ブッシュイズムブッシズムBushism)とは、アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュ、及びそれ以前にはその父ジョージ・H・W・ブッシュの公の発言に現れた、独特の発音マラプロピズム意味論言語学的誤り(規範主義英語からのずれを含む)、失言を指す言葉である[1][2]。「ブッシュイズム」にはもう一つ両ブッシュ大統領の政治哲学という意味もある。

演説中のジョージ・W・ブッシュ

概説 編集

「ブッシュイズム」という語は都市伝説の一部になっていて、多数のウェブサイトや刊行本の基礎となっている。二人の大統領の戯画に使われることも多い。共通した特徴はマラプロピズム、新語の創造、語音転換(スプーナリズム)である。

「ブッシュイズム」の本の共著者モリー・アイヴィンス(Molly Ivins)を含むコラムニストの何人かは、ブッシュは「ワシントン英語」を話すのが困難で、強調しすぎる語によって自分の方言をカバーしようとしたのかも知れないとほのめかしている。また、ブッシュは大統領として使うべきと感じている語のいくつかに通じていないと指摘する意見もある[3]

ブッシュの英語誤用は、その内容を記録した数ダースの本を生み出した。その大多数を書いたのは「Slate」誌編集長ジェイコブ・ワイズバーグ(Jacob Weisberg)で、その最初の本が2002年に出した『Bushisms』である。ブッシュイズム関連の本は世界中で読まれ、ドイツフランスイタリアではベストセラーになった[4]。ブッシュイズムで完全に作られた『Make the Pie Higher』と題されたは、高校の英語教師ダーク・シュルツが生徒たちにファウンド・ポエトリー[5]の例として編纂したものを「リチャード・トンプソン」名義で発表したものである[6]

2009年には、「プレーン・イングリッシュ・キャンペーン」が「最も支離滅裂な言葉」を決めるアンケートを実施し、ブッシュによる2005年の防衛予算法案についてのスピーチでの次の発言が1位に選ばれた。

  • 「我々の敵は革新的で資源も豊富だが、我々だってそうだ。敵は我らがアメリカとその国民に害をなす新たな方法を常に考えているが、我々だってそうだ」
"Our enemies are innovative and resourceful and so are we. They never stop thinking about new ways to harm our country and our people, and neither do we."

一方で言語学者のマーク・リーベルマンは、全ての言葉を記録して悪意のある人々の前に晒せば、誰だっていくつもの間違いがみつかるし、言語学的な検証に耐えはしない、と擁護している[7]

ブッシュの英語の『あやまり』のうちのいくつかは、規範主義英語からは非難されるものの、実際の英語諸変種には頻繁にみられたり、または英語以外の言語で見られる現象である。

語録 編集

  • I know the human being and fish can coexist peacefully.
    (人間と魚類は平和的に共存できるのだ)
  • If the terriers and bariffs are torn down, this economy will grow.
    (輸入制限と関税が撤廃されれば、経済は成長する)
注: barriers(輸入制限)と tariffs(関税)を、terriers 、 bariffs と言い間違えた。
  • We were trying to say something differently, but nevertheless it conveyed a different message
    (我々は異なることを言おうとした。だが、それは異なるメッセージを送ってしまった)
  • They misunderestimated me.
    (彼らは、わたしを誤過小評価している)
注: misunderestimate という単語は存在しない。misunderstand(誤解する)とunderestimate(過小評価する)という2つの単語を掛け合わせた造語。
  • Thank you for being such a fine host for the OPEC summit.
    ((ハワード豪首相に)すばらしいOPECのホストを務めていただき、感謝します)
注: APEC と OPEC を勘違いした。
  • Which state is Wales in?
    (ウェールズって、どの州にあるの?)
注: ウェールズはイギリスを構成するカントリー
  • I know how hard it is for you to put food on your family.
    (食べ物を家族に乗せることは、難しいことだ)
  • I've abandoned free market principles to save the free market system.
    (自由市場のシステムを守るため、自由市場の原理を捨てたんだ)
  • Neither in French nor in English nor in Mexican.
    (フランス語でも、英語でも、メキシコ語でもだめなんだ)
注: メキシコ語という言語は存在しない。メキシコの公用語はスペイン語
  • Our priorities is our faith.
    (我々が優先するものは信念だ)
注: is ではなく are が正しい。
  • Is our children learning?
    (我々の子どもたちは、学んでいるのか?)
注: is ではなく are が正しい。
  • Childrens do learn when standards are high.
    (子どもたちは高水準の教育を受けている)
注: childrens ではなく children が正しい。
  • You teach a child to read, and he or her will be able to pass... a literacy test.
    (子どもに読むことを教えれば、読み書きのテストをパスするはずだ)
注: her ではなく she が正しい。

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ Bines, Jonathan; Editors of The New Republic (May 1992). Bushisms: President George Herbert Walker Bush in His Own Words. Workman Pub Co. ISBN 1-56305-318-7.
  2. ^ George H.W. Bushisms. About: Political Humor. Retrieved on 2007-03-24.
  3. ^ Kathleen Parker (August 23, 2006). Intellectually curious George. Townhall.com. Retrieved on 2007-03-28.
  4. ^ Books › "bushisms". Amazon.com. Retrieved on 2008-02-06.
  5. ^ 既存のパッセージ、フレーズ、語などから再構成された詩のこと。Found poetry参照
  6. ^ Make the Pie Higher!. Snopes.com (2002). Retrieved on 2006-10-12.
  7. ^ “You say Nevada, I say Nevahda”. Language Log. http://itre.cis.upenn.edu/~myl/languagelog/archives/000292.html 2010年9月3日閲覧。 

関連書籍 編集

  • Frank, Justin A., Bush on the Couch: Inside the Mind of the President (2004), ISBN 0-06-073670-4.
  • Miller, Mark Crispin. The Bush Dyslexicon (2001), ISBN 0-393-04183-2.
  • George W. Bushisms: The Accidental Wit and Wisdom of Our 43rd President. Ed. Jacob Weisberg. ISBN 0-7407-4456-9.
  • Bushisms/President George Herbert Walker Bush in His Own Words New Republic. Workman Pub Co., May 1992, ISBN 1-56305-318-7
  • George W. Bush -- On The Trips Of His Tongue -- A Linguistic Legacy. [1] B. Elwin Sherman. ISBN 978-1430317951.
  • フガフガ・ラボ、村井理子『ブッシュ妄言録』、ぺんぎん書房、2003年、ISBN 4901978020
  • フガフガ・ラボ、村井理子『ブッシュ妄言録2』、ぺんぎん書房、2003年、ISBN 4901978047
  • テリー・マクミラン、平野すみれ『不思議の国のブッシュ 合衆国大統領迷語録』光文社、2003年、ISBN 4334961495
  • 西森マリー『警告!絶対にマネをしてはいけない「ブッシュ君」英語集―正しい英語例つき』、マガジンハウス、2003年。ISBN 4838714432
  • 村井理子『ブッシュ妄言録―ブッシュとおかしな仲間たち』、二見書房、2006年、ISBN 4576060988

外部リンク 編集