酒石酸カリウムナトリウム

ロッシェル塩から転送)

酒石酸カリウムナトリウム(しゅせきさんカリウムナトリウム、Potassium sodium tartrate)は、2価のカルボン酸である酒石酸ナトリウムおよびカリウムを形成した構造をもつ複塩。1675年ごろにラ・ロシェルフランス)の薬学者ピエール・セニエットによって初めて合成されたことから、ロッシェル塩またはセニエット塩とも呼ばれる。

酒石酸カリウムナトリウム
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識別情報
CAS登録番号 304-59-6 (無水物), 
6381-59-5(4水和物)
PubChem 9855836
ChemSpider 8031536
UNII QH257BPV3J
日化辞番号 J2.573I
EC番号 206-156-8
E番号 E337 (酸化防止剤およびpH調整剤)
特性
化学式 KNaC4H4O6·4H2O
モル質量 282.1g/mol
外観 無色または青白色の結晶
融点

75°C

沸点

220°C

への溶解度 63g/100mL(20°C
[1]
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

性質と用途 編集

無色または青白色をした斜方晶で、通常4分子の結晶水を含み化学式KNaC4H4O6·4H2Oで表される。に非常によく溶ける(1111 g/L)がアルコールには難溶。

酒石酸カリウムナトリウムの結晶は、相対湿度が約30%以下になると脱水していき、相対湿度が約84%以上では溶解する[2]

やや塩辛く清涼感のある風味を持ち、EUでは食品添加物として認められている(E337[3]。薬学分野では下剤利尿剤として用いられる。

穏和な還元作用をもつため、無電解めっきを行う場合に還元剤として用いられ、古くは板ガラスからを作製する際に利用された。

圧電効果 編集

単結晶は4,000程度の高い比誘電率を示す強誘電体であるが、下限のキュリー温度をもち、255–297 Kの温度範囲でしか強誘電性を示さないという特徴を持つ[4]

1921年に強誘電体であることが報告[5]されて以降、クリスタルイヤホンクリスタルマイクなどの圧電素子として盛んに利用された[6]

その特性から第二次世界大戦中のドイツでは軍需物資として対潜水艦用の水中聴音機等に利用されていた。日本でも、ミッドウェー海戦後にロッシェル塩の応用技術がドイツからもたらされ、旧日本海軍の要請により大蔵省が原料の採取を目的としてワインづくりを奨励したほか、リオンの前身である小林理研製作所では培養生産も行われた[7][8][9]

現在ではリン酸二水素カリウム(KDP)やチタン酸バリウム(BT)など他の材料が発見されたため、湿気に弱いロッシェル塩は圧電素子としてはほとんど利用されていない。

キレート作用 編集

水への溶解度が高く、また水中で電離キレート作用を持つ酒石酸イオンが生じるため、弱塩基性キレート剤として広く利用されている。工業的にはめっき液の成分として、化学分析においてはフェーリング試験ベルトラン試液ビウレット試験ネスラー試験[10]カドミウム定量[11]などで試薬のひとつとして加えられる。

有機合成においては、キレート作用によって分液操作時のエマルション沈殿の形成を抑止するために、特にLAHDIBAL-Hなどの水素化アルミニウム系試薬を用いた反応の後処理に利用される[12]

調製 編集

 
スカイラブ上で成長させたロッシェル塩の大きな結晶

酒石酸カリウムナトリウム(NaKC4H4O6)は、1モル酒石酸水素カリウムKHC4H4O6)を含む加熱溶液に 0.5モル炭酸ナトリウムを添加することで調製できる。溶液は熱い内に濾過する。この溶液を乾燥することで固体の酒石酸カリウムナトリウムが晶子英語版として析出する。

スカイラブでの微小重力および対流条件下でロッシェル塩の大きな結晶への成長実験が行われた[13]

脚注 編集

  1. ^ Potassium sodium tartrate tetrahydrate”. chemBlink. 2011年11月20日閲覧。
  2. ^ Electronic Engineering. (March) 
  3. ^ Food Standards Agency. “Current EU approved additives and their E Numbers”. 2011年11月20日閲覧。
  4. ^ 国立天文台 編『理科年表 平成18年版』(「強誘電体と反強誘電体」の項)、丸善、2005.
  5. ^ Valasek, J. (1921). “Piezo-Electric and Allied Phenomena in Rochelle Salt”. Phys. Rev. 17: 475-481. doi:10.1103/PhysRev.17.475. 
  6. ^ Newnham, R. E.; Cross, L. Eric (November 2005). “Ferroelectricity: The Foundation of a Field from Form to Function”. MRS Bulletin 30: 845–846. http://theeestory.com/files/nov05_newnham.pdf. 
  7. ^ 深田栄一. “河合平司先生を偲ぶ”. 小林理研ニュースNo.92_2. 2011年11月20日閲覧。
  8. ^ 鈴木芳行. “戦時中のワイン造りの奨励(答え)”. 国税庁. 2019年1月15日閲覧。
  9. ^ ロッシェル塩、ワイナリー「サドヤ」(甲府市)”. 産経ニュース (2015年8月12日). 2018年1月4日閲覧。
  10. ^ 「国税庁所定分析法」の全部改正について”. 国税庁 (1991年6月7日). 2011年11月20日閲覧。[リンク切れ]
  11. ^ 農用地土壌汚染対策地域の指定要件に係るカドミウムの量の検定の方法を定める省令(昭和四十六年農林省令第四十七号)”. 総務省行政管理局 (2010年6月16日). 2011年11月20日閲覧。
  12. ^ Fieser, L. F.; Fieser, M. (1967). Reagents for Organic Synthesis. Vol.1. New York: Wiley. pp. 983 
  13. ^ SP-401 Skylab, Classroom in Space”. NASA. 2009年6月6日閲覧。