中国崩壊論ちゅうごくほうかいろん)は、バブル経済公害民主化などによって、中華人民共和国が崩壊するという論である。

概要 編集

水質などの環境汚染(公害)、人口爆発あるいは少子化、民主化への不満からくる内紛などから中国は自滅をして崩壊するという論である。 日本において特に2000年代から多数出版されているが、同じ筆者による内容の焼き直しも多く、またタイトルに「崩壊」とあっても悲観的な材料をあつめて最後に「崩壊するおそれがないとはいえない」といった本も多い[1][2]高田勝巳によれば、1984年ごろからすでに語られており中国の人口で経済発展は爆発的だが、一党独裁の政治的な不安定さから崩壊のリスクも見据えなければならない、といった論調であったという。[3]

中国崩壊論の崩壊 編集

中国や中国共産党政府に対しては、中国崩壊論が書籍によって大々的に語られてきた。黄文雄の書籍を例にとると、「大予言 中国崩壊のシナリオ」という本を1989年に出版している[4]。 2017年にジャーナリストの高口康太が出版社に対して行った取材によると、中国崩壊本の主要読者層は60代前後であり、著名作家の本であれば1万部を超える売上が見込めていた[5]。しかしながら、野嶋剛によって同年、中国崩壊論が主張する主だった予測が外れていることが指摘されている[6]。また、これには日本に大きなコストを払うことなく中国の存在感が縮小してほしいという願望に基づく側面が多く、崩壊後に日本が取るべき対応について議論した本はほとんどない[7][8]。 複数の「崩壊本」を執筆してきた評論家の石平は、「崩壊するなどとは言っていない」「持続不可能と指摘しているだけ」と主張している。また、中国崩壊というタイトルをつけた自著についても、出版社側が勝手にそのような名称にしただけだと弁明している[9]

こうした「崩壊本」が出版され続ける背景として、中国人に対する優越感にもかかわらず、現実の中国の台頭を認めたくないという日本人の願望が指摘されている[10][11][12]。 また、中国崩壊本は一定の需要があることから、出版業界では「中国崩壊マーケット」とも言えるものが形成されており[3]、中国研究者の富坂聰も複数の出版社から『中国が今すぐ崩壊するという本を書いてくれ』と頼まれたことがあったという[13]

野嶋剛川島博之も「“中国崩壊”は日本人の願望に過ぎず、あり得ない」と分析している。

また、野嶋剛は中国崩壊論は特に日本のみに多く見られるもので、米国や台湾では中国脅威論はあっても中国崩壊論はあまり見られないと述べている[14]

海外での中国崩壊論 編集

米国、台湾、オーストラリア、インドなどでも中国に批判的な書籍は多数存在するが、特に日本の書籍の特徴として中国脅威論だけでなく、中国崩壊論が多いことがあげられる。 しかしながら、日本以外にも下記のような中国崩壊論の書籍が存在する。

米国 編集

海外での中国崩壊論は、2001年に発売されたゴードン・チャンの「やがて中国の崩壊がはじまる」などか有名である。

台湾 編集

2018年には王世榕によって「2031中國崩潰」という本が発売されている。王世榕は本書の中で、「第22回全国代表大会」を控えた2031年には、独裁的・権威主義的な帝国支配の大一統という概念の下、中国は権力の乱用と内部闘争に巻き込まれる運命にあり、指導者が交代すると中国は再び破壊的な混乱に陥る可能性があると予測している。 また、遅くとも2031年には、中国は大きな社会的・制度的崩壊に直面すると予測した[15]

