節足動物

節足動物門から転送)

節足動物(せっそくどうぶつ)とは、動物界最大の分類群で、昆虫類甲殻類クモ類、ムカデ類など、外骨格と関節を持つグループである。種多様性は非常に高く、陸・海・空・土中・寄生などあらゆる場所に進出して様々な生態系と深く関わり、現生種は約110万種と名前を持つ全動物種の85%以上を占める[1][2]。なお、いわゆる「」の範疇に入る動物は当動物門のものが多い [3]

節足動物
生息年代: 530–0 Ma
様々な節足動物
現生および絶滅した様々な節足動物
地質時代
カンブリア紀 - 現世
分類
: 動物界 Animalia
亜界 : 真正後生動物亜界 Eumetazoa
階級なし : 前口動物 Protostomia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
: 節足動物門 Arthropoda
Latreille1829
亜門

目次

外部形態編集

 
甲殻類の二叉型附属肢。en = 内肢、ex = 外肢

体の表面はクチクラキチン質タンパク質等)でできた外骨格でおおわれる。成長に伴い体のサイズが大きくなるときには、脱皮により古い外骨格は脱ぎ捨てられ、新しい外骨格が形成される。体は体節の繰り返し構造、つまり体節制をとり、体の表面を被う外骨格も体節単位になっている。各体節からは、それぞれ一対の関節肢と呼ばれる脚が出ている。関節肢も体と同様に外骨格で覆われ、途中に関節がある。

関節肢は基本的に内肢と外肢をもつ二叉型が基本であるが、現生節足動物の中にこの特徴を明瞭に保留するのは甲殻類だけで、ほとんどの分類群は内肢しか見られない単枝型である。絶滅した三葉虫の歩脚は全て二叉型である。

体節の間は関節状に可動であることが多い。ただし、複数体節の融合や分化など、いわゆる異規体節制がある程度以上発達し、例えば頭部頭胸部はそれぞれの群で独特の複数体節が融合(合体節)してできたものであり、顎や触角などは頭部に含まれる体節の付属肢に由来する。こうして種類によって体節のうちの特定のものが組み合わされてひとつづきの外骨格で覆われる場合が多く見られ、外観上あるいは機能上の単位を構成する。例えば、体を頭部、胸部腹部の3部、または頭胸部、腹部の2部に分けて呼ぶ場合があり、これは節足動物の各分類群ごとの特徴として用いられる。

内部構造編集

 
節足動物の基本の内部構造。赤 = 心臓、黄 = 消化管、青 = と神経節

多くの左右相称動物と同様、節足動物は体腔を持ち、消化管は体の前後に貫通し、いわゆる肛門という2つ開け口を持つ。体節に貫通する紐状の心臓中枢神経はそれぞれ体の背面と腹面に付く。

循環系開放血管系であり、細胞外液リンパ液血液という区別は存在せず、リンパ液血液の役割を兼ねている血リンパが心臓と組織の間隙(血体腔)に流れる。心臓の伸縮や体の運動によって血リンパは心臓の動脈から体の静脈と呼吸器などの器官を通り、心門を通じて再び心臓に戻る。リンパ液の中に免疫系に関わる血球がある。

神経系として、1対の神経索が体の前後に走り、体節に合わせて分節し、左右の連絡でつながるはしご形神経系がある。頭部や頭胸部のも体節と共に数対の神経節が融合した結果で、そこから食道を囲んで食道神経環は体の神経節に繋がる。クモ綱昆虫の様に体節の融合が強く、神経が集中してはしご形が不明瞭な場合も少なくない。

感覚編集

 
様々な昆虫の触角

節足動物は様々の方法を通じて周りの環境を感知する。体表は常に剛毛(感覚毛)をもち、種によっては触覚振動水流気流温度匂い化学物質など視力以外の感覚を持つ。 鋏角類以外の節足動物は頭部の前方には触角という関節肢由来の附属肢をもち、殆どの場合は重要な感覚器官である。触角のない鋏角類の中でも、ウデムシサソリモドキの様に一部の歩脚が特化して感覚器官として使うことがある。

他にも昆虫の口器にある顎肢は嗅覚味覚に関わり、サソリの櫛状板・ヒヨケムシのラケット器官・一部の昆虫と甲殻類の後端にある尾毛も感覚器官であり、コオロギキリギリスの前足・バッタの胸部と腹部の間に両側・カマキリの後胸部腹面には聴覚に関わる特殊な器官を持つ。

