肋間は狭いが、殻底部では螺肋が細くなるとともに肋間は深く広くなり、時に螺肋間に二次的な螺条が現れることもある。縦肋は、3層目に10本、6層目には12本あるが、7層目付近からは弱くなり、成貝の体層ではほとんど消える[2]

殻質と色彩

殻は厚く、白色で模様はない[2]

殻口

縦長で、外唇は厚く、外唇内面には約7本の内肋がある。軸唇は弱く曲がり、中央やや上寄りに不定形な結節がある[2]

生態 編集

水深100-160m[2][5]、あるいは300m[4]から死貝が得られているが、詳しい生態は知られていない。

分類 編集

原記載
  • 原記載名: Manaria chinoi Fraussen, 2005
  • 原記載文献:Novapex vol.6, no.3, pp.65-67240, pl.60, figs.1-6.[2]
  • タイプ産地:
「Philippines, Mindanao, off Davao Island, 160 m deep, trawled by local fisherman.」(フィリピンミンダナオ島ダバオ沖、水深160 m、地元漁師のトロール網
  • タイプ標本[2][5]: 
    • ホロタイプ 殻高 81.8mm、殻幅 25.5mm タイプ産地産、パリ自然史博物館所蔵(登録番号:MNHN IM-2000-5802)
    • パラタイプ(1)80.0 x 26.9 mm タイプ産地産、知野光雄コレクション
    • パラタイプ(2)80.6 x 27.3 mm 同前、K. Fraussenコレクション nr.4120
    • パラタイプ(3)78.1 x 28.5 mm 同前、国立科学博物館所蔵(登録番号:NSMT-Mo 73740)
    • パラタイプ(4)86.0 x 29.0 mm アリグアイ島沖 水深100-150m(トロール網)、K. Fraussenコレクション nr.4483
    • パラタイプ(5)82.8 x 27.6 mm 同前、K. Fraussenコレクション nr.4542
    • パラタイプ(6)79.2 x 26.2 mm 同前、知野光雄コレクション。
科の分類

原記載時にはエゾバイ科に分類されていたが、2021年に新科イトマキシワバイ科 Eosiphonidae が設立され、本種が分類されるイトマキシワバイ属 Manaria や近縁の属はこの科に分類されるようになった[1]

類似種

ダイオウイトマキツムバイは、縫合が溝状になること、成貝の体層では縦肋が消失すること、軸唇に結節ができること、サイズが大きいことなどで大部分のイトマキシワバイ属 Manaria の種から区別される。インド洋北部から報告されたこの属のタイプ種 Manaria thurstoni は縫合が弱く溝状になることや軸唇に結節があることで、最も本種に近似する種だが、螺塔の幅が広いこと、螺肋が太いこと、サイズが小さいことなどで区別される[2][5]

出典 編集

  1. ^ a b Kantor, Y.I.; Fedosov, A.E.; Kosyan, A.R.; Puillandre, N.; Sorokin, P.A.; Kano, Y.; Clark, R.; Bouchet, P. (2021-07-17). “Molecular phylogeny and revised classification of the Buccinoidea (Neogastropoda)”. Zoological Journal of the Linnean Society: 1-69. doi:10.1093/zoolinnean/zlab031. 
  2. ^ a b c d e f g h i j Fraussen, Koen (2005). “A new Manaria Smith, 1906 (Gastropoda : Buccinidae) from the Philippines”. Novapex 6 (3): 65-67. 
  3. ^ MolluscaBase eds. (2020). MolluscaBase. Manaria chinoi Fraussen, 2005. Accessed through: World Register of Marine Species at: http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=396277 on 2020-07-05
  4. ^ a b c !注目 2006年新種 ダイオウイトマキツムバイ ¥8000(税込)”. 鳥羽水族館公式オンラインショップ (2020年). 2020年7月5日閲覧。
  5. ^ a b c Fraussen, Koen & Stahlschmidt, Peter (2016). “The extensive Indo-Pacific deep-water radiation of Manaria E. A. Smith, 1906 (Gastropoda: Buccinidae) and related genera, with descriptions of 21 new species”. Mémoires du Muséum national d'Histoire naturelle (1993) (208): 363-456.