クロス積

2つのベクトルから新たなベクトルを与える二項演算の一つ
ベクトル積から転送)

外積(がいせき)は、3次元空間(3次元有向内積空間)において定義される、2つのベクトルから新たなベクトルを与える二項演算である。乗算記号角括弧を用いて表現する。

abの外積

日本(漢字文化圏)ではこの二項演算を内積に対して外積と呼ぶ。ただし、外積に対応する西洋語(ドイツ語: Äußeres Produkt英語: Exterior algebra)には、グラスマン代数外積代数)のウェッジ積等の意味もあるため、区別する為にクロス積cross product)と呼ばれる。また、内積スカラー積と呼ばれるのに対して、ベクトル積(vector product)とも呼ばれる。なお、アウター積outer product)は直積direct product)を意味する。

以下、この二項演算をクロス積またはベクトル積と表記する。

表記編集

2つのベクトル ab のベクトル積は、以下のように表記される。

  •   - 乗算記号
  •   - 角括弧内積丸括弧を用いる

定義編集

 
右手の法則によるクロス積の向き
 
右手系の外積

ベクトル aとベクトル bのクロス積 a × bは、3次元空間のみで定義される。つまり、ab は共に3次元ベクトル(空間ベクトル)である。

 クロス積 a × bは、以下のように定義される。

 

ただし、

  • sinの変数 θ は、abの間の角度(abが存在する平面上の角度)
    • 従って、θ は0°以上180°以下である。
  • a‖ 、 ‖b‖ は、それぞれ ab の大きさである。
  • n は、上図のような向きを持つ垂直単位ベクトルである。

また、特殊な場合として、以下がある。

  • ab が平行」⇔「 θ = 0° または θ = 180°」であるならば、a × b は零ベクトル 0である。

行列式による定義編集

3次元の向き付けられたベクトル空間におけるベクトル積 [ · , · ] は、任意のベクトル v に対して内積 ( · , · ) との間に

 

の関係を満たすベクトルの二項演算である。ここで ⟨ · , · , · ⟩ はベクトルを標準的な基底により列ベクトルと同一視することで得られる3次正方行列である。det は行列式を表す。

幾何的なベクトルの演算として定義できる。

行列式の交代性から、

 

である。

従って、2つのベクトル ab のベクトル積 a×b は、元のベクトル ab の両方と直交する。言い換えれば、2つのベクトルが作る平面法線と平行な方向を向いている。

ただし、法線のどちらの方向に向いているかは座標軸の選び方に依存し、右手系左手系に分けられる。右手系の場合は、a をその始点の周りに180度以下の回転角で回して b に重ねるときに右ねじの進む方向である。すなわち、右手の親指を a、人差し指をb としたときの中指がベクトル積 a×b の向きを表す。左手系の場合は、b をその始点の周りに180度以下の回転角で回して a に重ねるときに右ねじの進む向きである。

行列式とスカラー積の線型性からベクトル積も双線型性をもつ。 特に、2つのベクトル ab のベクトル積 a×b は、元のベクトル ab の大きさに比例する。 また、二つのベクトル ab のなす角を θ とすれば、標準的な基底の下で

 

と成分表示することができる。これらのベクトル積は

 

となる。従って、ベクトル積の大きさは

 

であり、2つのベクトルが作る平行四辺形の面積に等しい。

成分表示編集

標準的な基底を (ei,ej)=δi,j として、ベクトル a の成分 ai=(ei,a) により列ベクトルとの同一視

 

を行う。ベクトル ab のベクトル積 [a,b] は

 

 

 

あるいは

 

となる。以上のことを形式的に

 

と表現することもある。

エディントンのイプシロン εijk を用いると

 

である。

クロス積の幾何的意味編集

 
(図1)2つのベクトルのクロス積の大きさは、それらが作る平行四辺形の大きさとなる。
 
(図2)3つのベクトルのクロス積は、平行六面体を定義する。

2つのベクトルのクロス積は、2つのベクトルが作る平行四辺形の大きさに等しい(図1)。

 

また、3つのベクトル abcは、平行六面体を定義する。(図2)。この平行六面体の体積 Vについて、

 