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ハチの単眼(中央)と複眼(上下)

節足動物は、単眼複眼という2つの種類の眼を持ことが基本形と思われる。分類によって両方を備え、片方しか持たず、複眼の単眼化、稀に視力が失う種類もある。元々単眼だったものは背単眼、複眼から退化したものは側単眼と呼ばれる。

複眼は図形認識能力を備え、多数の個眼という構成単位からモザイク画の様な視覚を産生する。単眼は主に明暗を感知する功能を持つだが、一部のクモの単眼は図形認識能力を持ち、中でもハエトリグモの視力は非常に発達し、内部の網膜は自由に動かすことができる。

六足類甲殻類は基本的に単眼と複眼を両方備え;多足類は背単眼を持たず、中にゲジは複眼、他のものは複眼由来の側単眼を持ち;鋏角類の中にカブトガニ綱は単眼と複眼を両方備え、クモ綱は背単眼と側単眼(中眼と側眼)を混在し、或いは片方のみを持つ。また、カンブリア紀の古生物から始め、三葉虫類や節足動物と思われるアノマロカリス類も発達の複眼を持つ。

運動編集

関節は柔らかい膜で繋がり、2つの関節の外骨格内側に付着する筋肉で運動する。胴体の関節は様々な方向で湾曲できることが多いが、関節肢の関節は殆ど1対の蝶番に固定されて一つの平面上でしか動かない。そのため節足動物の関節肢、特に基部は多数の節に分かれて様々な動きを対応する。また、外骨格は体の内側へ延長し、いわゆる内突起で筋肉に付着面積を提供することも多い。例えばカニの中では可動指の関節に繋がり、大量の筋肉が付着する板状の内突起が見られる。

また、体中のリンパ液の水圧を変えて関節肢を動かすこともある。この様な特徴はクモ綱に多く見られ、原始的な運動方法と思われる。

呼吸編集

節足動物は様々な生息環境に進出し、それに応じて多様な呼吸様式を持つ。主なパターンとして陸生のものは気管や書肺、水生のものは鰓。稀に呼吸器官を持たず、体表でガス交換を行う種類もある。

  • 六脚類は主に陸生で発達な気管を持ち、胸部と腹部のそれぞれの節に一対の気門を持つ。水生昆虫の中に一部の幼虫は水中で呼吸するための鰓を持つ。
  • 多足類は全て陸上性で、六脚類と似たような気管と気門で呼吸する。
  • 鋏角類のうち水生のカブトガニ綱は腹部附属肢である書鰓で呼吸し、陸生のクモ綱は主に書鰓由来の書肺で呼吸するが、気管と気門を通じて行う分類群も少なくない。水生のウミグモ綱は呼吸器官を持たず、体表で直接的にガス交換を行う。
  • 甲殻類三葉虫類は二叉型付属肢のうち外肢の部分が鰓となって水中に呼吸する。甲殻類のうち陸生のワラジムシ亜目は腹肢にある白体(偽気管)で呼吸する。

繫殖と発育編集

求愛行動・交尾或いは交接・メイトガード・護卵など、節足動物は分類によって様々な繁殖行動を持つ。原則として有性生殖を行う卵生動物であるが、サソリアブラムシなどから単為生殖卵胎生ができること知られる。

トンボの成虫になる脱皮過程(羽化

成長に伴い古い外骨格の下で新しい外骨格を形成し、脱皮を通じて古い外骨格を捨てて成長する。新しい外骨格は柔らかく、固くなるのも時間が掛かり、脱皮直後の節足動物は無防備である。そのため節足動物の脱皮は常に隠れ場所で行うことが多い。中でも古い外骨格を摂食して栄養を回収する種類や、一部のクモは脱皮直後のメスを狙って交接することが知られる。

節足動物の幼生は基本的に成体と似たような外見を持つだが、甲殻類ノープリウス幼生昆虫幼虫など、成長の過程で著しく形態が変化する変態を行う分類群もある。昆虫の成虫になる脱皮は羽化と呼ばれる。多足類は成長に伴って体節と脚の対数を増やす。

起源編集

前口動物

冠輪動物環形動物門軟体動物門など)


