プライム

約物のひとつ
′ ″

プライム (: prime、  ) は、約物のひとつで、対象となる文字の右肩に右上から打つ点である(例:x′)。2つ重ねたものをダブルプライム )、3つ重ねたものをトリプルプライム )と呼ぶ。類似の記号としてアポストロフィークォーテーションマークアキュート・アクセントなどがあるが、それぞれ別のものである。

なお、Oxford English Dictionary(オックスフォード英語辞典) VIII (1970)に a’は"usually read `a dash', etc."と記述されており、イギリスの影響を受けた国(アイルランドオーストラリア日本インドなど)ではダッシュと呼ぶことも多い。

起源編集

プライムは prima minuta「第1の小部分」というフレーズに由来する(ここではラテン語で示したが、非常に古い起源をもった表現である)。60進法の慣習で、ある単位(たとえば1時間)の60分の1を"prime minute"、さらに60分の1を"second minute"、さらに60分の1を"third minute"の様に表現していた。除数は60に限らず、物によっては24分の1や12分の1を意味する場合もあった。

これに対応して、数の右肩に点(  )を1つ、2つと打つ表記がされるようになる。したがって本来この記号は"minute"に対応しているのであり、プライムと呼ぶのはふさわしくない。 20世紀前半まではx′を「エックス・プライム」、x″を「エックス・セカンド」のように読んでいた。しかし次第にこの記号そのものがプライムだと認識されるようになったため、現在ではx″を「エックス・ダブルプライム」と読むようになっている。

単位記号編集

プライムおよびダブルプライムは、平面角分 (角度)秒 (角度))、時間の、およびヤード・ポンド法の長さの単位を表すのに用いられる(SI併用単位#SI併用単位)。

  • 138° 47′ 53.78″ = 138度47分53.78秒
  • 1 h 22′ 43.68″ = 1時間22分43.68秒(時間の記号に ° が使用されることはない[1]。)
  • 4′ 11″ = 4フィート11インチ

腕時計メーカにおいてはトリプルプライムを使ってリーニュ112 inches; 1インチの12分の1)を表している。

金網業界では"10=10メッシュ、"20=20メッシュと 25.4㎜(1インチ)に入る線の表記を略して数字の前にダブルプライムを付ける。

数学表記編集

数学では、一般に類似したものを表すのに使われる。A′A に類似しているもの、A″AA′ に類似しているもの、といった具合である。例えば直交座標系(xy) と表記される点に対し、回転や変換を施した点を(x′, y′) と表記したりする。こうしたプライムの意味は使う度に定義するものであるが、しばしば定義なしに用いられる場合がある。なおいずれも他の表記法もある。

  • 微分導関数: f ′ (x) および f ″ (x) は、f (x)x について微分した1階および2階の導関数を意味する。また y = f (x) の時に、y′yx について微分した1階の導関数を意味する。
  • 補集合: A′ は集合 A の補集合である。
  • 余事象: A′ は事象 A に対して A が起こらない事象。

なお素数のことを prime number というが、これとは何の関係もない。

物理学編集

物理学では、事象の後の変数を記すのに使われる。例えば vA はある事象が起きた後の物体 A の速度を示す。また相対的な関係を示すのにも用いられる。つまり、ある慣性系 S での座標 (x, y, z, t) は、別の慣性系S′ での座標 (x′, y′, z′, t′) に対応する。

化学・生物学編集

化学では、官能基を区別するために用いられる。たとえば、R-CO-Rという化学式は、2つの官能基(RとR)に挟まれた構造のケトンを表現している。

またIUPAC命名法において、環集合に位置番号を付ける際に複数の環を区別するために用いられる。具体例としては核酸の構成要素であるヌクレオシドが挙げられる。ヌクレオシドでは核酸塩基にプライムなしの位置番号を、リボースにプライム付きの位置番号を振る。

分子生物学において核酸分子の向きを示すのに5'・3'という表記が用いられるが、これはリボース環での位置番号に由来している。核酸はヌクレオシドの5'位の炭素と隣のヌクレオシドの3'位の炭素の間がリン酸で結びつけられた構造をしており、そのためこの2つの表記で向きを示すことができるのである。

言語学編集

ロシア語を含むスラヴ語派などの言語をローマ字翻字する際に、口蓋化の表記として用いる場合がある。特にキリル文字を翻字する場合にイェリの字 Ь はプライムであるが、イェルの字 Ъ はダブルプライムになる[2]Xバー理論では、版組が難しくなるオーバーライン(バー)の代わりにプライムを使って表記することが一般的になっている。

その他編集

(試験の評点などの)評定では、「′」は1段階低い評点を示す。たとえば、B(Bダッシュ)はBより1段階低い。

符号位置編集

記号 Unicode JIS X 0213 文字参照 名称
U+2032 1-1-76 ′
′
′

Prime
U+2033 1-1-77 ″
″
″

Double Prime
U+2034 - ‴
‴
Triple Prime
U+2057 - ⁗
⁗
Quadruple Prime
ʹ U+02B9 - ʹ
ʹ
Modifier Letter Prime
ʺ U+02BA - ʺ
ʺ
Modifier Letter Double Prime

ここで"Modifier Letter"とあるのは強勢口蓋化を表記するような言語学的な用途のための文字である。

文字コードとしてプライムを使えない場合には、代わりにアポストロフィー(U+0027)を(可能ならイタリック体で)用いることがある。LaTeXでは、f' と描画され、f^\primeとすれば と描画される。

脚注編集

  1. ^ English notation for hour, minutes and seconds English Languate & Usage、From the time 01:00:00 to the time 02:34:56 is a duration of 1 hour, 34 minutes and 56 seconds (1h 34′ 56″)
  2. ^ Bethin, Christina Y (1998). Slavic Prosody: Language Change and Phonological Theory. Cambridge University Press. p. 6. ISBN 978-0-52-159148-5 

関連項目編集