が成り立つ。ここで絶対値記号を付けたのは、3つのベクトルのクロス積が負になる場合を考慮してのことである。

なお、

 

である。

性質編集

分配律編集

一般に分配律

  • a × (b + c) = a × b + a × c (角括弧表記では[a, b+c] = [a×b] + [a×c]
  • が成り立つ。

反交換律編集

一般に反交換律

  • a × b = − b × a (角括弧表記では[b, a] = -[a, b]

が成り立つ。これは、行列式の交代性やリー代数反交換性からも説明できる。特に、自分自身とのベクトル積は

 

であり恒等的に零ベクトルである。(複零性)

内積の性質、

 

 

と異なることに注意が必要。

双線型性編集

行列式の多重線型性から、ベクトル積も双線型性である。任意のベクトルに abc とスカラー kl に対して

 

 

が成り立つ。特に k=l=0 であれば

 

である。内積(スカラー積)の場合は零ベクトルとの積はスカラーのゼロであるが、ベクトル積の場合は零ベクトルであることに注意が必要。

ヤコビ恒等式編集

ベクトル積による演算結果はベクトルなので、別のベクトルとのベクトル積を考えることができる。3つのベクトルのベクトル積はベクトル三重積と呼ばれている。ベクトル三重積は

 

となる。3つのスカラーの積と異なり、ベクトル三重積では一般に

 

であり、結合法則が成り立たない。ベクトル積では結合法則に代わって

 

の関係式が成り立つ。これを変形すれば

 

が得られ、ヤコビ恒等式と呼ばれている。

三重積の証明編集

ベクトル三重積: 

ベクトル とベクトル の外積であるから、これはベクトルである。そのx 成分は

 

同様にして、y 成分、z 成分は、

 

ゆえに、

 

多次元への拡張編集

行列式を使った拡張編集

行列式による定義を拡張して、n 次元ベクトル空間における n - 1 項演算としてのベクトル積が

 

を定義できる。 完全反対称行列を用いれば

 

となる。

例えば、2次元のベクトル空間では単項演算として

 

となり、4次元ではそれぞれ三項演算として

 

となる。また、1次元では定数 1 となる。

多元数を使った拡張編集

3次元のクロス積

 

は、4元数 )のベクトル成分(  の部分)の乗算

 

のベクトル成分で定義できる。ちなみに、スカラー成分を符号反転した  内積になっている。

3次元のクロス積はハミルトン4元数の概念をもとにして、ウィラード・ギブズオリヴァー・ヘヴィサイドがそれぞれ独立に、ドット積と対になる数学的概念として考案した。

これを多元数に拡張すると、n + 1 元数の乗算から n 次元でのクロス積を定義できる。つまり、実数(1元数)、複素数(2元数)、4元数、8元数の乗算から、0次元、1次元、3次元、7次元でのクロス積が定義できる(要素数が多くなるため縦ベクトルで表す)。

 

これら以外の次元では、必要な対称性を持つ乗算が定義できないため(これはアドルフ・フルヴィッツによって証明された)、クロス積は定義できない。また、0次元では自明なことを確認できるにすぎず、1次元のクロス積は常に零ベクトルである。

直積を使った拡張(外積)編集

クロス積は、直積

 

を使って

  (*)

と定義できる。ただしここで、反対称テンソル擬ベクトルを等価

 

としたが、これをホッジ作用素写像として明示すると

 

と書ける。

(*)式はそのまま、一般次元での定義に使える。ただし、これで定義できる積は、クロス積ではなく外積と呼び、

 

で表す。外積は3次元ではクロス積に一致するが、同義語ではないので注意が必要である。

外積は2階の反対称テンソルであり、これはホッジ作用素により、n 次元では n - 2 階の擬テンソルに写像できる。つまり、2次元では擬スカラー(0階の擬テンソル)、3次元では擬ベクトル(1階の擬テンソル)に写像できるが、4次元以上ではテンソルとして扱うしかない。

外積(ドイツ語でäußeres Produkt)は、グラスマンによって導入されたが、当時はそれほど注目されず、彼の死後に高く評価された。

関連項目編集

外部リンク編集

  • 外積』 - コトバンク
  • ベクトル積』 - コトバンク
  • Weisstein, Eric W. "Cross Product". MathWorld (英語).