ツバクロザメ (燕鮫) Carcharhinus oxyrhynchusメジロザメ科に属するサメの一種。南米北東部の浅い海域に分布し、濁った水を好むが淡水は嫌う。全長1.5mで、尖った長く平たい、小さい眼、大きな胸鰭が特徴。

ツバクロザメ
保全状況評価[1]
CRITICALLY ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
: 軟骨魚綱 Chondrichthyes
: メジロザメ目 Carcharhiniformes
: メジロザメ科 Carcharhinidae
: メジロザメ属 Carcharhinus
: ツバクロザメ C. oxyrhynchus
学名
Carcharhinus oxyrhynchus (Müller & Henle1839)
シノニム

Isogomphodon oxyrhynchus Müller & Henle, 1839

英名
Daggernose shark
分布

餌は小魚。胎生で雨季に繁殖し、産仔数2-8。人には無害。近年急激に減少しており、IUCNは保全状況を絶滅寸前としている。

分類

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記載論文内のイラスト

1839年、ドイツの生物学者ヨハネス・ペーター・ミュラーヤーコプ・ヘンレの著作Systematische Beschreibung der Plagiostomenの中でCarcharias oxyrhynchusとして記載された。種小名oxyrhynchus古代ギリシャ語oxys(尖った)、rhynchos(吻)に由来する。1862年、米国の魚類学者Theodore Gillは古代ギリシャ語isos(等しい)、gomphos(釘)、odous(歯)に由来するIsogomphodon属を創設した。だが、1950年にStewart Springerによって復活されるまで、これはCarcharhinusメジロザメ属)のシノニムとされていた[2]。 1950年より長らくツバクロザメ属Isogomphodonとされてきたが、独自の形態とされてきたものは属を分ける有効性がない事、ミトコンドリアマーカー、核DNAマーカーの分析より記載当初のメジロザメ属Carcharhinusとするのが妥当という研究結果より、現在はメジロザメ属とする分類が受け入れられている[3]

分布

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南米北東部で見られ、トリニダード島ガイアナスリナムフランス領ギアナブラジル北部に分布する[2]。公式には確認されていないが、バイーア州でも漁業者によって報告されている[1]

沿岸の深度4-40mに住み、濁った水を好む。雌は雄より深い場所で見られる[4]。分布域は熱帯大陸棚で、マングローブが広がりアマゾン川のような多くの川が流れ込む。塩分濃度は20-34‰、潮差は7mに達する[1]。あまりにも低い塩分濃度には耐えられず、乾季(6-11月)は沿岸にいるが雨季(12-3月)は沖合に退避する[5]。長距離の回遊は知られていない[1]

形態

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頭部腹面

吻は非常に長くて平たく先端が尖り、上からは三角形に見える。眼は丸くて小さく、瞬膜がある。鼻孔は小さく、顕著な前鼻弁はない。口角には短く深い溝がある。上顎歯列49–60、下顎歯列49–56。歯には細く直立した尖頭がある。上顎歯は下顎歯と比べ、鋸歯があり幅広くて平たい[2]

体は頑丈で、大きな櫂状の胸鰭は第五鰓裂直下に位置する。第一背鰭は胸鰭基底の半分ほどの場所から始まる。第二背鰭は臀鰭の少し前方に位置し、第一背鰭の半分程度の大きさである。臀鰭は第二背鰭より小さく、後縁に深い欠刻がある。尾鰭下葉はよく発達し、尾柄上面には三日月型の欠刻がある。背面は灰色で、茶色・黄色味を帯びることもある。腹面は明色[2]。雄は全長1.4m、雌は1.6m[1]。最大全長は2.0-2.4m[2]。最大体重は13kg[4]

生態

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分布域ではCarcharhinus porosusウチワシュモクザメ優占種である[1]。長い吻と小さい眼は、濁った水中で視覚より触覚・電気受容器に頼るようになった結果だと考えられる。このような吻を持つ種には深海性のものが多く、ミツクリザメヘラザメテングギンザメなどが挙げられる[4]。大きな顎と細かい歯は小魚の群れを捕食することに適する。獲物はニシンアンチョビナマズニベなどが知られる[2]

胎生卵黄を使い切った胎児は卵黄嚢を胎盤に転換する。雌は一年おきに2–8匹の仔魚を産む。妊娠期間は1年。母体の大きさと産仔数に相関はない[4]。交尾・出産は雨季に合わせて約6ヶ月行われるが、周囲の環境に合わせて4ヶ月以上はずらすことができる[6]。雌は浅瀬の成育場で出産し、その一つがブラジルのマラニョン州にある[4]

出生時は全長38-43cm[4]。雄は103cm・5-6年で、雌は115cm・6-7年で性成熟する。寿命は最低でも雄で7年、雌で12年。成長率から推定すると、最大の雄は12歳、雌は20歳である [7]

人との関連

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体や歯が小さいため人に危害は加えない[2]。トリニダード・ガイアナ・スリナムなどでは伝統漁法で少数が漁獲される[4]。また、乾季にブラジル北部のエスチュアリーで営まれる、ミズタマサワラナガニベ属Cynoscion acoupa を対象とした刺し網で、10匹に1匹程度の頻度で混獲される。現地の市場ではよく見られるが、重要魚種ではない。繁殖力が低く乱獲に弱いこと、分布域が限られることからIUCNは保全状況を絶滅寸前としている。漁獲圧が高まっているため、ブラジルでは過去数十年で90%以上減少しており、他の地域でも同規模の減少が見られる。IUCNは速やかな漁業監視・保全対策の必要性を訴えている[1]

出典

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  1. ^ a b c d e f g Lessa, R., P. Charvet-Almeida, F.M. Santana and Z. Almeida (2006). "Isogomphodon oxyrhynchus". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2008. International Union for Conservation of Nature. 2009年9月2日閲覧
  2. ^ a b c d e f g Compagno, L.J.V. (1984). Sharks of the World: An Annotated and Illustrated Catalogue of Shark Species Known to Date. Rome: Food and Agricultural Organization. pp. 510–511. ISBN 9251013845 
  3. ^ Luis Fernando da Silva Rodrigues-Filho et al (2023). Evolutionary History and Taxonomic Reclassification of the Critically Endangered Daggernose Shark, a Species Endemic to the Western Atlantic. Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research. https://www.hindawi.com/journals/jzs/2023/4798805/ 
  4. ^ a b c d e f g Fowler, S.L., R.D. Cavanagh, M. Camhi, G.H. Burgess, G.M. Cailliet, S.V. Fordham, C.A. Simpfendorfer, and J.A. Musick (2005). Sharks, Rays and Chimaeras: The Status of the Chondrichthyan Fishes. International Union for Conservation of Nature and Natural Resources. pp. 306–308. ISBN 2831707005 
  5. ^ Compagno, L.J.V., M. Dando and S. Fowler (2005). Sharks of the World. Princeton University Press. p. 313. ISBN 9780691120720 
  6. ^ Lessa, R., F.M.Santana and P. Duarte-Neto (December 2006). “A critical appraisal of marginal increment analysis for assessing temporal periodicity in band formation among tropical sharks”. Environmental Biology of Fishes 77 (3–4): 309–215. doi:10.1007/s10641-006-9111-7. 
  7. ^ Lessa, R., F.M. Santana, V. Batista and Z. Almeida (2000). “Age and growth of the daggernose shark, Isogomphodon oxyrhynchus, from northern Brazil”. Marine and Freshwater Research 51 (4): 339–347. doi:10.1071/MF99125.