その他 編集

劉仲敬は、中国はやがて崩壊し無秩序な状態に陥るとしてそれを「大洪水」とよんでいる。

中国脅威論との関係 編集

アメリカ合衆国でも同様の傾向が見られ、中国が経済的に成長してきた2001年の段階で、アメリカ国内でも中国崩壊本が出版されるようになった。アメリカ国防総省顧問のマイケル・ピルズベリーは、中国は環境汚染などにより体制崩壊するという情報を意図的に流し、「偽情報は中国の得意分野で、共産党の統一戦線工作部が担っている。中国は不安定になるどころか強くなっている。崩壊すると我々が考えている間に、急成長したのだ」と述べた[16][17][18][19]。 偽情報で油断させることが中国政府の策略であった可能性も指摘されている。韜光養晦の爪を隠す戦略は事実上リーマンショック後に放棄したことが指摘されている[20]

中国脅威論の書籍としてはオーストラリアではサイレント・インベージョンカナダではパンダの爪が有名である。

台湾では香港と台湾での禁書など中国民主活動家や中国の内政面を書いた書籍が多く、米国では中国の軍事的な脅威などを分析した書籍が多い。インドでもカンティ・バジパイの「India Versus China : Why they are Not Friends」など中国脅威論の本は存在する。一方、日本では韓国崩壊論を唱える本(西村幸祐三橋貴明など)と共に、中国崩壊本が多いという特異性がある。

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ 【検証】第三次ブームに沸く「中国崩壊本」。なぜ不毛な議論が続くのか NewsPicks 2017年9月18日
  2. ^ 総括・中国バブルはなぜ崩壊しなかったのか? JBpress 2018.12.19
  3. ^ a b 中国崩壊が実現しないのはなぜ?
  4. ^ 大予言中国崩壊のシナリオ 文雄 黄はまの出版 Google Book
  5. ^ 高口康太 (2017年10月27日). “中国崩壊本の崩壊カウントダウン”. Newsweek日本版. 2021年4月22日閲覧。
  6. ^ 野嶋剛 (2017年9月17日). “【第0話】「中国崩壊論」の崩壊 : 「中国崩壊論」の崩壊。外れ続ける「5つの予想」”. NewsPicks. 2021年4月22日閲覧。
  7. ^ 安田淳『台湾をめぐる安全保障 (慶應義塾大学東アジア研究所 現代中国研究シリーズ)』慶應義塾大学出版会、2016年3月23日、21頁。ISBN 476642316X 
  8. ^ 中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由 富坂聰 株式会社ビジネス社 2017年
  9. ^ 石平「中国『崩壊』とは言ってない。予言したこともない」ニューズウィーク日本版 2017年10月17日
  10. ^ 「中国崩壊」論は、単なる願望にすぎない それでも中国経済は日本の脅威になる 東洋経済ONLINE 2015/11/07
  11. ^ 「中国崩壊論」の嘘とホントニューズウィーク日本版 2017年11月22日
  12. ^ 「中国崩壊論」は全部ウソ!人は事実より、信じたいことを信じる弱い生き物 東洋経済ONLINE 2013/07/31
  13. ^ ある中国研究者の憂い西日本新聞 2018年9月30日
  14. ^ 新中国論: 台湾・香港と習近平体制 平凡社新書 著者 野嶋 剛 中国は「フランケンシュタイン」かP189
  15. ^ 王世榕專訪-《2031中國崩潰》的寫實與理性批判 By 施家恩, 台灣英文新聞-記者(2018/02/02 20:07)20210619閲覧
  16. ^ トランプ政権、対中強硬のワケは マイケル・ピルズベリー米国防総省顧問に聞く:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2021年4月22日閲覧。
  17. ^ 【中国崩壊論#1】ゴードン・チャン『やがて中国の崩壊が始まる』
  18. ^ 中国崩壊論が欺いた米国 機密文書と「最も危険な問題」|accessdate=2021-04-31|language=ja
  19. ^ 【中国崩壊論#1】ゴードン・チャン『やがて中国の崩壊が始まる』梶井彩子(2020/02/08 22:14)
  20. ^ 最も重大な外交課題となった中国 政策シンクタンクPHP総研 主任研究員 前田宏子 20210430閲覧