ヒゼンダニ

ダニ目ヒゼンダニ科の動物

ヒゼンダニ(皮癬壁蝨、Sarcoptes scabie)は、ダニ目無気門亜目ヒゼンダニ科に属するダニである。生理的変種が多く、それぞれの種がヒトを含む特定の宿主動物の表皮内にもぐり込み、疥癬などの皮膚感染症を感染させることで知られる[1]

ヒゼンダニ
ヒゼンダニ類
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモ綱 Arachnida
: ダニ目 Acari
亜目 : 無気門亜目 Astigmatina
: ヒゼンダニ科 Sarcoptidae
: ヒゼンダニ属 Sarcoptes
: ヒゼンダニ S.scabiei
学名
Sarcoptes scabie
(Linnaeus)
英名
itch mite

特徴 編集

体長0.2 - 0.4ミリメートルで[2]、メスのほうが大きい。横に平べったい卵型で、体色は半透明の褐色[3]。表皮に細かい横皺がある。第1,2,4脚の先端に吸盤があり、宿主の皮膚を穿孔するのに適した鋏角を持つ。

生態 編集

卵、幼虫、第1若虫、第2若虫を経て成虫となる。卵は産卵後3 - 4日で孵化し、次に産卵するまでの1世代の長さは10 - 14日程度である[2]。幼虫や若虫は皮膚の上や毛包の中で過ごし、成虫になると交尾し、メスは皮膚内に侵入して宿主の皮膚やリンパを食べながらトンネルを掘り、道中で産卵を続ける[1]。メスの寿命は2か月程度で[2]、死ぬまでに約50個の卵を産卵する[3]

全世界に分布し、自然界や住居、ヒトを含む多くの動物の皮膚下や毛包に生息している。ヒゼンダニ類は宿主特異性が高く、例えばヒトにはヒトヒゼンダニ(Sarcoptes scabie ver. hominis)、イヌにはイヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabie ver. canis)が寄生する[4]。ただし、他の動物種との接触によって他種のヒゼンダニ類に感染する場合もある[4]

人間・他の動物とのかかわり 編集

主にメスのヒゼンダニがトンネルを掘る際に宿主に疥癬を感染させる[1]。トンネルが掘られた表皮はわずかに盛り上がり、膿疱や線上疹ができて激しい痒みに襲われる。重篤化すると免疫不全や全身衰弱を起こす[2]。動物が感染した場合、患部を掻きむしることで脱毛し、黄色ブドウ球菌などの深刻な2次感染が起きる場合があり、死因ともなる[4]

主な変種 編集

  • ヒトヒゼンダニ (Sarcoptes scabie var. hominis)
  • イヌセンコウヒゼンダニ (Sarcoptes scabie var. canis)[5]
  • ブタセンコウヒゼンダニ (Sarcoptes scabie var. suis)[6]
  • ウサギショウセンコウヒゼンダニ (Sarcoptes scabie var. cuniculi)
  • ミミヒゼンダニ (Otodectes cynotis)[7]

脚注 編集

  1. ^ a b c 内川公人ヒゼンダニの生物学」『IASR』国立感染症研究所 Vol.22 No.10 pp.246-247. 2001-10-31 2021年1月3日閲覧.
  2. ^ a b c d 松崎沙和子・武衛和雄『都市害虫百科』普及版 朝倉書店 2012年 ISBN 978-4-254-64040-3 pp.201-202.
  3. ^ a b ジョージ・C. マクガヴァン『完璧版昆虫の写真図鑑:オールカラー世界の昆虫、クモ、その他の虫300科』<地球自然ハンドブック> 日本ヴォーグ社 2000 p.64 Google Books版 p.226. ISBN 978-4529032674 2021年1月3日閲覧。
  4. ^ a b c 木戸伸英, 「ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)に感染した野生ホンドタヌキ(Nyctereutes procyonoides)の疫学調査、血清生化学的性状および治療法に関する研究」北海道大学 博士論文 乙第6930号, doi:10.14943/doctoral.r6930, NAID 500000919521, 2014-09-25
  5. ^ 小方宗次, 二宮博義, 「16 イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. canis 犬疥癬虫)感染の現況とヒトへの影響(第59回日本衛生動物学会東日本支部大会講演要旨)」『衛生動物』 2008年 59巻 2号 p.107-, doi:10.7601/mez.59.107_2, NAID 110006812794
  6. ^ 山端輝一, 広池忠夫, 岩渕功, 金子晋, 島田健次郎, 「豚の疥癬症とその治験例」『日本獣医師会雑誌』 1982年 35巻 9号 p.510-515, doi:10.12935/jvma1951.35.510, NAID 130004050807, 日本獣医師会雑誌
  7. ^ 伊藤直之, 伊藤さや子, 「飼育猫のミミヒゼンダニ感染状況」『日本獣医師会雑誌』 2002年 55巻 3号 p.155-158, doi:10.12935/jvma1951.55.155, NAID 10012317006

関連項目 編集