脱皮動物

線形動物門センチュウ




有爪動物門カギムシ




緩歩動物門クマムシ



節足動物門






前口動物における節足動物の位置。

節足動物がどのような祖先から生まれて来たかについては、定説がない。 以前は、前口動物であること、体節制を持つことなどの共通点から、環形動物に近縁であると考えられ、体節動物としてまとめられた。しかし現在では、環形動物はトロコフォア幼生を共有する軟体動物と類縁があると考えられており(冠輪動物)、体節制という共通点は収斂進化の結果と思われる。

側節足動物という便宜的なまとめをされたこともある舌形動物有爪動物緩歩動物との類縁関係を含め、この3つの動物門がヘッケル派の系統樹では前口動物の上の方に置かれるのが普通であった。しかし、分岐分類学による検討や分子遺伝学による情報から、舌形動物ウオジラミに近縁の節足動物だと解明され、緩歩動物も他の動物門より節足動物に近縁とも思われ、側節足動物は多系統となり、否定された。

現在は線形動物有爪動物緩歩動物などとの類縁関係が定説となり、これらはまとめて脱皮動物というグループになる。

アノマロカリスをはじめとして、カンブリア紀の化石からは、節足動物であるとも思われるものの、現在の分類では所属場所が見あたらないものがかなりある。現存しない分類群が複数存在したものと考えられている。


分類編集

現生の節足動物は、鋏角亜門クモ綱カブトガニなど)・多足亜門ムカデヤスデなど)・甲殻亜門甲殻類)・六脚亜門昆虫など)という4つの亜門に分類されている。化石種まで範囲を広げれば、三葉虫(三葉虫形亜門)という過去の大グループや幾つの分類が明らかになっていない種も存在した。

特に注目されるのは、頭部の構造である。頭部は口を含む体節と、その前にある、触角を含む体節、それに口の後ろにある、付属肢を持つ体節のうち、一部のものが口の回りの付属肢、つまり顎や鋏角など口器を作ることでできるものである。この部分の構造から、以下の3つのパターンがある。

系統について、かつては上記のような特徴に従って多足類と六脚類は近縁とされてきた。しかし、分子遺伝学的情報は多足類と六脚類の直接の関連を支持せず、むしろ六脚類は側系統である甲殻類から分岐したという結果が出ている。また、節足動物全体の中ではウミグモ類の位置が問題となっている。鋏角類に含めるのが従来の判断であるが、これをそれ以外の節足動物全部と対置すべきとの説もある。

下位分類編集

節足動物門
 ?

Marrellomorphaマーレラ


 ?

三葉虫形亜門


鋏角亜門
 ?

ウミグモ綱




カブトガニ綱



クモ綱




大顎類
多足亜門

ムカデ綱




ヤスデ綱




エダヒゲムシ綱



コムカデ綱





汎甲殻類


貝形虫綱



ヒゲエビ亜綱



イクチオストラカ綱






鰓脚綱




Hexanauplia(綱)



軟甲綱







カシラエビ綱



ムカデエビ綱



六脚亜門

内顎綱



昆虫綱








節足動物の分岐図[4]汎甲殻類の中に、六脚亜門以外の全ての分類群が側系統甲殻亜門のものである。
  • †(亜門、綱和名なし) Marrellomorpha - マーレラ

旧分類編集

分子系統学分岐分類学以前には、形態に基づく以下の分類が使用されていた。Wikipedia日本語版でも、かつてこの分類に従っており、また現在流通している書籍にもこの分類にしたがっているものも多い。よって参考・比較のため、また生物学史上の意義もあり、以下に併記する。

関連項目編集

出典および脚注編集

  1. ^ 宮崎勝己 「節足動物における分類学の歴史」『節足動物の多様性と系統』 石川良輔編、岩槻邦男馬渡峻輔監修、裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ6〉、2008年4月11日、p.2。ISBN 978-4-7853-5829-7
  2. ^ ただし未記載の動物種もいまだ多く、最近の研究では海産の線形動物だけで1億種以上いると推定されている
  3. ^ 具体的には陸生を主体とする分類群(多足亜門六脚亜門鋏角亜門蛛形綱、甲殻類のワラジムシ亜目)が中心となる
  4. ^ Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences

参考文献編集

  • 石川良輔編、岩槻邦男・馬渡峻輔監修 『節足動物の多様性と系統』 裳華房、2008年、495頁、ISBN 978-4-7853-5829-7
  • 白山義久編 『無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)』 裳華房、2002年、ISBN 4-7853-5828-9

外部リンク編集